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4メールコピー2024.08.08
大阪・関西万博の「深刻な工事の遅れ」、じつはあの「木造リング」が大きな影響を与えていた
森山 高至建築エコノミストプロフィール
2025年大阪・関西万博の海外パビリオン建設遅れが表面化して1年余り。「万博の華」と言われるタイプA(参加国が自らデザインして建てる)は当初60カ国が見込まれていたが、簡易型への変更や撤退が相次ぎ、47カ国42棟になる見通しだと先月報じられた。
各国の国内事情や世界的な資材・建設費の高騰も一因だが、会場が大阪湾の人工島「夢洲」であることが工事を難しくしている大きな要因だと、一級建築士・建築エコノミストの森山高至氏は指摘する。ただでさえ地盤や工事条件に制約が生じるところへ、アクセスルート不足やインフラ未整備、さらに今春から始まった残業規制強化が拍車をかけているという。
そんな中、唯一着々と進んでいるのが木造リングの建設だ。「多様でありながら、ひとつ」というコンセプトを持つこの巨大建築物は、万博工事現場にどんな影響を及ぼしているのか。森山氏が執筆した『大阪・関西万博「失敗」の本質』(ちくま新書)の第2章から見てみよう。
木造リングが覆い隠す深刻すぎる工事遅れ
こうした状況が続いた結果、現在までのところ、万博の本来の建築物である各国パビリオンの建設進捗は放置されたまま、周辺の木造リングや軟弱地盤をあらかじめ読み込んで重量の軽いドーム建築などでデザイン対応した日本側の企業パビリオンのみがどんどん先行して、一見うまく進んでいるように見えてしまっている。
「万博の華」と呼ばれる各国パビリオンは開催時期までに完成できるかどうかわからないまま、なんとか着工できないかという検討が続いているのである。これは、万博工事全体に責任を負う者がいないためである。
木造リング工事はリングの分割工区が終われば自分らの役目は終わり、日本側の企業パビリオンも受託した設計者と工事会社で、そこのみ完成させれば使命を果たしたことになり、万博そのもののメイン会場は知ったこっちゃない、もとより自分らの受注範囲外なのである。
このような末期的事態を見えにくくしている―─結果として隠蔽してしまっているのが、かの木造リングであることも皮肉な事態と言えるだろう。
昨年末より木造リングが一部立ち上がるたびに万博協会はじめ関係者は湧いた。と同時に工事進捗に対し、心配も疑問も持たなくなってしまったのである。大きな円形の構造物は雑多な会場をぱっと見、一つにまとめ上げるには視覚的にも非常に効果的で、リングで囲われた部分に関しては既にでき上がっているかのような印象を与えてしまっているのだ。
リングの造成の様子(2024年4月)〔PHOTO〕Gettyimages
同に、木の骨組みだけというのも日本国民には有効で、誰もが見慣れた住宅の上棟式(棟上げ)の状態を大きなスケールで再現しているため、未知の構造物ではなく既知の構造物があと少しで完成するという雰囲気に吞み込まれてしまっている。万博の開催を危ぶむ批判の声や主催者の懸念をいったん消失させ、問題を先送りする結果となってしまっているのだ。
あの木造リングがあるために「できていないものまで、できているように感じてしまう」、あの木造リングがあるために「今後の工事進捗にさらなる悪影響を及ぼす可能性」があるのである。
本来なら、リング内部の各国パビリオンが林立し、ひとつの都市が形成されつつある脇で、最後の最後に木造リングで会場を城壁のように囲うというのが、適切な工事の流れであったはずだからである。
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