ともだち (中公文庫)樋口 有介中央公論新社このアイテムの詳細を見る |
「ともだち」樋口有介
幼い頃から祖父に剣術を叩き込まれた神子上さやかは、大人顔負けの剣豪に成長した。引き換えに、現代の武士みたいな思考をし、誰に対しても我を張り通し、ろくに友達も作らず、服装にも無頓着な変な女子高生になってしまったけども、補ってあまりある存在の美しさを手に入れた。
そんなさやかに、最近気になる人がいる。学校1の美少女と名高い小夏佐和子。彼女の横顔を追って美術部に入り、いつのまにか部員になってしまった。彼女を描きたいという気持ちは、これはなんだろう? 好きな人も友達もついぞできたことのないさやかは戸惑う。
形状の定まらないさやかの気持ちの邪魔をするように、転校生・間宮が現れた。ひょろりと背が高く痩せぎみな彼は、ひょうひょうとした、どこか掴み所の無い雰囲気を漂わせながら、さやかの目の前で佐和子と親しげに会話を交わす。
時を同じくして、さやかが通う星朋学園に生徒を闇討ちする事件がたて続いた。闇討ち、というと大げさだが、夜出歩く女子高生を襲い、気絶させるのだ。物取りでも暴行でもない犯人の目的がわからず捜査が難航する中、第3の事件が起こる。そしてとうとう死亡者が出てしまった。
その者の名は小夏佐和子。さやかと間宮の、長い長い夏が始まる……。
はいきました。樋口有介お得意のボーイミーツガールで少年探偵団もの。
今回は武士頭の女子高生さやかが主人公ってことで、どこか「武士道シックスティーン」を思わせたりするのだけど、初版2002年なんでとくに関係はなさげ。まあ関係あったとしても樋口節だからね。まったく読み味は違います。
天才美術家の血統を継いで本人も天才美術家な間宮。財閥令嬢でさやか命な水涼。さやかの祖父でエロ剣豪・無風斎。登場人物は少ないながらも曲者揃いで、さやかと比較してもまったく見劣りしない。
そんな人たちがビールを飲み、つまみをつまんでだべる……話じゃないんだけど、そういうシーンがけっこう多い。今日日高校生がビールぐらい飲んだって目くじら立てるもんでもないだろうし、僕自身だって昔から飲んでいたけど、ここまで堂々と飲まれるとなんだか不思議な気分。でも、そんな彼らの会話がいちいち楽しそうで、それがすごくうらやましかった。故人を偲びあいながら笑顔で酌み交わす酒ってのは、染みるんだよね。女の子と飲む酒のうまさがわかる諸兄なら、それ以上に楽しめるはず。
基本的にこれといってサプライズのない平凡な事件なのだけど、さやかたちの育んだ友情は良いです。それだけも見る価値はある。
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