アフリカ収奪合戦2011.3.5読売新聞
「ショック食
2011」
エチオピアの首都、アディスアベバから自動車で6時間。見渡し限り水田田広がる。ここが、「飢餓大国」として知られた国とは信じられない。開発したのは、インド企業だった。
アフリカやアジアの途上国で、外国企業が農地獲得を競い合う。将来の人口増加に供え、自国向けの食糧生産が目的だ。
インドの農業会社「カルトゥリ」から派遣された現地責任者ラザク・ムンドーダンさんは「私たちが土地を一変させた。地元で数百人をたといました」と胸を張る。インド政府の支援を受け、1万19000ヘクタールを開拓する。
アフリカやアジアを舞台とするしれつな農地獲得競争。急激な膨張ぶりは、「ランド・グラブ(土地収奪)」と形容される。主役は欧米ではなく、インドや中国、中東湾岸国と言った新興国だ。潤沢な資金を投じて広大な農地を借り上げる。デンマークの調査機関グローバル・ランド・プロジェクトにとると、27のアフリカ諸国で判明分だけで、外国企業はフランス本土に匹敵する5000万ヘクタールを開発する。
エチオピア農業省のベケラさんは、「外資進出で、技術が向上し、雇用も生まれた。我が国の経済成長の切り札だ」と話した。
国内で未開発の耕作適地は6000万ヘクタール。日本の国土の約1.6倍だ。50~99年の長期契約で、借地料は1ヘクタール当たり年間10ドル程度。各国から毎月、約60社が情報収集に訪れる。
「カルトゥリ」農場から北東約350キロに車を走らせると、サウジアラビアの農場があった。10億円相当の最新型温室や貯蔵庫が並び、オランダ人専門家がブロッコリー栽培を指導する。現場監督は「2年前、ここはやせた農地だった。これは革命だ」と驚嘆していた。
だが、農産物は輸出用で、農民達の口にはほとんど入らない。地元記者は「外国企業が進出しても、国内の食糧事情が良くなるわけではない」という。エチオピア国民の1割に相当する800万人が現在も食糧支援に頼って生きる。カルトゥリ農場の警備員は2年前、同社のために政府に土地を取り上げられた。補償はゼロ。「役人は『国の土地をインド企業に貸した。何が悪い』とにべもなかった」。警備員の職を与えられた。
日当は50円程度。9人家族をささえるにはとても足りない。警備員は農場の入り口で自動小銃を構え、侵入者に目を光らせる。
08年の食糧危機が契機
進出国にも、切迫した事情がある。国連の推計では、現在69億人の世界人口は2050年には91億を超える。サウジ人口は1.7倍に増大が見込まれ、政府はスーダンやウクライナなど8か国に農地視察団を派遣した。10年以内に人口が14億を突破する中国はスーダンやコンゴ民主共和国への進出を目指す。
しれつな競争は08年の食糧危機が契機となった。アジアやアフリカで干ばつが相次ぎ、先進国ではバイオ燃料の穀物需要が急増。インドやエジプトでコメやパンの価格が高騰し、騒動が相次いだ。 食料の高騰は今年、08年をしのぐ勢いだ。国連食糧農業機関(FAO)の3月3日の発表によると、世界の食料価格指数は8個月連続で上昇し、1990年の調査開始以来、最高値に達した。FAOの小沼アジア太平洋地域代表は「途上国への農業投資は表向き歓迎すべき事だが、農地収奪や不当な価格での買収が横行する。農民の権利保護が必要だ」と指摘する。「新植民地主義」の批判をよそに、農地獲得競争は過熱の一途をたどっている。
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