水産北海道ブログ

北の漁業と漁協がわかる情報満載です

【今月のフォーカス】 水産政策の改革法案の準備進む 「上からの改革」「スピード」に系統困惑

2018-09-17 13:15:27 | 今月のフォーカス

 水産政策の改革については、水産庁が9月20、21日の両日、法案の検討状況を都道府県水産担当者に説明会を開く。同じ内容を2グループに分けて説明するもので、連続した検討内容2部構成で説明するものではない。都道府県の水産担当者は、事前に内容の具体的な情報提供を受けているわけではなく、様々な憶測も出ている。

 水産庁は「現場の理解を得るために丁寧な説明」に努めるが、内容に関しては「上意下達」であり、都道府県に対しても一方通行のようだ。そのため、沿岸域における漁業権の許可や海面利用秩序について免許、調整を任せされることになる地方行政は戦々恐々としている面も。他方、法案化の過程では、省令や通達など煩雑な決めが必要なので、少し議論をスローダウンすることを期待する向きもある。

 これを受けて全漁連も9月25日の東京を皮切りに大阪、福岡の3ブロックで水産庁の改正法案の検討状況をテーマに、対応を協議する。漁協系統の方向は難しい面をもつ。規制改革推進会議や日経調第二次高木委員会(小松委員会)の動向を考えると、農協の二の舞は避ける観点から水産庁、全漁連の「あうんの呼吸が大事」という理解をしている系統人は、水産庁の荒っぽい手法もやむを得ないと見ている。

 新しい自民党総裁就任、内閣改造などの政治日程を経て、10月下旬には災害復旧など補正予算や法案を議論する臨時国会が開かれ、水産政策の改革法案も提出される予定。今のところ、漁業法、水産資源保護法、TAC法(海洋生物資源保存管理法)、水協法の「大幅改正および法律の統廃合が行われるのでは」との見方が聞かれる。多くの地方の漁協系統では、今回は「浜が要望した改革ではなく、上からの改革」。しかも「内容決定のスピードが速く、プロセスも従来とまったく異なる」と当惑を隠せない。下からの議論の余地も時間がなく、方向性をめぐる議論より、漁業の成長産業化を実現する予算や政策の獲得に注力する方針に切り替えざるを得ない状況も予想される。

 実際に浜では、東京での議論(自民党、水産庁、全漁連のやり取り)が伝わりにくく、法制度の議論は身近には感じられない。養殖業を行う特定区画漁業権や漁業権の優先順位の廃止などは、5年後の2023年にならないと実行されないため、その影響をイメージアップするのが難しい。水産庁は説明会での主な質疑をまとめたQ&Aをホームページに掲載したり、長谷長官の肉声をユーチューブで流すなど、いろいろと手回しがいい割に、説明の内容がいまいち説得力に欠ける。やはりもう少し、体系立った「漁業の成長産業化」構想を専門家を交えてやるべきだったのでは?そうでないと、3,000億に拡大した予算が結局、つぎはぎの項目にタレ流され、総合的な効果を出さずに終わる可能性もある。


水産庁「水産改革に関するQ&A」 見えない理念とビジョン

2018-08-05 15:35:00 | 今月のフォーカス

 水産庁は6月1日政府の「農林水産業・地域の活力創造本部」で創造プランの改訂版に位置づけられた「水産政策の改革」について各地で説明会を開き、漁業関係者ら現場の理解を促している。

 各地の説明会で出ている疑問や意見に対し、ホームページに「水産改革に関するQ&A」を7月20日アップし、会場に来なかった関係者に対しても内容の周知を働きかけている。

 具体的な内容を紹介すると、例えば「漁業権の優先順位の廃止」について「適切かつ有効な活用をしている既存の者の継続利用を優先するといった場合、継続して免許されるのは、権利をもつ漁協か、行使する漁業者のどちらになるのか。漁協がきちんと管理している場合は引き続き漁協に免許されるということを明確にして欲しい」という要望に対しては、「既存の漁業権者が水域を適切かつ有効に活用している場合は、その継続利用を優先することを法定することとしております。従って、既存の漁業権者である漁協が管理を行うことにより、漁場が適切・有効に活用されている場合には、その漁協に免許されることとなると考えております」と答えている。

 また「「適切かつ有効な活用」の判断基準について、国はガイドラインのようなものを定めるのか。漁場は一定ではなく、現場の実態を踏まえた判断をすべき」との指摘に対し、「免許自体は都道府県の自治事務ですが、「適切かつ有効」の具体的な判断の基準等は国が示すことを想定しています。各地域の様々な条件の下で多様な活用の実態があると思われるので、実態に即した判断ができるよう検討してまいります」。さらに「国が基準を示しても、県知事の恣意的な判断で、地域の漁業者等の意見を考慮せずに企業参入を進められるのではないか」との疑問には「新たな区画の設定等にあたり、都道府県は漁業関係者の意見を聴いて、海区漁業調整委員会にも諮った上で漁場計画を作成することは従来と同様と考えています。その上で、意見聴取のプロセスは法定することとしており、漁業関係者の皆さんからどういう意見が出され、それにどう対応したかはオープンにするなど、恣意的な判断がなされないような仕組みとしていく考えです」としている。

 「水産政策の改革」は、下からのオープンな議論がほとんどなく、上意下達の形で出され、政府が認める方針として短期間で定式化されたため、具体的な内容に不明な点が多かった。つまし、専門家や利害関係者の議論の蓄積なしに突然、出てきた記述が多く、その背景にどんな具体的なイメージがあるのか、にわかに掴みにくかった。密室での「政治決着」にように、その内容にもはや検討が入ることは困難で、あとは法制化に至る過程での議論をしっかりやっていくしかない。

 今回、各地での説明会の成果をまとめた「水産改革に関するQ&A」を出すことで、水産庁の公式見解の一端がわかり、説明を聞いている方も落ち着いて具体的な内容に踏み込むことが可能になった。

 水産庁のある課長クラスの方が「今回の改革は天から降ってきたものではなく、水産業をめぐる国内的、国際的な状況から必然的に取り組むべき内容が書かれている」。だから早く内容を飲み込み、消化して「政策支援が受けられる体制」を整えよとの親切心からの言葉だと理解した。

 しかし、一方で受験生時代に習った数学への反感と同じものを感じた。この改革には理念やビジョンが一つも感じられない。受験の数学にも理念やビジョンがなく、時間を使った割には何も身につかなかった。いまではブラックボックスのパソコンでエクセルがやってくれることばかりで、文明の利器の恩恵には被っている。その分、関数や曲線によるモデルの意味を考えられるようになった。

 法制化する過程で、この改革に理念やビジョンが生まれるのだろうか。成長産業化、資源管理、所得の向上、就業構造の改善と四つのキイワードで構築される水産業の将来がバラバラなものにならず、国民的なコンセンサスの得られるようにする。そのためには時間をかけた下からの議論の積み重ねが絶対に必要だ。制度改革の影響が本当に出るのは、次の漁業権切替だと言われている。環境変化への対応と環境保全を重視した真の先進国型漁業を構築してもらいたい。


見えてきた「漁業の成長産業化」路線による漁業権の開放

2018-04-03 22:58:11 | 今月のフォーカス

 規制改革推進会議や自民党の会合など、様々な場面で、「漁業の成長産業化」路線とそれによる漁業権の開放、透明化のイメージが語られており、ここに来て水産庁や全漁連がどのような腹づもりなのかがある程度見えてきた。

 端的に言って現在の漁場を有効に利用している漁業者の権利は守ることを基本に、未利用の漁場をいかに企業と地元のマッチングを図りながら、漁場の高度利用による成長産業化を進めるというような物言いに集約されそうだ。しかし、十分な実績のある漁業を優先することはいいとしても、それが組合管理による現行の漁業権制度をそのまま温存することになるかどうかは、不透明さがつきまとう。

 現行の組合管理の漁業権が持つ調整機能を堅持することが、複雑な沿岸の増養殖を振興する基本となるとは思うが、組合員でない企業が空いている漁場で養殖を営む経営者免許を知事許可で出す。漁業権行使料など漁場利用を企業向けに透明化してしても、なおそんな手続きやお金は払いたくないという要求をどうするか。さらに組合経営の産地市場を経由する販売手数料などは、隣接する漁場で養殖業を営む経営体で格差が出てくるのは避けられそうもない。

 規制改革を唱える人々が現状の漁場利用関係を包含した制度を設計できるとはとても思えないし、結局、漁業の許認可や漁場計画、漁業権行使について長年の蓄積を持つ水産庁や都道府県、漁業調整委員会、漁協がそのベースをつくることで、「漁業の成長産業化」路線とそれによる漁業権の開放、透明化という改革が実現していくことになろう。

 常識的なたたき台をつくっても「それでは手ぬるい」「既得権者を守るだけ」と様々な注文をつけられ、それに応える事実と論理を示しながら「防戦」を強いられることは避けられない。この夏までに水産行政、漁協系統は苦しい戦いを強いられそうだ。もちろん、空いている漁場を「入札」で開放しろ、といった乱暴な議論は全漁連が絶対に許さないことは信じている。全漁連が果たす漁業権の調整機能も同様だが、やはり個別具体的な案件における現場の調整はやはり都道府県の水産行政と漁協が担わざるを得ないだろう。

 どこまで民主的な漁場の利用、その体系である漁業権の法制度に筋を通すことができるのか。漁業者をはじめ多くの関係者が注目している。そこで全く足りないのは下からの合意形成、全国の地方、現場、浜における議論、意見集約に他ならない。結果として漁業制度の刷新が組合を「中抜き」にした漁場利用となることは避け得たとしても、現に漁業で生計を営んでいる人たちが納得できる合意形成がないと持続的に漁場の有効利用を図ることは難しい。


次期漁業権の一斉更新における区画漁業権のゆくえ

2017-12-25 07:09:02 | 今月のフォーカス

 地方無視で「改革」を進めれば、現場・行政は大混乱

 安倍政権が進める「改革」はまるで空気のように日本の農林水産業を覆い、成長産業化の方向は揺るがないように見える。さて、漁業権をめぐる規制改革は今後、具体的にどうなるのか?水産庁が各方面の了承を得た「水産政策の改革の方向性」では、養殖漁場について「有効活用されていない水域は新規参入が進みやすい仕組みを検討する」としているだけで、あまり改革のイメージが明らかでない。しかし、区画漁業権の更新は30年9月1日に迫っている。

 巷間言われている特定区画漁業権への企業参入促進、あるいは都道府県‐漁協という従来の免許の系列とは別に知事が優先許可する「水産業特区」を制度化するといった、露骨な企業利害の主張は薄く、なんとなくソフトな印象だ。

 ところが、養殖が盛んな西日本の漁業調整委員会では「漁場計画の樹立」について強い危機感が表明され、問題提起がなされている。

 水産庁は、29年6月9日付で水産庁長官名の「技術的助言」(従来は指導通達)を出している。総論の部分で、民間企業による参入ニーズについて「漁場環境、当該漁場における区画漁業の実績、漁場周辺のインフラ等、参入の際に参考となる情報の積極的な発信に努めるとともに、漁業者や関係組合等の意向を的確に把握しつつ、漁業者や組合等と企業とのマッチングを推進し、漁場計画を柔軟に検討していく」と4月に決まった新しい水産基本計画の内容がいきなり出てくる。計画は即実践に生かすという姿勢はわかるが、「参入ニーズ」が具体的に何かは明らかではないし、まさか次期切替までに制度をいじる時間はないはずだ。

 自民党の行政改革推進本部(行政事業レビューチーム水産庁特別班)は7月に「区画漁業権の運用見直し」を提言している。この中では①養殖企業が徴収される漁業権行使料や水揚げ協力金など費用の透明性を確保し、経営の監査や検査を厳格化する。②適切に利用されていない漁場に円滑に参入できるようルールや養殖漁場の運用管理を見直す。③資本・生産・経営・雇用・技術など“集積化”を進め、「水産業復興特区」の参入者の活動を阻害する規制がないか再度検証し、積極的に対応すべきとしている。

 こうした中で、12月11日に開かれた「全国海区漁業調整委員会連合会」(全漁調連)の会長・副会長会議では、濱本俊策副会長(香川県海区漁業調整委員会会長)から提案のあった「漁業権一斉切替にむけての水産庁との協議」が行われ、一定のやり取りがあったが、水産庁からは先にあげた情報以上の内容は明らかにならなかったようだ。濱本副会長によれば、10月の西日本ブロックで、自民党の提言に対する水産庁の考え方の説明を求めたが、内容が不明だったため、再び明確な説明を求めた経緯がある。それより前、水産庁の技術的助言を7月に開かれた香川海区漁業調整委員会で説明した際に「企業参入の積極的推進」を国が求めてきたことに「到底容認できない」と各委員会から強い批判が出た。企業参入の積極的推進に国が取り組むことは、現行の漁業法、漁業免許制度を無視することになりかねず「漁業や行政の現場に大きな混乱を生じさせる」という危惧がもたれている。

 水産庁の文書には「企業参入」や「企業とのマッチング」との言葉が多用され、現下の「規制改革の流れを先取り」あるいは「なし崩し的に既成事実化している」との疑義を生じさせている。これは、中央での議論ばかりが先行し、地方レベルでの情報開示が極めて少なく、議論がスルーされてきたことも大きな要因となっている。

 都道府県知事による漁業権免許、組合管理漁業権の民主的かつ合理的な運用、漁場計画を審議する機関である海区漁業調整委員会が企業参入の免許申請(知事からの漁場計画諮問)についてどう対応するのか。制度の根幹に及ぶ重大事項として西日本以外のブロック、連合海区でも議論して意見集約すべきと濱本副会長は訴えている。水産庁からの情報提供、納得のいく説明がなければ、「誤解」と不信が広がり事態はいよいよ悪化しそうである。


久々の今月のフォーカスは、気になる規制改革推進会議の動向です

2017-06-08 23:25:05 | 今月のフォーカス

 小泉政権下で猛威を振るった「規制改革会議」の後継として安倍政権で再構築された「規制改革推進会議」。「岩盤規制」を壊せとばかり、農業・農協改革を強力に推し進め、農協法などの戦後法制度を一新しようとしている。水産分野では、新しい水産基本計画に追い打ちをかけるように、養殖などの特定区画漁業権に企業参入を促進し、漁業権開放をめざす動きが急を告げつつある。

 すでに漁協の組合員となることで、企業参入の道は開かれている。現行水協法および漁業法に法制度上、なんら閉鎖的な要素はないし、実態としては必要な浜では協力関係が支障なく進んでいる。にもかかわらず、漁協が管理する漁業権とは別の道を追求しようとする行為は、これまで資源と漁場の効率的な利用で調整機能を果たしてきた漁協という地域の人的なつながりに亀裂を生む以外の何物でもない。

 企業のノウハウやヒト・モノ・カネを漁業振興に活用することに抵抗はないが、企業主導の論理で問題を解決する方法はいかにも危うい。地域に定住する漁業者が運営する沿海地区漁協の枠組みで漁業を営むことのメリットははるかに大きいし、地元のコンセンサスを得る最良の道である。宮城県のような「復興特区」は特殊事例としてよく吟味すべきケースであり、その検証なくして普遍化すべきではない。

 もちろん、地域事情に応じた地域漁業のあり方を選ぶのは、そこに暮らす人々の意志による。一言で少子・高齢化と言っても地域によって大きく異なる。漁業という産業、漁村という地域ばかりの問題ではないし、格差はむしろ都市部の方が大きいだろう。経済単位としての漁協、漁村の潜在力を最大限発揮できる将来ビジョンをしっかり持って「規制緩和」に対処する論理が必要で、歴史的に築いてきた固有の価値を問われる岐路に立っている。