はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

ブレイクスルー・トライアル

2007-03-14 22:17:43 | 小説
「ブレイクスルー・トライアル」伊藤旬

下手な直木賞受賞作よりも売れてるとかいう噂(本当だとしたら嘆かわしい)の「このミステリーがすごい!」大賞受賞作。という割には小粒な印象の本作。
北海道の原野に聳えるハイテク・セキュリティ研究所に忍び込み、規定のマーカーを持って来れれば1億円。耐障害性を宣伝する為の公開セキュリティアタック……ようは金庫破りのお話。主人公門脇は当該セキュリティ会社の元スタッフで、旧友丹羽の誘いに応じてこのレースに参加した。他にも宝石店強盗班のチームやそれを追う探偵。探偵の父親で研究所を警備する頑固一徹な管理人。同研究所の警備ロボット軍団。ライバル会社のメガネーズなど個性豊な面々が、それぞれの思惑を抱えながら丁々発止の鍔迫り合いを繰り広げる。ハイテク知識やセキュリティ知識を生かしての侵入あり、銃器やはてはロケット砲まで使った侵入あり、複雑に絡まりあったタイミングが生み出す結果とは……。
レース開始前の前振りに166ページも使う大胆な構成。それに反したスケールの小ささ(1億円て)。キャラクター同士のやり取りにウエイトを置いているくせに類型的なキャラクター像と、広げたまま投げっぱなしの背景。疾走感で一気に読ませる狙いのくせに、コメディにしては重すぎ、シリアスにしては軽すぎるちぐはぐ加減……。
それでもまあ、ネタがネタだけに大きく外すこともなく地味に読める。セキュリティやハイテク関連の知識は興味深いし、門脇と丹羽の青臭い友情も悪くない。作者自身が(おそらく)映像を文章にする感覚で書いているせいか、小説よりは2時間ドラマなどの映像作品としてのほうが光り輝けるのではないだろうか。

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