包丁のトギノン ブログ

トギノン販売有限会社 包丁の製造販売店のブログです

品質?諸事情?

2018-02-27 | 包丁・刃物の鋼材について
品質?諸事情?

日々、段々とすごしやすくなり、ようやく暖かい日中が訪れそうですね。
さて、今回はとある国と鋼材の話です。

弊社は刃物を輸出しています。
昨年のある時、とある国から
「ニッケルが基準値より多く検出された。問題がある。」
と指摘を受けました。
皆様もご存知の通りステンレス刃物鋼材にはニッケルも含有されています。
ニッケルが検出されること自体は問題ないのですが、基準値を大幅に超えているといわれました。(規格基準値の10倍)
弊社の使用した鋼材は、鋼材メーカー大手の日本製のもの。
そんなはずはないと、弊社も日本の分析センターに調査を依頼しました。
結果....すべての規格基準値内に収まっていました。

再度、先方の検査機関に再検査を依頼。
そして検査結果は....またもや「ニッケルが基準値より多く検出された。問題がある。」とのこと。
しかも今度は規格基準値の3倍。

同じロットの鋼材でなんでこんな検査結果に差が出るのかは不思議で謎です。
そして弊社は再び日本の別の検査機関に調査を依頼しました。
結果....すべての規格基準値内に収まっていました。(前回他の検査機関での数値と同等でした。)

単純にニッケルが多いだけでダメなら18-10や18-8などのスプーンやフォーク、ステンレスボウル、ケーキの口金などなど刃物鋼材なんか比べ物ならないくらいヤバイんですが...。
そのあたりを問い合わせても明確な答えを現時点で頂けていません。

そこで、10年くらい前の出来事を思い出しました。
その出来事とは...クローム問題です。
当時、とある国に輸出した刃物が検査にパスできませんでした。
その内容とは
「クロームが基準値より多く検出された。問題がある。」
こちらも皆様もご存知の通り良質のステンレス鋼材にはクロームが含有されています。
こちらも検出されること自体は問題ないのですが、基準値を大幅に超えているといわれました。(規格基準値の約60倍)
再検査依頼→(規格基準値の約80倍)
????
弊社は日本の分析センターに調査を依頼しました。
結果....すべての規格基準値内に収まっていました。
困り果てていると、
その後、ある都市での暴動と合わせて日本製品不買運動が勃発。大使館も大変な目に会ってました。
事件もひと段落し、同じロットの製品を先方に送り再検査してもらいました。
結果は...すべての規格基準値内に収まっておりOKいただきました。

どうしてこうなったかは謎です。
弊社の製品は日本国内での検査に合格しており問題のあるような鋼材は使用していません。
とにかく、早く問題が解決出来るべく日々奮闘中です。








ダマスカス鋼(積層鋼材)の構成について2

2015-04-27 | 包丁・刃物の鋼材について
ダマスカス鋼(積層鋼材)の構成について2

ゴールデンウィーク間近!暖かい日が続いていますね。
でも、朝晩は冷えることもあるので、体調の管理には気をつけたいです。

今回はダマスカス鋼(積層鋼材)の構成について2をお話したいと思います。

以前、ダマスカス鋼(積層鋼材)の構成について1にて記しましたが、一般的にニッケルダマスカス鋼と呼ばれるものは軟鉄とニッケルの積層に「芯材」の熱処理で硬化する鋼材を使用して作られている。
つまり、「芯材」は非常に硬いのだがそれ以外は柔らかい金属を使用しているので、通常の割り込み材の包丁とさほど特性は変らないとお伝えしました。

それを踏まえて、最近は例外なダマスカス鋼もあります。と記しました。
今回はこの例外物について記します。

結論から言いましょう。
その違いは....軟鉄の部分に熱処理硬化する鋼材を使用しているものがある。です。

例を挙げてみます。
出刃や柳刃などの和包丁などで、日本鋼(芯材)と軟鉄(外側)の2層鋼のものがあります。
また全てハガネで作られた「全鋼」と呼ばれる和包丁があります。
2つの違いは大まかに記すと
「2層鋼」
芯材は熱処理硬化する切れ味の良い鋼材+外側は錆びにくい軟鉄でお手入れ簡単で研ぎやすい鋼材。
片側が軟鉄のため刃物が折れにくい。鞭性(じんせい)が弱くバネのようなしなりが出にくい。

「全鋼」
全てが熱処理硬化する切れ味の良い鋼材のみ使用。鋼材全体が硬く研ぎにくいが刃持ちが永く、錆びやすい。
全てが硬化する鋼材のため2層鋼より折れやすいこともあるが、鞭性(じんせい)が強くバネのようなしなりがある。

という特性を持ちます。

通常のダマスカスは2層鋼のような特性を持ちます。(模様もありますが)
例外なダマスカスは全鋼のような特性を持っています。

こうしてみると2層鋼のほうが使い勝手よさそうで優れた鋼材に見えますが、毎日使用のたびにお手入れをするプロの職人にとっては錆びや研ぎ易いことよりも、丈夫で曲がりにくくバネ特性の強い全鋼を好む方々が沢山いらっしゃいます。
そんな方々にも満足していただけるものが、例外のものとお伝えしたダマスカスの鋼材なのです。

前回に習い例を挙げます。
両刃の刃物鋼材ですが、簡単に言うと例外的なダマスカス鋼と呼ばれる16層の構成はこんな感じでつくられます。

1.スチール   (炭素含有率が低くく熱処理硬化しない鋼材)
2.ステンレス鋼(炭素含有率が高く熱処理硬化する鋼材420や8A、10Aなど。)
3.ニッケル鋼  (炭素含有率が低くく熱処理硬化しない鋼材)
4.ステンレス鋼
5.ニッケル鋼
6.ステンレス鋼
7.ニッケル鋼
8.炭素含有の高く熱処理硬化する鋼材 =「芯材」(V10やSUS440Cなど。)
9.ニッケル鋼
10.ステンレス鋼

↓(上記の組み合わせの繰り返し)

15.ステンレス鋼
16.スチール
これで16層。

通常のものとの違いは軟鉄の部分に熱処理硬化するステンレス鋼を使用します。
こうすることで、丈夫で曲がりにくくバネ特性の強い全鋼にちかい刃物が出来上がるのです。
なぜ、この例外的なダマスカス鋼が一般的に普及していないかというと
1.鋼材の材料費が高価になる。
2.一般的なものよりも鋼材製造技術が必要とされる。
3.熱処理加工も難しくなる。
4.研削加工も難しくなる。
など。幾つかの手間隙+材料費が必要となるから作られてこなかったのです。

実はこの例外的なダマスカス鋼を使用した和包丁があります。(和包丁なので両刃の刃物鋼材と構成は多少異なります。)
以前、「包丁の各部名称(和包丁:編)」で「一角 朧(おぼろ)」の柳刃をご紹介しましたが、この包丁も例外的なダマスカス鋼で作られているのです。
全鋼の特性に近いこの特殊鋼材を使用した和包丁。きっと、全鋼好みなプロフェッショナルな方々にもご満足いただけると思います。


日本鋼も
ステンレス鋼も
ダマスカス鋼も
ピンきりですよ。
鋼材名や構成、熱処理加工による硬度差、刃付け角度など様々な要因が貴方にとって最適な刃物を見つけ出すヒントとなります。
見た目は同じ様に感じても、使用してみると同じではありません。
それではまた。

ダマスカス鋼(積層鋼材)の構成について1

2015-02-25 | 包丁・刃物の鋼材について
ダマスカス鋼(積層鋼材)の構成について1

まだまだ、寒い日が続いていますが、夕方になるとだんだん日が長くなってきて春が近づいているのかなと感じます。

さて、今回はダマスカス鋼(積層鋼材)の構成についてお話したいと思います。
以前、このブログでも
■ダマスカス鋼について1
■ダマスカス鋼について2
でお伝えしたかと思いますが、一般的にダマスカス鋼と呼ばれ販売されているものは「積層鋼材」(クラッド鋼の一種)であります。
本物のダマスカス鋼もありますが、超貴重品のためコレクターが所有していたり、イギリス大英博物館に保存されているそうです。

つまり一般入手できるのはほぼ全てといって言いほど「積層鋼材」(クラッド鋼の一種)です。
※もちろん上記に当てはまらない特別で例外のものもあります。

今回はその「積層鋼材」(クラッド鋼の一種)の構成の違いをお伝えしたいと思います。
ダマスカス鋼の「紋様」を出すために積層鋼材を作りました。
それも複雑な紋様を出すために「多重積層化」しています。
16層、33層、65層など様々な多層鋼が鋼材が作られています。

例えば簡単に言うと一般的なニッケルダマスカス鋼と呼ばれる16層の構成はこんな感じです。

1.スチール  (炭素含有率が低くく熱処理硬化しない鋼材)
2.軟鉄   (炭素含有率が低くく熱処理硬化しない鋼材)
3.ニッケル鋼 (炭素含有率が低くく熱処理硬化しない鋼材)
4.軟鉄
5.ニッケル鋼
6.軟鉄
7.ニッケル鋼
8.炭素含有の高く熱処理硬化する鋼材 =「芯材」(V10やSUS440Cなど。安価なものは420系を使用か?)
9.ニッケル鋼
10.軟鉄

↓(上記の組み合わせの繰り返し)

15.軟鉄
16.スチール
これで16層。

ご理解いただけましたか?33や65層などもこの繰り返しです。
これは多層の芯材に炭素含有率の高い鋼材を使用し、それ以外は熱処理硬化のしない軟鉄やニッケル鋼を使用した「両刃刃物」用の鋼材。
一般的な両刃の洋包丁(三徳や牛刀など)に使われます。

このまま研磨してゆくとダマスカス紋様が綺麗に出ないので、鋼材表面をプレスやハンマーで打ち付けてデコボコにします。
芯材以外は熱処理硬化のしない軟鉄やニッケル鋼なので、その部分の層が比較的簡単に潰れたり変形します。
その後、研磨することであの斑なような紋様が浮かび上がります。

究極をいうと斑紋様以外は通常の「割り込み材」(3層鋼)と変りありません。
熱処理で硬化しない軟鉄系鋼材+熱処理で硬化する芯材+熱処理で硬化しない軟鉄系鋼材=3層鋼
「熱処理で硬化しない軟鉄系鋼材」の部分が幾重になっているかの差ですね。

ただ、3層より16や33などの多層のほうが鋼材や刃物を製造するにあたり、手間暇・技術を必要とするので高価になることは否めません。
でも、切れ味を左右する芯材が変らなければ切れ味自体に差は見受けられないのが現状です。

ただ、最近は例外なダマスカス鋼もあります。
この点は次回お伝えしたいと思います。

今回この様はお話をさせていただいたのは、あまりにも「ダマスカス鋼」だから切れるんだと思われているお客様が多いので。
各方面からご注意されるかも知れませんが、お客様により多くの判断基準を得て欲しいと思い記しました。
それではまた。

打ち刃物と鋼材会社の材料を使用した刃物 その5

2014-10-30 | 包丁・刃物の鋼材について
打ち刃物と鋼材会社の材料を使用した刃物 その5


前回は「鋼材会社の材料」の欠点というか弱点についてお話しました。
今回は良い点・優れたところです。
良い点としては、日本の製鋼会社は非常に優秀なんです。
それは各鋼材の構成成分をきっちり混ぜ合わせて、特殊な鋼材を作れる事。

例えば、日立金属の青紙1号。
以下の成分で作られています。
(公表されている成分表です。おそらく全てではないと思う。なぜなら混ぜ方や微妙な成分などは知らされていない。まぁ、そこが真似されないノウハウというか個々の鋼材会社の味付けなんだろうけど...何故って?詳しくは下記参照ください。)

C:カーボン 1.3~1.4%
Si:ケイ素 0.1~0.2%
Mn:マンガン 0.2~0.3%
P:リン 0.025%以下
S:硫黄 0.004%以下
Cr:クロム 0.3~0..5%
W:タングステン 1.5~2.0%
等を鉄に混ぜあわせています。

この成分をただ高炉の釜にいれ混ぜあわせるだけでは上手く均等に成分が行き渡りません。
ここをきっちりクリアできるからこそ日本のJIS規格に沿えるのです。
また、海外の製鋼会社を批判するわけではないのですが、日本のものと比べるとばらつきが多く感じられます。
何度か試しに使ったことはあり刃物の製造過程でも感じたのですが、味付けのレベルではありません。
これら成分表を参考に中国などではいわゆる「なんちゃって鋼材」が作られています。
同じような成分で安価なので飛びつき使い続ける刃物会社さんもありますが、刃物の製造中に錆びやすかったり欠けやすかったり脆かったりするので、安易に同等の鋼材料として使用するのは疑問を感じます。
当然製品になったあと使い続けても違いや不具合を感じることが出来るわけです。

なにが問題か?
感単に言うと1番問題なのは...成分が上手く混ざり合っていないのです。
さらに酷い時は含有されているはずの成分が抜かれていたり、入っていない成分が入っていたり、はたまた含有率が規格と大きく違っていたりすることもありますので、同等材料とならず問題が生じるのです。
日本の鋼材会社が長い年月試行錯誤し作り上げた鋼材。
それこそ成分表は出ていますが、混ぜる順番、温度、微妙な成分などは知らされていないのです。
すなわちそれは、そこに個々の会社が持つ「企業秘密」とも言うべき「隠し味」があるのです。
海外でもその点をよく理解している製造会社は、日本の特殊鋼材を輸入して使用しているようですよ。
まさにJAPANクオリティーのすごさが垣間見れますね。
様々な研究を元に今も尚、今までに無い新しい特殊鋼材が開発されており、またそれを安定供給させる技術の確立。
それこそが、「鋼材会社の材料」が優れた点ではないでしょうか?

(製鉄所の回転炉の様子)

それでは。





打ち刃物と鋼材会社の材料を使用した刃物 その4

2014-09-26 | 包丁・刃物の鋼材について
打ち刃物と鋼材会社の材料を使用した刃物 その4

前回は打ち刃物の鍛造の欠点というか弱点についてお話しました。
今回は「鋼材会社の材料」について述べたいと思います。

まずは欠点というか弱点からお話します。
日本には数多くの製鋼会社があります。
新日織住金
JFEホールディングス
神戸製鋼所
日立金属
日新製鋼
大同特殊鋼
愛知製鋼
などの大手製鋼会社があり、
さらに 2次加工を行なう「鋼材メーカー」も多数あります。
またさらにその鋼材を使い独自の特殊鋼を製造する会社も存在し多くの鋼材が作られています。
多くの鋼材というのは何でも同じというわけではなく、建築用、自動車用、刃物用、航空機用、パイプなど様々な用途に向けて製造されています。
すなわち「鋼材会社の材料」とは既製品というか市中に出回っている鋼材のことなのです。

ここからは刃物に使われる鋼材に関してお話してゆきます。
特殊刃物鋼は鋼材の中でも特別なもので、航空機や宇宙開発、自動車などの駆動部分などにも使われています。
ある程度の需要のあるものか、ピンポイントで需要が限定された鋼材しか製造していません。
もちろん各会社の売りというか技術を誇示するような特殊な材質もありますが、それぞれの規格に沿った製品であるわけでATS34やAUS8など決まった成分・製造方法で作られる鋼材が「鋼材会社の材料」に当てはまります。
この規格に沿った鋼材というのは困ったことに少量では製造できません。

昔は製鋼会社で最低2トン単位で特殊鋼を精製していたのですか、昨今は最低10トン単位からしか精製できなくなってきました。(精製炉の関係です)
これはひとえに多すぎる特殊鋼を売り上げベース、コストなどを考慮し間引かれてきているのです。
困ったことにSUS440Cや青紙などの高炭素含有の鋼材は市中にある在庫だけでもう作られないかも...という状態になっています。

鋼材メーカーが作らなければ手に入らなくなる、発注しても大量に精製しなくてはならない。
また、規格外の鋼材を作るには莫大な費用とノウハウが必要になってしまう。
この点が弱点でしょうかね..。

次回は良い点を記したいと思います。



話は変りますが、来る10月11日(土)、12日(日)は恒例の関市「刃物まつり」です。
今年で47回目となります。
10月10日(金)には関市役所にて「前夜祭」が開かれます。
今年から始まるの催し物なので楽しみです。


詳しくはこちらから
関市刃物まつり 公式ページ
http://seki-hamono.jp/

昨年の開催時の様子からマップ、ショップの情報が満載です。
ご興味のある方はチェックしてくださいね。

それでは、また。