◯自動車運転免許取得事情
昭和30年代中頃、M男が北陸の山村の親元を離れ、地方都市の学生寮に入寮し、生まれて初めて、外で集団生活を始めた頃の話である。
記憶は定かで無くなっているが、確か、入寮してから半年余り経過した秋のことだったと思う。学内のクラブ活動部だったのかどうかの記憶曖昧だが、「自動車部?」、「自動車クラブ?」の、「運転免許証を取りたい者集まれ・・!」的なポスターだったかチラシだったかが、寮にも回ってきて、「ベラボーに安い講習費で運転免許が取れるぞー」と言った雰囲気が漂ったような気がする。ただ、そうであっても、金銭に余裕等無しの貧乏学生の集団、おいそれと申し込む者等、ほとんどいなかった気がするが、たまたま、M男には、そのタイミングで、臨時収入?が有り、これ幸いと申し込んだような気がする。
それは、当時、日本育英会の貸与額は、月額2,000円だったが、入寮してまもなく、増額申請をして認められ、申し込んだ月まで遡って、その差額が一時金として受領出来たからだった。その合計額はわずか6,000円だったが、M男にとっては大金。本来は、のちのちの学費や寮費支払い等充当するべきものではあったが、後は野となれ山となれ、その一部活用?で、その運転免許講習が受けられることが分かり、またとないチャンス、逃してなるものか、同室の先輩等にも相談したりしたはずだが、思い切って、運転講習を受けることにしたのだった。当時はまだ、M男の郷里、北陸の山村では、マイカー(乗用車)等所有している家は皆無で、貧乏だった家のM男等は、自分が乗用車を運転するなんてことは夢でしか無かったものだが、一躍先頭に躍り出たような気分がしたものだった。
いざ、運転講習へ。ところが、指定された講習日、講習場所へ行って、びっくり。建設ゴミ置き場の如くの草茫々のだだっ広い空き地、車1台通るだけの凸凹道が、ぐにゃぐにゃ有るだけの荒れ地。車ときたら、ポンコツ車数台、一度エンストしようものなら、前に回って、クランク棒を回しエンジンを掛けないとならない代物、学生のやること、廃車寸前の車を譲り受けて、運び込んだものだったのだろう。ブルン、ブルン、ガタン、ゴトン、半クラッチ、坂道発進等、微妙なエンジン音の変化等、分かるはず無しの代物だったが、何しろ、生まれて初めて乗用車のハンドルを握り、運転する興奮が有った気がする。講習が、何日間有ったのかの記憶も無くなっているが、当時は、現在のように自動車運転教習所で所定の教習を受けなければ、免許取得出来ない・・というのではなく、いきなり試験場に申し込み、合格しなければ、何回でも受け、免許取得出来た時代だったようで、M男も、自信等有ろうはず無かったが、講習を受けた皆と共に、運転試験に臨んだのだった。(もしかしたら、モグリだったのかな)。今でも覚えているのは、最初に運転した試験車は、テールランプが縦型のセドリックだった(と思う。当時は車の車種もなにもあまり知らなかった)。講習で、ガタン、ゴトン、ブルン、ブルン、空き地で運転したポンコツ車とはダンチであり、まず面食らい戸惑ったが、次第に馴れて、運転免許試験であることすら忘れ、乗用車を運転出来ることにウキウキ、気分良しだった気がする。試験官に、「どこかで運転してたんじゃないの?」って言われて、どう答えていいか分からなかったことが思い出される。ただ、所詮、まともな車で運転練習もせず、学科も、本屋で買った教本、問題集を一夜漬けで臨んだといういい加減さ、実地、学科で、2回、3回落ちた気がする。試験には、1回毎に受験料?が必要で、それがもったいなくて(あるいは、足らなくて)、どんどん、日にちが過ぎてしまい、結局、全部合格し、運転免許を取得できたのが、年末ギリギリ、12月26日だったようだ。当然、その年末年始に帰省した際には、そのことを家族に事後報告したと思うが、「車」、「運転」等に無縁な家族は、びっくり仰天、「なんということを・・」と叱られたような気がする。とりあえず、運転免許証を取得したと言っても、運転する機会等有る分け無しの学生寮生活、実際に一般路上で初めて運転したのは、就職して数年後、運転免許取得してから7~8年後のことで、今でも覚えている。その頃出回り始めたばかりの360CC軽自動車だった。長期出張で勤務先から貸与された車、いきなり運転することになり、どぎまぎ、勝手分からず、緊張、失敗、こっそり、人車の通らない田舎道で、練習したものだった。その場所は、広島県福山市の、直ぐ近くに大きな川が有った気がする道路だった。待った無しの営業で、初心運転者が、よくもまあ、尾道、世羅、御調等を地図を見ながら走り回ったものよと思う。最初に運転免許取得してから60年が過ぎ去り、無事今に至っているが、あの日、あの頃が、遠い昔のことのようにも、昨日のことのようにも思い出される。
最初から
免許の種類=「普通」「自動二輪」
となっていた免許証。
(注)現在の免許の種類は 「中型」「自動二輪」に変わっている。
(つづく)