草枕

都立中高一貫校・都立高校トップ校 受験指導塾「竹の会」塾長のブログ
※2015年10月より竹の会公式HP内にブログ移転

炎天の夏に心を無にしてただひたすら無為に背を向ける

2009年07月19日 17時35分07秒 | 
 夏というのは実はこれほど大事な時はない。
 夏にまつわる話しを少し。
 私の高校では, 夏1日10時間勉強した者は, 東大・京大に受かると言われた。今のようにエアコンが各家庭に普及していなかった時代の話しである。その実例としてよく私のよく知っているH先輩の名前があげられた。京大に現役合格したその先輩は私の家の向かいに住んでいたのだ。
 炎天の夏に4畳半1間のアパートの中で扇風機だけをたよりに汗をだらだら流しながら, 来る日も来る日も勉強に没頭したI君は司法試験に27番で合格した。
 オンボロ木造アパートの部屋というのは, 筆舌に尽くしがたい地獄のような暑さだ。その中で10時間黙々と本を読むのだ。考えてみればこういう悪環境だからこそがんばれるのかもしれない。エアコンの効いた部屋ではいつのまにか弛緩してうとうとと心地のいい眠りに襲われてしまう。悪環境だから逆にがんばれるということもある。世の中には自分の部屋がないから, 勉強できない。エアコンがないから勉強できない。参考書がないから勉強できない。といろいろ勉強できない理由をあげて勉強しない人が多い。いい机を買ってもらい, エアコンをつけてもらい, 至れり尽くせりの環境を整えてもらっても, 勉強できない原因は無限に上げ続けられるであろう。勉強は何かがないからできないというものではない。いや逆に何かがあるためにできないことのほうが普通なのだ。何もないほうが勉強はできるのだ。みかん箱のほうが勉強はできるのだ。いい机なんか買ってもらってもいざ机について勉強も上の空の自分に気がつくのが関の山だ。
 中3のとき竹の会で学んだ赤貧のX君の話し。お母さんが病気がちで入退院を繰り返し, お父さんは夜警の仕事で生活を支えていた。X君は夏でも何回も洗濯したに違いないシャツとジーパンを着まわしていた。話しに聞くとアパートは1間しかなく蒲団はいつも部屋の隅に重ねられていたという。もちろんエアコンもない。そういう中でお父さんは借金をしながら, 一人息子の教育費やら塾代やらを工面したという。その彼が都立青山に行き, 3年間学年1番をとり続け, 現役で東大に合格した。あれから十年余の歳月が流れた。今では苦労して息子のために頑張ってきた両親のために今度は彼が一生懸命働いてきた両親をいたわりながら大切にしていることであろう。
 何もないから勉強できるのだ。私の大学時代の級友で現役で司法試験に合格したE君が合格直後に偶然に大学の図書館で出会ったときに言った言葉は長く印象に残った。「あっ, こんな時間だ。無為に時間を過ごしてしまった」と。彼はひたすら無為に背を向けて生きてきたのだと思う。パチンコなども彼には無為なことであったのだろう。コンパでは1,2回, 顔を合わせたが, たいていは彼は自宅と大学を往復するだけで勉強ばかりしていたのだろう。
 勉強するには, えんぴつとノートがあればいい。後はひたすらに教科書を読むだけである。してはならないのは無為と目を合わせることくらいである。無為は悪魔の誘いである。悪魔は甘い罠を次から次にしかけてくる。無為を見てはならない。無為を正視したものは無為に囚われる。呪いにかかった心は常に「何かが足りないから勉強できないんだ」とささやきかける。無為を見るのは際限なく「足りない」もの求め続けて結局1秒だって勉強することはない。勉強に目を向けることはない。
 夏という逆境こそ無為に背を向けて勉学に勤しむ絶好の機会である。
 共にこの夏を有為に乗り切ろう。
この記事についてブログを書く
« 20日は1時から6時です! | トップ | 部活と参考書 »