図書館から借りていた、藤原緋沙子著 「雪舞い」 (祥伝社文庫)を読み終えた。
本書は、著者の長編時代小説、「橋廻り同心・平七郎控・シリーズ」の第3弾の作品で、「第一話 道連れ」「第二話 木守柿(きまもりがき)」「第三話 絆」「第四話 雷鳥」の、連作短編4篇が収録されている。
「橋廻り同心・平七郎控・シリーズ」は、江戸北町奉行所の「橋廻り同心(はしまわりどうしん)」となり、北町奉行榊原主計頭忠之(さかきばらかずえのかみただゆき)から、「歩く目安箱」としての特命を受けた立花平七郎が、新人同心平塚秀太、読売屋(瓦版)「一文字屋(いちもんじや)」の女主人おこう、その使用人辰吉、元船宿「おふく」のお抱え船頭源治等と共に、橋にまつわる様々な事件に対して、その事情を探り、絡み合う悪事や謎を解明、愛憎乱れる深い闇を、剣と人情で解決していくという、悲喜こもごもの長編時代小説である。
「橋廻り同心」とは、正式には、「定橋掛の同心」のこと。
「定橋掛(じょうばしがかり)」とは、縦横に水路が張り巡らされ、125余の橋が存在した江戸で、その橋や下の川を点検管理をする、南、北奉行所の一部門、南、北奉行所それぞれで、与力一名、同心2名が担当していたのだという。
「橋廻り同心」の仕事も重要な仕事だったはずだが、奉行所内では、十手をかざして華々しく事件捜査をする部門「定町廻り同心」に比して、十手ではなく、木槌を手にして橋桁や欄干等を叩いて回り点検管理する姿は、侮蔑の目で見られ、年老いたり、問題を抱えた、与力、同心が就く、閑職と認識されていたのだという。
生前、「大鷹」と異名をとった「定町廻り同心」の父親の後を継ぎ、北辰一刀流免許皆伝で、かって、「黒鷹」と呼ばれる程、活躍していた平七郎が、曰く、事情が有って、「橋廻り同心」に左遷されてしまうが、持ち前の正義感、人情で、「橋廻り同心」の職掌を越えて、多くの事件を解決していくという痛快物語であり、ヒロインとも言えるおこうとの恋模様が織り込まれた物語である。
読んでも読んでも、そのそばから忘れてしまう老脳。
読んだことの有る本を、うっかりまた借りてくるような失態を繰り返さないためにも、
その都度、備忘録として、ブログ・カテゴリー「読書記」に、書き留め置くことにしている。
「第一話 道連れ」
▢主な登場人物
阿久津一学(あくついちがく、旗本)・八重、井田(阿久津家用人)
加賀屋与兵衛(小間物屋)、勝三(加賀屋手代)、松吉(加賀屋丁稚)、里絵(平七郎の母親)
お玉(船宿梅よし女将)、おみき、
おこう(読売屋一文字堂店主)、辰吉、
おふく、源吉、
▢あらすじ等
冒頭に、相対死(心中)で生き残った女の晒刑、主従の関係で死罪となる場面が登場する。
本篇の本筋とは無関係でありながら、返済能力を超えた500両の借金に苦しみ、
婿養子で正直を通す旗本、阿久津一学の悲劇が、重なってくる物語になっている。
「第二話 木守柿」
▢主な登場人物
上村左馬助(かむむらさまのすけ、道場主)、お妙、
万蔵(雪駄屋)、お信、
スズメバチの銀八(岡っ引き)、亀井市之進(定町廻り同心)、工藤豊次郎(定町廻り同心)、
日野屋長兵衛・おむら・お初、おはま、
大村虎之助(平七郎の上司)、
▢あらすじ等
千鳥橋の西詰の袂にある柿の木をめぐって争っていた子供達の仲裁をした平七郎、
雪駄の鼻緒が切れ、露天の雪駄屋万蔵に直してもらうところから物語が始まるが、
その万蔵が、高松屋押し込み事件
関与の疑いで、スズメバチの銀八(岡っ引き)に、連行され・・・。
紋付袴の長兵衛と女房おむら、そしてその後に、婿を先にしてしずしずと白無垢のお初が
近づいてくるのが見えた。
・・・・あの履き物が・・・・、
お初は、万蔵がつくった履き物を履いていた。
・・・・
平七郎は、ふっと万蔵のいる辺り、橋の東の袂を見た。
万蔵は二の腕を目に当てて泣いていた。側でお信が臆面もなく涙を流していた。
しっかり見ないか、万蔵、お前の娘を・・・、
平七郎は、心の中で、万蔵に叫んでいた。
「第三話 絆」
▢主な登場人物
亀次郎(本舗万亀堂主)・お菊
万太郎(元祖万亀堂主)・お梅、
与助・おつま・新助、
三崎常次郎、百蔵、捨蔵、
▢あらすじ等
東堀留川に架かる思案橋の見回りを終えた平七郎と秀太は、思案橋北側の本舗万亀堂に立ち寄るが、
思案橋の南側の元祖万亀堂との兄弟の争い問題が抜き差しならないことを知る。
元祖万亀堂の主、万太郎が拐かされ・・・、
お梅は、亀次郎に手をついた。
「やめろ、お梅、他人じゃないんだ」
亀次郎は、不機嫌な言い方をしたが、照れくささを隠すためだと平七郎には分かった。
「第四話 雷鳥」
▢主な登場人物
桑山孫左衛門(孫さん、船宿東屋の船頭)・芳野、友田太一郎、
但馬彦四郎(亀井藩江戸用人、孫左衛門の竹馬の友)、市岡盛之助、
おまき(船宿勝田屋女将)
省吾・おみよ、
▢あらすじ等
隅田川の今戸橋の見回りを終えた平七郎と秀太は、橋の下で都鳥にさかんに餌をやっている
船頭姿の初老の男を見掛け声を掛けたが、その時、「助けて・・、孫さん、お助け下さい」と、
女が叫びながら走ってきた。
一方で、新大橋の上では、父親を捜し歩いているという若い武士、亀井藩の友田太一郎が、
3人の覆面の武士に襲われ、平四郎が駆けつけたが、左腕を斬られた。
孫さんとは?、太一郎とは?、
孫さんは、元々船頭では無く、亀井藩の下級武士桑山孫左衛門、
国元を追放になった暗い心の闇が有り・・・。
そのすべての始まりは、市岡盛之助の横恋慕からだったことが明らかになり・・・。
「あっ、平さん、飛びましたよ」
秀太が叫んだ。
白い羽を広げて、都鳥の親子が飛んだ。
(つづく)