琉球空手、ばか一代 (集英社文庫)今野 敏集英社このアイテムの詳細を見る |
「琉球空手、ばか一代」今野敏
「惣角流浪」から2、3作品ほど読んでみた。なんというか、この人はもっとカタい硬質な文章の持ち主だと思ってたのだけど違った。エッセイだからか肩の力がすとんと抜けていて、いい意味で適当で、読みやすく笑えた。
お題は「空手」。自身で「今野塾」という空手団体を創始した作者が、空手に関する理想や思い出を語っている。
理想の部分を一言でいうなら、「古流の空手のシンプルさと必然性を取り戻したい」。ということ。時代の変遷とともに競技化された空手を、本来のあるべき姿に戻したい。損得のない「道」へ原点復帰したいということで、琉球空手の成り立ちや、「空手バカ一代」などの劇画によっていかに現代空手が誤解されていったかなど、内容がいちいち興味深い。
思い出は、まあそのまま今野少年の若かりし頃なんだけど、これがけっこう軟弱で面白い。「痛そう」とか「疲れそう」とか、のちに空手団体を創始するとは思えぬほどに惰弱な理由で、なかなか空手を始めようとしない。茶道やら演劇やら、およそ武道とはまったく関係のないとこから「空手」に憧れている今野少年の視点にはすごく納得いく。格闘技に興味ばりばりなのに「目が悪いから」という理由でいっさい打ち込んでこなかった僕なので、痛いほどによくわかるというか。
空手の話なのに体育会系な武勇伝があまりないのも好印象。遅くなってから始めたせいで、作者自身がそういったものに触れる機会が少なかったようだ。その代わりというか、体育会系女子編集Oの逸話には凄まじいものがある。あなた女性ですよね? と聞きたくなってしまった。
とまあ、全体的に面白いのだけど、後半ちょっとだれるかな。社会人になってから今野塾を作るまでの一連の流れが退屈。若さ故の暴走とか無思慮のエッセンスがなくなると「ふつー」になっちゃってダメだね。
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