田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『レッドオクトーバーを追え!』

2020-11-03 09:49:55 | ブラウン管の映画館

『レッドオクトーバーを追え!』(90)(1990.9.11.スカラ座)
コネリーだけではありません

 大西洋に突然ソ連の最新原子力潜水艦レッド・オクトーバーが出現する。米国への亡命を決意した艦長(ショーン・コネリー)が率いるソ連の原子力潜水艦をめぐる人々の思惑を描いたポリティカルフィクション。

 『ダイ・ハード』(88)のジョン・マクティアナン監督、そして現在絶好調のショーン・コネリー主演ということで、見る前からゾクゾクしてはいた。そして、久々の70ミリの画面に、所狭しとばかりに現れた巨大原潜に重なるオープニングクレジットを見て、期待はさらに高まった。脇役陣がいいのである。

 『ライトスタッフ』(83)以来、わがお気に入りのスコット・グレン、『オーメン/最後の闘争』(81)のサム・ニール、『シシリアン』(87)のジェス・エクランド、10年前に同じく海洋劇の『レイズ・ザ・タイタニック』(80)でヒーローを演じたリチャード・ジョーダン、そして説明無用のジェームズ・アール・ジョーンズ…。このキャスティングが生かされてさえいれば、面白くならないわけがないのである。結果、男ばかりのこの映画の核は、やはりこのキャスティングの妙にあった。

 さて、確かに現在の米ソ関係は、上辺では緩和されたように見えるから、この映画が描いたような緊張感はないのかもしれない。だが、今にしてもゴルバチョフがいなくなれば、再びこのような事態が生じても不思議ではない。だから、ゴルバチョフ登場以前にこうした映画を作ってほしかったなとど語る外野の声は無視してもいいだろう。

 実際、『眼下の敵』(57)の現代版とも言うべきこの映画には、一種のシミュレーションゲーム的な面白さがあり、映画化が難しいとされたトム・クランシーの原作を、見事に映画として成立させていた。

 ただ、惜しむらくは、CIAの一学者をヒーローに仕立ててしまった点で、それを演じた現代版ロック・ハドソンのようなアレック・ボールドウィンも、残念ながらこのキャスティングの中では見劣りする。

 この一点だけが最後まで引っ掛かったのだが、思えば、マクティアナンの前作『ダイ・ハード』も、事件には全く無関係の男がいつの間にか巻き込まれて主人公となる話であり、共通点があるとも言える。いかんせん、評判の原作を未読なので、どこまで監督の意図が反映されていたのかは分からないのだが…。

【今の一言】これを読むと、当時は、随分とゴルバチョフを高評価していたんだなあと思う。

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『ショーシャンクの空に』

2020-11-03 07:21:39 | All About おすすめ映画

『ショーシャンクの空に』(94)
希望を失わない心が大切と説く

 

 スティーブン・キングの中編小説『刑務所のリタ・ヘイワース』をフランク・ダラボンが監督しました。

 1947年、銀行員のアンディ(ティム・ロビンス)は、妻とその愛人を射殺した罪で終身刑の判決を受け、ショーシャンク刑務所に投獄されてしまいます。

 刑務所を舞台にした映画は、閉ざされた場所ゆえに現れる人間の本性という視点から、一般の社会とは全く異なる形で人生や自由の意味を考えさせます。

 この映画は、アンディを無実の罪とし、彼に不思議な魅力とカリスマ性を与え、逆に刑務所内の不正や暴力を描くことでひたすら彼の行動を応援したくなるように作られています。

 そして何十年もの間、こつこつと部屋の壁に穴を掘り続け、ついにはその穴を伝って脱獄を果たす彼の姿を通して、絶望の中でも希望を失わない心が大切だと説き、刑務所仲間のレッド(モーガン・フリーマン)も巻き込んでアンディにさらなる奇跡を達成させるのです。アンディがまいた希望の種がレッドを通して花開く友情の物語としても忘れ難いものとなりました。

 また、アンディの独房の壁に貼られたリタ・ヘイワースのポスターが、マリリン・モンロー、ラクエル・ウエルチへと変化していくことで時代の流れを見せるなど、原作にはない伏線を張り巡らせたダラボンの脚本のうまさが光る映画でもあります。

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『本気のしるし≪劇場版≫』

2020-11-03 00:29:26 | 新作映画を見てみた

 深田晃司監督が、星里もちるのコミックをドラマ化したものに、未公開シーンを加えて再編集し、劇場版として公開。今年のカンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション「カンヌレーベル」に選出された。全編232分(3時間52分)。

 会社員の辻一路(森崎ウィン)は、ある夜、踏み切りで車が立ち往生していた葉山浮世(土村芳)の命を救う。その後、辻は浮世と関わったばかりに次々とトラブルに巻き込まれていくが、なぜか彼女を放っておけない。そして、いつしか破滅への道を歩み始める。

 最初は、とにかく浮世の言動にイライラさせられ、「この女は何なんだ!」という怒りすら覚え、おいおい、これを4時間近くも見せられるのか…と、早くもくじけそうになった。

 ところが、浮世の行動にイラつき、翻弄され続けながらも、何故か彼女を見捨てられず、泥沼にはまっていく辻の姿を見ているうちに、一体これからどうなるのかという好奇心が湧いてくる。その意味では、2人の関係に興味を示す、北村有起哉が演じた闇金業者の脇田が観客の代弁者だとも言えるだろう。

 そして、途中から、これは、どうしようもない男と女のラブストーリーであり、シュールなコメディーなのだと気付くと、何だか愛着すら湧いてきて、いつの間にか時間を忘れて見入り、気が付けば4時間近くも付き合わされていた。これは、見事に深田監督の術中にはまったと言うべきか。とにかく森崎と土村が素晴らしい。こういう映画を認めたカンヌ映画祭をちょっと見直した。

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