はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

パラレルワールド・ラブストーリー

2009-11-01 08:20:55 | 小説
パラレルワールド・ラブストーリー (講談社文庫)
東野 圭吾
講談社

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 君が欲しい 今でも欲しい 君のすべてに泣きたくなる
 あの日君に 会わなければ 違う生き方僕は選んでいた

「パラレルワールド・ラブストーリー」東野圭吾

 この歌詞は、大江千里の「格好悪い振られ方」の一文だ。若い人たちのために一言で説明するなら、槇原敬之のメガネバージョンだ。テンポよいピアノのリズムにはきはきした声質がのっかった曲で、最初から最後までひたすらに「男の未練」が歌い込まれている。
 本書のテーマも男の未練だ。高校時代の片思いの女の子・麻由子が時を経て社会人になり、親友・三輪の彼女として現れた。その瞬間、主人公・崇史の人生は変わった。嫉妬の鬼となった崇史は、足にハンディがある三輪がようやく手に入れた理想の彼女・麻由子を、あらゆる手段をこうじて略奪しようと試みる。しかしなかなかうまくはいかず、3人の関係は徐々にぎくしゃくして、ついには破局へと向かうのだが、ある日目覚めると、麻由子は崇史の恋人になっていた。2人は公認のカップルで、すでに同棲しており、三輪の姿はどこにもない……。
 なんだ夢だったのか、めでたしめでたし、となればいいがそうもいかない。記憶の矛盾と現実の錯誤の中に真実を見つけだそうと、崇史は孤軍奮闘するのだが、そこには驚くべき事実が待ち受けていて……。
 
 恐ろしい小説だった。時にページをめくる手を止めて小休憩を挟まなければならないほど、心理的にくるものがあった。
 理由ははっきりしている。過去の自分の弱さや失敗と向き合うような展開が辛かったのだ。親友の彼女に懸想する、だけならまだしも奪い取ろうとする、なんて男の風上にも置けない屑野郎のすることだが、そんなことはわかっているのだけど、それでも欲しいものっていうのが世の中にはある。僕にもあった。それまでの僕には考えられないことだけど、でも僕は狂ってしまった。結果、大切なものを失った。
 男ってのは未練深い生き物だと思う。別れた彼女の事を何年も何十年も思い続ける、みたいな部分が普通にある。おうおうにして彼女のほうはきれいさっぱり忘れているのだが、男の中ではラブストーリーは続いているわけ。
 本書はそこに「記憶」という要素を加えミステリ化したもの。相反する記憶たちの連続の先に、とんでもなく切ないラストが待っている。エンディングには、是非この曲を流してほしい。
 君が欲しい 今でも欲しい……♪

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