はあどぼいるど・えっぐ

世の事どもをはあどぼいるどに綴る日記

オブザデッド・マニアックス

2012-04-22 22:12:00 | 小説
オブザデッド・マニアックス (ガガガ文庫)
クリエーター情報なし
小学館


「オブザデッド・マニアックス」大樹連司

 安東は、とある高校のいじめられっ子、というほどではないか、クラスの中でもどうでもいいレベルの存在だった。長い長い高校生活の3年間、いや、それよりも前から、ゾンビ映画を夢想するしか暇つぶしのなかった存在だった。いつかどうか、この退屈でくそったれな日常を、愚鈍な死者の群れが蹂躙してくれないか。そうすれば、そのミニマムな生活の中でなら、自分は輝けるから。他の、勉強ができるやつとかスポーツができるやつと同じように、息をすることができるから……。
 そんな彼の望みは、ひょんなことからかなえられた。日本の遥か洋上に浮かぶ孤島への特別夏合宿中、それが発生したのだ。ゾンビハザードが……。

 いまさら解説するまでもないが、昨今はゾンビブームだ。さまざまなジャンルが開拓され、吟味され、淘汰されきった挙句の飽和状態の上での、という注釈つきではあるが、また僕らの手に時代が戻ってきた。
 とまあ、そんなおおげさな解説は必要はないか。どうせこのブームも一過性のものだろう。
 ともあれ、ゾンビなライトノベルだ。
 夏のさ中の日本の孤島で起こったゾンビハザードに巻き込まれた安東は、持ち前のゾンビ知識を駆使してタブーを避け、立てるべきフラグのみ立て、いじめられっ子の江戸川と小伏鈴、金髪ツインテなギャルの丹咲いずなを集めてパーティを組み、とある別荘へ立てこもる。が、江戸川の建築能力や小伏の医学知識に前にはまったく見せ場がないので、安全な家屋を出て、「やむなく」大型ショッピングモールへ移動する。
 そこには安東らのクラスメイトら全員が奇跡的に生き残っていた。委員長オブ委員長な城ヶ根莉桜をリーダーにして。秀麗な彼女はしかし、安東と同じゾンビフリークだった。彼女が敷いていたのは恐怖政治。ゾンビモノを知り尽くす故に、そしてこの地をおいて自らが生き残る地はないと知っているが故に、美しき死に場をのみ求めていた。情などなかった。徹底的にスクールカーストの上部を駆逐した。丹咲いずななどは即座に安東の奴隷へと堕とした。江戸川と小伏は重宝し、重要なポストにつけた。
 というところがポイント。ゾンビフリークの行く末の違い。走るゾンビは是か否か。そういう命題と似ている。仲間と友好を結ぶべきか。ゾンビと共に死すべきか。そのへんを、フリークな2人の、莉桜と安東がどう煮詰めていくのか。
 結果的には、ゾンビが何百体いても蹴散らせるルミ姉という異分子がいるのがネックだったが、かなり楽しめた。なんやかやいうても僕もフリークなので、出だしから心が躍りっぱなしだった。くそくだらない学校生活を、クラスメイトどもを、ゾンビたちが駆逐してくれた。パラダイスだった。だからというか、この終わり方にはしんみりきた。
 問題は、安東自身がゾンビと接触する機会がほとんどなかったこと。一番の肝であるところのゾンビアクションが淡白すぎて、人間模様に集中しすぎていたこと。あと、ゾンビの発生理由そのもの。そこさえ見なかったことにできるのなら、この作品はひとつの完成形といえるのではないだろうか。

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