草枕

都立中高一貫校・都立高校トップ校 受験指導塾「竹の会」塾長のブログ
※2015年10月より竹の会公式HP内にブログ移転

納屋味先生の独白(10)

2004年12月30日 10時05分37秒 | 
「先生、それが朝起きて顔を洗おうと水場までいき、何かの調子でひょいと屈んだときに腰のあたりがずきんときましてね、それでもうだめです。ようやくの思いで近くの整形外科に転がり込んだんですよ。」と角野君がしかめ面して話す。  角野君は、2週間ほど前にぎっくり腰になったとかで、あちこちの医者に診てもらったがいっこうによくならないと不満顔だ。  「先生、そりゃーあ、痛いもんですよ。激痛とはこのことですよ。 . . . 本文を読む

納屋味先生の独白(9)

2004年12月27日 01時08分12秒 | 
「先生、例の金田の野郎には娘がいましてね、その娘が親に似ずこれまたちょっとした小町娘ってとこなんですよ。」とげんさん息が荒い。  先生は、ふんといった顔でひげをなでている。側から、角野君が口を出す。  「そうなんですか。これは知らなかった。今度是非見てみたいものです。その評判の美人とやらを。」となにやらにやにやして、しまりがない。  げんさんが続ける。  「いや、その娘のことなんでが、最近どうや . . . 本文を読む

納屋味先生の独白(8)

2004年12月23日 11時38分19秒 | 
「先生、あっしら貧乏人には死ねということなんですかねー。」  げんさんの声がする。ひょいと庭を覗き込むと、げんさんが日あたりのいい縁側で茶をすすっている。  私は、庭の木戸をくぐると、「先生、こんにちわ。げんさんどうも。今日はいい天気でよかったですね。げんさん、もう終わったんですか。」と声を弾ませる。  「いや、なに先生にちょっといじってくれといわれて、気に入ってもらえたかどうか。」とげんさん、 . . . 本文を読む

納屋味先生の独白(7)

2004年12月21日 10時01分39秒 | 
「先生、角の金田に泥棒が入ったらしいですよ。」とげんさんが、例によってひょうひょうと話し出す。  げんさんというのは、例によって先生のつけた呼び名で、本名は椎葉寅吉、年の頃は四十そこそこ、仕事は大工、本人によれば京都で宮大工の仕事をしていたが、仕事がなく、転々と流れてようやくこの辺りに落ち着いたということだ。先生が床の間を増築したときからこの家に出入りしている情報通だ。  げんさんは、皿に盛られ . . . 本文を読む

吾輩は亀である(7)

2004年12月19日 12時12分46秒 | 
今日は天気がいい。今日は、午後から新宿のデパートに出かけると細君に話しているのが聞こえてきた。靴の修理というからたいした用事でもなさそうだ。痛風の足を引きずって行くらしい。もう行く時間がとれないということで決心したらしい。このところ食欲がまるでない。2、3日前に主人が心配そうに覗き込んできた。大好物の干したえびを少し食べたら、主人が喜んで今度はカメのえさを放り込んできた。さすがに食べられなかった . . . 本文を読む

納屋味先生の独白(6)

2004年12月18日 09時16分18秒 | 
「先生、それでは置いていきます。また近くに寄せてもらいます。先生もたまにはお店の方に寄ってくださいよ。」  声の主は青山の骨董屋の主人だ。先生は勝手に珍品堂などと呼んでいる。この男、歳の頃は五十かそこら、中々如才ない物言いで、目利きを思わせる風情がある。小柄だが着物をさらりと着こなし、多少うさんくさいいかにも骨董屋風といったいでたちでやってくる。品のいい眼鏡を通して見える眼光は鋭い。  ときどき . . . 本文を読む

納屋味先生の独白(5)

2004年12月17日 01時05分32秒 | 
「先生、逃した魚は大きいって、言いますよね」と角野君、  先生は黙ってほうじ茶を美味そうにすすっている。  「角野君、ふられたってことですか」と、ぼくは揶揄する。  角野君は、無視して、話を続ける。  「先生、是非紹介してください。お願いします」と、真顔。  角野君、どうやら先日、先生の家で見かけた女性のことが気に入ったらしい。先生のお話によれば、その女性は、慶応大学の学生で、最近、先生の話を聞 . . . 本文を読む

 納屋味先生の独白(4)

2004年12月14日 13時18分31秒 | 
「先生、いますか」  迷羊君の声がする。玄関先に置いてある甕の中では、例の金魚が元気良く泳いでいた。書斎で昼寝していた先生がむっくり起き上がる。珍しく友人を連れてきたとかで、迷羊君元気がいい。「先生、こいつは僕の後輩で司法試験の浪人なんです」  先生は繁々と眺めてから「大學はどこですか」と聞く。「金沢大です。私は・・」と言いかけると、「そうですか、犀角君でいいですか、そう呼ばせてもらいますよ」と . . . 本文を読む

吾輩は亀である(6)

2004年12月14日 08時37分04秒 | 
主人が元気がない。吾輩は2日ほど水なしで放りぱなしだ。バタバタしていると気がついたらしく水を入れてくれた。暫く水の中で一息ついていたが、復、岩場に上がった。しかし、主人の方は知らん顔だ。咳が止まらないのが苦しいらしい。九州にいる主人の姉という人から電話があった。なんでもクールワンとかいうクスリが効くというので早速、細君に買ってきてもらっていた。効能書見ると、肝機能障害に注意とか結構危ないクスリら . . . 本文を読む

納屋味先生の独白(3)

2004年12月11日 22時13分56秒 | 
「先生、大丈夫ですか」と私が声をかけると、先生は、ゴホゴホと咳き込んだまま返事ができない。暫くしてようやく咳がとまると、冷たくなったほうじ茶をぐいっと飲み干し、傍にあった龍角散を手際よくポンと口へ放り込む。「咳には決定打はないよ。どうしたものか忌々しい。ところで迷羊君、そのみたらし団子をもらうよ」と、卓台にあった団子を1本ひょいととり、もぐもぐ食べる。東急東横で買ってきた団子は、先生の好物で私は . . . 本文を読む

我輩は亀である(5)

2004年12月11日 13時07分03秒 | 
主人の痛風が出てから今日で丁度1週間が経つ。「まだ少し腫れが残っている」と細君に話す声が聞こえてきて眠りから眼を覚ます。我輩は本来冬眠状態のはずだが、生まれてこの方、冬眠の経験がない。主人は我輩がえさをいっこうにとらないのであきらめたらしく、近頃は日当たりのいいガラス越しにほったらかしだ。  主人にとっては、今はむしろ風邪のほうが懸念材料だ。憎々しいウィルスは喉を通り越していよいよ気管支の入り口 . . . 本文を読む

納屋味先生の独白(2)

2004年12月10日 09時44分50秒 | 
先生の家の門戸を開けて中に入ると、なにやら声が聞こえてきました。私は、すぐに先客が角野君であるとわかりました。角野君はどこやらの役人をしている男で、いつの頃からか先生の家に出入りするようになりました。角野君はなかなかの論客なのですが、とにかく声がでかいのです。先生は珍しく座敷で角野君と碁を囲んでいましたが、私の顔を見ると、さっさとやめてしまい、傍にあった冷めたほうじ茶をごくりと飲むとごろっと横に . . . 本文を読む

我輩は亀である(4)

2004年12月09日 00時35分56秒 | 
主人は毎朝7時に決まって起きてくる。起きてくるとまず我輩をチラッと覗き込む。痛風はそれなりに腫れている。主人はあきらめた表情で所在無げに座り込む。「どんないい本も、結局ひとつのことしか主張してないな」と突然つぶやく。家人はまだ起きてこないので、話を聞くのはたいてい我輩だ。「養老さんもいろいろ本を書いてるけど、結局どの本も同じことしか言ってないよな」。「安保さんも、免疫ということで何冊も本書いてる . . . 本文を読む

納屋味先生の独白(1)

2004年12月08日 10時38分10秒 | 
今日お話しするのは私の知り合いの納屋味先生のことです。こういう「私」とは小説の中に出てくる正体不明の私と同じです。あしからず。  さて、私はふとしたことからこの納屋味先生と知り合うことができ、以来なぜか気になって納屋味先生のお話を聞くために先生の家に出入りするようになったのです。  先生の家は東京の片隅にポツンとありました。本当にポツンなのです。なにやら昔風の引戸式の門戸をガラガラと開けると小さ . . . 本文を読む

我輩は亀である(3)

2004年12月07日 13時26分33秒 | 
主人は、昨日から痛風が出たと落ち込んでいる。主人の痛風はもう4年も5年も前に遡る。主人はクスリ嫌いでここ3年はクスリなしで平気だった。痛風は東京女子医大がいいと聞いて4、5年前に2ヶ月ほど通院してみたが、やたら検査ばかりやり、大量のクスリを渡されるのに不信感をもち、以来パタリと行くのをやめたらしい。それからこの方医者なしでなんとかやり過ごしてきた。それがここにきて突然の発症だから内心びくびくもの . . . 本文を読む