9月27日、長崎県対馬市の比田勝尚喜市長は定例市議会最終本会議で、原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)最終処分場選定に向けた文献調査について受け入れない考えを表明した。
文献調査は3段階ある処分場選定の第1段階で、期間は2年程度。受け入れた自治体などには最大20億円が国から交付される。2020年11月に北海道寿都町と神恵内村で始まって以来、受け入れた自治体はない。
対馬市では今年6月、調査受け入れに賛否などの立場で11団体が8件の請願を市議会に提出。急速に進む人口減少への危機感を背景に建設4団体が調査受け入れ促進を求め、市商工会は議論検討を要望した。
これに対し、市民団体や一部漁協、水産団体などは風評被害や処分場の安全性などを懸念。反対を訴える請願を出した。
市議会は特別委員会での審査を経て、9月12日の定例会初日に建設4団体と市商工会の請願を賛成多数で採択、議長を除く18人による採決結果は賛成10人、反対8人と僅差で賛成多数だった。一方、反対の請願は一括して不採択とした。
調査受け入れ是非の最終決定権を持つ比田勝市長は12日に、「27日までの今議会中に市長としての意見は述べたい」と明言し、決断が注目されていた。
比田勝氏は令和2年3月の市長選で「最終処分場の誘致はしない」と明言して再選していた。
比田勝氏は、「風評被害は実際に東京電力福島第1原発事故のときに対馬で起きている。その場合は、交付金20億円でもなかなか耐えられない」と語った。
朝鮮半島を目前にする「国境の島」である対馬が直面しているのは、止まらない人口流出。若者が大学進学や就職で島を離れ、人手不足が顕在化している。建設が決まれば、道路や港湾の整備、トンネル掘削などで経済効果が期待される。
しかし、比田勝氏は風評被害による漁業、観光などへの影響は国からの交付金では賄えないと判断したようだ。
政府は、核のごみ処理場設置を全国で100カ所程度を目標にしているが、現在は北海道の2カ所だけに止まっている。
文献調査に応じている北海道寿都町と神恵内村は、対馬市の応諾を期待していただけに両町村の関係者は落胆したとのことだ。
対馬市では、来年3月に次期市長選が行われるが、この問題が焦点になることは間違いない。