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ボクシングレヴュー

「TM」はタイトルマッチ、階級名につく「S」はスーパー、「L」はライトの略です。

WBA世界Sフライ級TM セレス小林vsアレクサンデル・ムニョス

2002年03月09日 | 国内試合(世界タイトル)
自分の好きな選手が負けるのを見るのは、いつだって辛い。
しかし文章を書くためには、やはりテープを巻き戻さなければならない。
まぁ誰に頼まれたわけでもないのだが、それでも書かずにはいられない。

セレス小林が、ベネズエラからの挑戦者アレクサンデル・ムニョスに
5度のダウンを奪われ8ラウンドTKO負け、2度目の防衛に失敗した。

こうして結果だけ見ると、ここまで21戦全勝全KOの挑戦者が噂通りの
強さを見せつけ、またKOの数を増やす圧勝で王座に就いた、という
イメージを持たれそうだが、そう書くにはどうも違和感を拭えない。

それはまずムニョスに戦績ほどの凄さが感じられなかったこと、そして
何より、小林の見事な試合振りと、最後まで尽きなかった闘志のせいだ。


確かにムニョスのパンチは強かった。体全体がムチのようにしなり、体重が
乗っているからだろう。身体能力の高さを感じた。ああいうパンチが打てる
日本人はいないだろう。しかしディフェンスは甘く、パンチはラフでスタミナも
ない。つまり穴だらけの選手だった。言い換えればその穴を攻撃力で埋め、
力で無理矢理押し切ったに過ぎない。

小林がガード主体のディフェンスだったのも幸いした。あの破壊力なら、ガードの
上からでも効くだろう。もしスウェーなどの「当てさせない」ディフェンスが
出来る選手、例えばWBC同級王者の徳山昌守なら、ムニョスのパンチをかわし
続け、ジャブで翻弄して判定勝ちするのではないだろうか。

小林があれほど倒されたのは、ムニョスにとって相性の良い相手だったから
だろう。先に挙げたディフェンススタイルの相性。また、緻密に試合を組み立てる
小林に対し、ひたすらラフな壊し屋ムニョス。ムニョスは予想されていたほど
「天才」でも「怪物」でもなく、王座は恐らく短命に終わるだろう。


この試合をムニョスのワンマンショーにさせなかった、小林の頑張りも特筆すべき
だろう。ムニョスのハードパンチで何度も倒されながら、最後まで諦めず立ち
上がって攻め続けた。あんなに立ち上がれる選手はそうそういないだろう。

また決して一方的にやられたわけではなく、小林もボディを中心にムニョスに
ダメージを与えていた。ピンチの際に大振りになってしまったことは悔やまれ
るが、あと一発か二発いいパンチが入っていたら、ムニョスが倒れていたという
場面さえあった。小林は最後まで小林らしかった。本来の緻密な攻めを捨てて
玉砕戦法に出たにもかかわらず、僕にはなぜかそう思えた。

それは小林の最大の魅力である「最後まで勝負を投げない」という点を改めて
見せつけられたからだろう。あの危険な打ち合いも、相手のラフな戦法に
「このままでは潰される」と判断した小林が取った起死回生の手段だったはずだ。
結局それは成功せず打ち倒されたわけだが、小林本人も「勝負に行って倒された
のだから仕方ない」と試合後に話している。その点については悔いはないようだ。


今回はムニョスのパンチ力と身体能力に敗れたような形だが、戦略面では決して
負けてはいなかったと思う。あともう一つ二つの上積みが出来れば、勝てない
相手ではない。29歳という年齢のこともあり、そう簡単にはいかないかも
しれないが、出来ればまた世界の舞台で小林のボクシングを見てみたい。