正しい食事を考える会

食が乱れている中どういう食事が正しいのかをみんなで考え、それを実践する方法を考える会にしたいと思います。

『食育空白世代』九州大学大学院助教授の佐藤剛史ー「"弁当力"で社会が変わる

2012-02-08 | 食事教育
読売新聞夕刊(2011.2月?日)のー夕影ーに「『食育空白世代』。九州大学大学院助教授の佐藤剛史さんに教えられた。自身を含む、40代前半より下の世代が念頭にあるようだ。
 インスタント食品が家庭に浸透し、やがて大学生として一人暮らしを始めるとコンビニなど外食ばかり。つまり自炊能力を身につけてこなかった世代を言うらしい。台所の手伝いにより勉強を優先させてきた親の側の問題であることも指摘する。
 だから、佐藤さんは「九大弁当の日」を提唱した。学生たちはおかず作りを体験しながら食材のこと、食べてくれる人のことを想像し、食への考え方を深めていく。
 大学生がやることかと嘆いてみせるのは簡単だが、食育を食育基本法といった法律に頼る時代、じつは大人に突きつけられた課題なのである。
 そして、佐藤さんは基本法後の世代に期待を寄せる。家族のために食事を作る経験をした世代が大人になるとき、どんな社会になっているのだろうか、と。(じ)」

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月刊『戦略経営者』2011年2月号の掲載記事を転載
「佐藤剛史氏に聞く「"弁当力"で社会が変わる」その1「弁当力」で自分が変わり、家族が変わり、職場が変わり、そしていつかは社会が変わる――。
九州大学大学院助教の佐藤剛史氏(38)は、著書『すごい弁当力!』の中でこう語る。
弁当を手づくりすることが、優れた人間教育の機会になるのだという。
佐藤氏に、弁当がもつ“凄い力”について聞いた。(その1)

弁当をつくるとPDCAが身につく
――著書の『すごい弁当力!』『もっと弁当力!!』(共に五月書房)では、弁当づくりが人間教育に繋がることをたくさんの感動的なエピソードを交えながら紹介して、大きな話題となりました。まずは “弁当力”とはどんな力なのかを説明してもらえますか。
佐藤 弁当力とは、弁当を美しく、美味しくつくる力ではありません。弁当を通じて人生をより良く豊かにする力です。いまは安くて美味しい弁当がどこでも簡単に買える時代ですが、それをあえて手間と時間をかけて自分でつくる。この作業がいろんな意味や効果を生みだします。

――弁当づくりの効果として、感謝の心や自己肯定感が育ち、さらにはセルフマネジメント力・プロジェクトマネジメント力が身につくことを挙げていますね。

佐藤 実際に自分で誰かのために弁当をつくってみると、「喜んで食べてくれるだろうか」「残されたらどうしよう」と不安を感じたり、「美味しい」と言ってもらったときのうれしさを体験できます。子どもも大人も、こうした他者のために行動し認めてもらうことで自己肯定感が育つ。そしてもっと認めてもらおうと工夫をする。プランを立てて、食材や調理の仕方を調べ、段取りを考え、さらに次も喜んでもらおうと課題を見つけ出し、改善の努力を続けるようになるんです。つまり、弁当をつくることで、ビジネススキルの基本であるPDCAが自然と身につくわけです。

――他者への貢献が喜びに繋がる?

佐藤 ビジネスでも、お客様に喜んでもらうことで対価を得るのが基本ですが、原理的には弁当づくりも同じなんです。

――でもなぜ“弁当”なのでしょう。ほかのものではダメですか。

佐藤 誰にでも弁当の思い出はたくさんあると思います。一昨日の晩ご飯は思い出せなくても、子ども時代の弁当はすぐに思い出せるはずです。これはなぜかというと、弁当に込められたつくり手の思いを、僕らは知らないうちにご飯と一緒に食べていたからです。親は、手を抜くときがあるにしても、基本的に子どものことを一生懸命考えて弁当をつくります。そうした思い遣りの心を追認することに意味があるんです。

全国522校が実践する「弁当の日」普及に尽力
――確かに弁当の思い出はすぐに浮かんできます。友だちのはウインナーやフライがおかずなのに自分のは煮物や佃煮といった全体的に茶色っぽい弁当で恥ずかしかったとか、弁当から汁が漏れて鞄が汁だらけになっていて母親に文句をいったとか…。振り返って見れば、ずいぶん甘えていましたね。

佐藤 親がつくってくれた弁当は、自分が大切に育てられてきたことの象徴です。
 ある男子中学生は、両親が忙しいといって弁当をつくってもらえず毎日、昼食代を渡されていました。最初、好きなものが食べられるといって喜んでいたのですが、友だちが弁当を食べているのを見てうらやましくなり、母親に「月に一度でいいから弁当をつくって欲しい」と頼んだそうです。すると母親から「あなたのために一生懸命働いているんだから、これ以上無理言わないで」と言われた。その子は「そんなに仕事が大変なら、俺を生まなければよかったのに」と訴えたというエピソードを聞いたことがあります。
 この子は、お金を渡されただけでは「大切にされている」と感じられなかったんですね。親が自分のことを大切にしていると感じられれば、自分自身を大切にしなければならないことが分かります。そして自分を大切にできれば、他人も大切にしようと思える。そうやって人は大人になっていくんだと思います。

――そんな弁当力を実践する場として「弁当の日」を推奨し、普及活動に取り組んでいますね。

佐藤 「弁当の日」は二〇〇一年に香川県の滝宮小学校で、当時校長だった竹下和男先生(現・同県綾上中学校校長)がはじめられたものです。子どもたちに自分で弁当をつくらせるという取り組みで、親は一切手だしをしません。
 これをはじめたら家庭の中の会話が増えて、子どもたちがたくさんほめられるようになりました。例えば卵焼きをつくったら、一本全部を弁当には入れませんから、残った卵焼きは親などが食べます。で、自分の子どものつくった料理をけなす親はいませんから、子どもは「良くできたね」とか「頑張ったね」とほめてもらえる。
 また教室では、朝から弁当の見せ合いで盛りあがるようになり、食事づくりの大変さを知った子どもたちは給食を残すこともなくなったそうです。いま、全国で522(2011年1月1日現在)の小中高校や大学などが実践しています。

――自身が勤務する九州大学でも「弁当の日」を実践しています。

佐藤 以前から大学生の食生活の乱れを感じていました。僕は大学院で日本の農業の将来を担う学生を教えていますが、そんな農と食を一生懸命勉強している学生でもひどい食生活をしている。「これを変えるために何かが必要だ」と常々、感じていたんです。竹下先生の存在を知ったときは、これだと思いました。
 大学ではそれぞれの学生が一品ずつ持ち寄り、それをみんなで分け合って食べています。やってみて、自分の料理を「美味しい」と言ってもらえるのは凄くうれしいことなんだと実感できた。それで僕自身が完全に“はまって”しまいました(笑)。

――学生だけでなく先生も一緒に成長できると…。

佐藤 小学生の場合なら、親が一番変わりますよ。黙って子どもを見守れるようになるんです。あるお母さんは、子どもがはじめて卵焼きをつくった際に、何度も失敗して結局、卵を30個も使うのを見守り続けたそうです。
 いまのお父さん、お母さんは、子どもが失敗しないようにと何でも手伝ってしまいます。成功はいいこと、失敗は悪いことといった価値観を無意識に子どもたちに刷り込んでいる。でも本当は、失敗から学ぶことはたくさんあるし、子どもには失敗する権利があります。この「失敗する権利」を保証するのが家庭の台所です。

(その2に続く)


(本稿は、月刊『戦略経営者』2011年2月号の掲載記事を転載したものです。内容は、あくまで雑誌掲載当時のもので、その後、状況等が変化している場合もあります)


プロフィール◎さとう・ごうし
1973(昭和48)年、大分県生まれ。農学博士。2001年9月、九州大学大学院生物資源環境科学研究科博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、九州大学大学院農学研究院助手等を経て、07年4月より九州大学大学院農学研究院助教。特定非営利活動法人環境創造舎代表理事、日本有機農業学会理事、福岡県有機農業研究会監事などを兼務。主な著書は、『すごい弁当力!』『もっと弁当力!!』(五月書房)、『農業聖典』(コモンズ)、『ここ―食卓から始まる生教育―』(共著・西日本新聞社)等。
*注:月刊『戦略経営者』掲載時のものです

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