2025年大阪・関西万博の開幕を来年4月に控え、人工島・夢洲(ゆめしま)(大阪市此花区)の会場予定地で今年3月に起きたガス爆発事故が波紋を広げている。けが人はいなかったものの、夢洲の一部では可燃性ガスが発生しており、大阪府が会期中に計画する子供の無料招待事業に対し、教育現場から「待った」の声が上がる。大阪市議会でも問題を追及する動きが出ており、万博を巡る論争の火種になりかねない状況だ。

「正直なところ、けが人や第三者への被害がなく済んでよかったというのが本音。これを教訓に気を引き締めたい」

万博を運営する日本国際博覧会協会の幹部は、今回のガス爆発事故を受けてこう心情を語る。

事故は3月28日、会場予定地の北西側「夢洲1区」内で建設中のトイレで起きた。溶接作業で出た火花がトイレの地下空間にたまったガスに引火。爆発でコンクリートの床など約100平方メートルを破損したが、作業員にけがはなかった。

事故の背景には、埋め立て地の夢洲1区が廃棄物処分場として利用されてきた経緯がある。地中には昭和60年度から、大阪市内の家庭や事業所から出た一般廃棄物の焼却灰を埋設。そこから可燃性のメタンガスなどが発生している。

市は廃棄物処理法に基づき、焼却灰が埋められた地下の層に沿って、穴の開いたガス抜き管を格子状に敷設。地上に伸びる縦管にガスを誘導し、空中に分散させてきた。1区では今も管が残されているが、今回の事故では管で抜き切れなかったガスが地下空間にたまっていたとみられる。

万博協会は1区の工事を中止して原因を調べた結果、「ガス濃度の測定が不十分だった」と公表。今後は屋内作業では必ず測定し、換気を強化するといった再発防止策を講じた上で4月下旬に工事を再開した。万博開幕後は会場での火気使用を禁止する方針も示す。

これに対し、保護者や教育現場からは不安の声が上がる。府は万博の会期中、府内在住の4歳から高校生までの子供らを無料で招待する事業を実施する予定だが、中学生の子を持つ府内在住の30代女性は「可燃性ガスが漂うような場所に子供を送り出す気になれない」と打ち明ける。

府教職員組合も4月18日、ガス爆発に保護者や教員が懸念しているとして、吉村洋文知事と府教育長宛てに申し入れた。府は公立・私立の小中高校と支援学校約1900校を対象に、万博を訪れる希望日などについて意向調査を進めているが、組合側は安全が確認できなければ意向調査や招待事業を中止するよう求めている。

組合の米山幸治書記長は「学校現場としては安全でない場所に子供たちを連れていくことはありえない」と指摘。万博協会の副会長を務める吉村氏は「対策を徹底して行うことが大切。安全に工事を進めていきたい」としている。

ただ、大阪市議会で過半数の議席を持つ大阪維新の会市議団以外の野党会派からも、爆発事故を問題視する声が上がる。第2会派の公明党市議団幹部は「府教職員組合の指摘は当然のことだ」とし、事故について市議会で議論するよう維新側に要望した。

ガスは「強制的に発生を抑えるような技術はなく、何十年もかけて抜いていく」(万博協会幹部)といい、今後の議論の行方次第では、府市や協会がさらなる安全対策を求められる可能性もある。(山本考志)