私には夢があった。ピアノ界の超絶技巧の名手、女性ならマルタアルゲリッチやマリアジョアンピリス、男性ならば、ヴラディーミルアシュケナージ、ヴィルヘルムケンプ、ヴィルヘルムバックハウスの如くの、まるで職人技の、立派な大ピアニストになりたかった。
しかし、それは、大人になった今では不可能であった。技術的にも、時間的にも、金銭的にも、労力を掛けたとしても、それは土台、無理であった。誰が見たって。
その路線とは別に、日本を見渡すと、小原孝さんだとか、ハラミちゃんだとか、別系統・ルートで、活路を見いだしている人々も居るにはいる。
その方々は、クラシックだあ、とは肩肘張らずに、ノホホンとしているように見える。実際に演奏するのは、ポピュラーソング等が多数を占める。
私もあわよくば、この路線でゆこう、と簡単に思っても、そうは簡単に問屋は卸さない。
皆、それら、肩の凝らないピアノ曲を奏でていても、最低でも、音楽大学位は皆常識の如くに出ているのだ。
それら、カラクリが判ってしまうと、もう、興ざめしてしまう。
そして、自分の耳の中では、あの、マルタアルゲリッチ、アシュケナージのピアノの残響音が、虚しくこだまし鳴り響き続けるだけなのだ。
おそらく、というよりも百パーセント、幾ら私が幼少の一歳から例え仮にでも英才教育を受けたとしても、その願望、詰まりは、私がアルゲリッチの超絶技巧をこの世の現前に開き現す事は到底不可能であろう。私には彼女のピアノの芸術的才能の何万分の一もおそらくあるまいだろうから。
幾ら何千何万時間、ピアノに向かった所で、天才モーツァルトには万人がなれないのと同じだ。それ程にクラシックの世界とは敷居が高い。万人向きじゃない。万人に開かれた音楽ではないのだ。
だから、私にはギターなのである。私の場合はアコースティックギター、フォークギターである。
これ一台、一本あれば、練習の仕様によってはいかほどにも化け上がれる機能装置=楽器としての側面と、弾き語りによる、カラオケ音楽の、流しのギターサウンド。この両面の魅力をこの楽器は備えている。
あの、ザ・ビートルズに、谷村新司に、堀内孝雄に、松山千春にも、泉谷しげるにも、加川良にも、岡林信康にも、吉田拓郎にも、井上陽水にも、中島みゆきにも、イルカにも、南こうせつとかぐや姫にも、ジ・アルフィーにも、グループサウンズにも、演歌にも、歌謡曲にも、フォークソング・ニューミュージックにも、ロックンロールにもロックにも、ハードロック・ヘヴィーメタルにも、昔に戻って童謡唱歌にしろ、現代の江戸三味線、津軽三味線の如くに、これが泣きのギターの演奏の堪能が出来るのだ。
それが初期投資、独学独習代、僅か、ギター一本、教則本代のみで。ギタリストにとっては、ギターはサムライの刀イコール同然である。
私の場合、もう全部揃っている。今は練習の最中だが、これが意外と病み付きに成る程楽しい。出来るだけ近所迷惑にならない、午後８時まで、とか自分で決めて頑張りたい。
元々の音楽好きが高じてこうなった。こうなればとことんまでこの楽器、ギターとどっぷりと付き合ってゆきたい。
何より、独学でも幾らでも才能を伸ばせるのがギターの凄い所だ。貧乏人の味方=ギターの特徴だ。
私のギターには、ピアノの時の如くの「挫折感」等全くないのだ。そこにはただ、自由の風が吹いて舞っているだけである。勿論「Fコード」の挫折も経験しないで無事、乗り越えられた。私はつくづく、ギター向きの人生だと思う。
正に昭和の頃のモーリスギターの宣伝文句、「君もモーリスギターを持てばプロになれる」「モーリスを持てばスーパースターも夢じゃない」がそこのけそこのけお馬が通るで、お出まし、となるのである。
私にとって、ピアノとは、常に憧れの第一位を己の中で占めた存在であった。それを仏教仏法に置き換えると、天台宗の去年の暦、絵に描いた餅の「理の一念三千」であった。
これを、楽器を私が今夢中のギターに置き換えれば、見事に日蓮正宗大石寺の「事の一念三千」の楽器に例えられ、只の憧れから実際の、正に事の実践行、事実上、現実の上でも、わたくしの人生そのものへと成り代わる寸法へと全てが流れ続け、生まれ変われるのである。
以上。よしなに。wainai、長文失礼。
