水産北海道ブログ

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秋サケ来遊予想の詳細はこれだ!

2016-07-05 17:24:54 | 今月のフォーカス

 何と言っても夏から秋は北海道漁業の盛漁期。期待は秋サケに集まる。
今年の予想はどうだろうか?詳しく教えましょう。もっと知りたい人は雑誌(水産北海道7月号)を見てね。

 道総研さけます・内水面水試は、6月30日に開催された道連合海区漁業調整委員会で、今年の秋サケの来遊について前年実績より6%増の3,901.5千尾と予測し、今年も昨年に引き続き4千万尾を切る水準にとどまる見解を明らかにした。

 昨年多かった4年魚が5年魚となるため、今年も多く回帰するが、昨年少なかった3年魚は4年魚となる今年も少ないと予想される。オホーツク東部などが大幅に伸びる一方、大幅に来遊が減る地区も多く、来遊のバラツキ、格差が大きいシーズンとなりそうだ。

  道連合海区漁業調整委員会は6月30日午後2時から札幌市第2水産ビル4階会議室で開催され、安藤善則会長が「昨年の秋サケは台風、低気圧で盛漁期に大きな被害を受けた。今年の秋サケ来遊に期待が大きい」、小野寺勝広水産林務部長が「本道の秋サケ漁獲は、昨年3,300万尾、570億円と6年連続で4千万尾を下回り、金額は3年連続で500億円を上回った。えりも以西の一部で資源回復の兆しが見られるが、一方でいぜんとして低迷する地区が見られ、資源の安定が課題となっている」と挨拶した。

 さっそくさけます・内水面水試さけます管理グループの藤原真研究主幹が28年度の秋サケ来遊予測を発表した。シブリング法を基本に予測したもので、昨年3年魚の来遊が少なかった地区では、今年も4年魚の回帰が少ないと予想し、オホーツク西部85.7%、根室南部80.6%、えりも以東東部89.2%、日本海北部77.5%、同南部83.1%といった地区が前年を下回る。逆にオホーツク東部125.9%、根室北部112.2%、えりも以東西部110.9%、えりも以西道南130.1%、日本海中部111.4%は前年を上回る。

 

① 昨年の秋サケ来遊の特徴

 平成27年の全道への秋サケ来遊数(沿岸での漁獲数と河川での捕獲数の合計)は3,682万尾にとどまり、前年より5%増加したものの、26年に引き続き4千万尾を下回る来遊数となった。

 年齢別にみると、主群である4年魚(23年生まれ)が2,462万尾(来遊数全体の66・9%)と最近では21年に次いで数多く来遊した。一方、 5年魚は915万尾と13年以降では最も少ない来遊となりました。また、3年魚は169万尾と26年の264万尾を下回ったものの、 26年は最近としては数多く来遊した年であり、これを除くと27年は平均的な来遊数となった。4年魚の来遊が多かったものの、 5年魚が少なかったことが響き、 来遊数全体としては前年の微増にとどまった。

 時期別にみると、前期の来遊数は1,922万尾(前年対比106.3%)、 中期の来遊数は1,495万尾(前年対比104.1%)、 後期の来遊数は265万尾(前年対比100.4%)といずれも前年をやや上回る来遊数となっている。

 海区別にみると、日本海を除きえりも以西、 オホーツク、根室、えりも以東のいずれも5年魚の回帰数が前年を下回ったが、主群である4年魚は各海区ともに前年より多く回帰したため, えりも以東を除く海区では, 全体として前年よりも来遊数の増加がみられた。なお、 3年魚はえりも以東で前年より若干増えたものの、 その他の海域では前年を下回った。

 

②今年の来遊予測

 予測手法としは昨年までと同様、シブリング法という手法を用いて実施。シブリング法では、3年魚が多い年の翌年は4年魚が多くなると予測され、4年魚が多い年の翌年は5年魚が多くなると予想される。逆に昨年の4年魚が少なかった地区では今年の5年魚は期待できない。

 今年の全道への来遊数は3,901万5千尾と推定され、4千万尾を下回る。27年は 全道的に4年魚が多く回帰したことから、 今年の5年魚が昨年より多い一方で、 27年の3年魚の回帰数が前年より少なかったため、 今年の4年魚は昨年より少ない。

 

③河川捕獲見通し

 地区別・時期別にみると,捕獲計画数の親魚を確保できる見込みの地区が多くなっているが,不足すると予想される地区がいくつかある。不足が予想されるのは,オホーツク中部の中期、 根室北部と南部の中・後期、えりも以東東部の中・後期、日本海南部の前・中期となっている。えりも以東, 日本海では海区全体で種卵は確保できる見込みとなっているが,根室海区については海区全体でも不足が予想される。今年も海区全体で計画数の親魚が確保できるよう十分な対策が求められる。


2015年4月号 今月のフォーカス ちょっと待ってよ、クロ現代「食卓の魚高騰!海の資源をどう守る」

2015-05-05 22:32:41 | 今月のフォーカス
(1)資源管理の話題は結構だが短絡的すぎる
 新年度の特徴として水産をめぐる話題は、「資源管理」が一つのキーワードになっている。マグロ、ウナギの話に代表される資源危機キャンペーンと連動しており、政府自民党の意向でもあるらしい。
 同時にそれは昨年、水産庁が行った「資源管理のあり方検討」の反響が大きかったことと、検討取りまとめの内容及びその対応を明確にしたことにもよる。新たな管理方策は、マサバ、スケソウ、太平洋クロマグロ、トラフグの4魚種に関するもので、特にマサバにはIQ(個別割当方式)の導入が求められ、スケソウはABC(生物学的許容漁獲量)とTAC(漁獲可能量)の乖離の是正、太平洋クロマグロは未成魚(30キロ未満)の半減といった漁獲規制が加えられることになった。
 NHKクローズアップ現代の4月15日放送「食卓の魚高騰!海の資源をどう守る」は、資源管理の現行制度の不備をとりあげ、たいへんわかりやすい結論を導き出すものだった。最近クロ現は「やらせ演出」で相当にバッシングに遭っており、国谷キャスターはお気の毒で、同情を感じる部分の多い。しかし、今回の番組は「やらせ」ではなかったが、明らかに世論誘導的な作為(ミエミエの意図、客観性の欠如)を感じさせた。漁業者の発言は断片的で、細切れにした映像と紋切り型の言葉が結びつけられた。本当に現場の漁業者や市場関係者が意図している思いなのか、たいへん疑問に思った。
 結論は簡単で、おおよそ次のようになるだろう。日本周辺海域の多くの資源は枯渇し低迷しており、それは主に漁業の獲り過ぎによるものだ。漁獲規制をしないことが乱獲を招き、漁業者も消費者も困っている。未成魚を獲らず、数年がまんすれば魚は成長しみんなハッピーになれる。それをできないのはモラルの問題ではなく、制度の問題だから制度改革が必要だ。

(2)漁業=悪のイメージ、それは資源管理が悪いから
 前半は、各地の魚が獲れない、魚体が小さいのに価格は高いといった困った状況を映像で見せる。いわゆる細かいカット割りによるモンタージュの方法であり、イメージは伝えるが、話し手の正確な情報は前後左右が切断される。
 水産庁の太平洋クロマグロに対する新しい資源管理も一応取り上げているが、あまり視聴者には伝わらない。しかし、ネットで公開されているテキストには、規制が足りないと批判的ながらちゃんと触れられている。国=水産庁の施策はあくまで刺身のツマのようなもので、取扱いはアリバイ的だ。
 それと気になったのは漁業の資源管理には欠かせないTACやABC、IQといった横文字の略語はいっさい使っていない。わかりやすくするための工夫と言えばカッコ良いが、視聴者を馬鹿にしているのではないか。情報を薄めることで、理解の質はぐっと落ちる。今どきネットで検索したり、水産庁のホームページで「資源管理の部屋」を読めば大概のことはわかる。例えばTACに関する説明はひどい。
「国が漁獲量の上限を定めている魚種は、僅か7魚種。しかもその上限は、実勢の漁獲量を大きく上回っています。成長前の魚の捕獲を禁止するサイズの規制もありません」
 冒頭に「国が」という言葉が入っているのがミソである。国内の漁業の実態を少しでも知っている人なら、自主規制という形で地域漁業管理機関をはじめ漁業者や漁協が自らルールを決めている漁業が多いことを知っている。多いというより、完全にフリーで短期間に競争しながら獲りまくるという「オリンピック操業」は現実にはどこの沿岸にも存在しない。共同漁業権漁業という一番陸に近い海域でやる漁業のルールは、組合が管理する漁業(総有)として細かい行使規則を定めており、「オリンピック操業」になることはあり得ない。

(3)地域漁業における自主的IQが抜け落ちている
 番組後半で「船ごとの漁獲規制の試みを日本で始めた」として事例紹介されている新潟県のアマエビ(ホッコクアカエビ)。その努力と成果は、決して評価しないわけでないが、わずか3隻で取り組んでいるローカルな漁業と、批判の対象とされている太平洋クロマグロは漁業種類も漁船数も全く異なり、調整の難度は比較できない。
 地域漁業の例ならば、オホーツク海で実施している毛ガニかご漁業の自主的な資源管理くらいのレベルは紹介すべきだったろう。毛ガニは海域ごと、漁協ごと、漁船ごとのノルマ(漁獲の上限)が毎年、試験研究機関の資源評価をもとに決定しており、道が許可の方針を示し、業界とコンセンサスを得ることでルールが担保されている。しかもロシア水域とのまたがり資源であり、国籍不明の密漁などの防止国際的な資源管理、違法操業対策もその取り組みの中に入っている。水産庁の資料によると、こうした自主的なIQの例は新潟県のエビを含め全国に13あり、ほとんどが漁船別の漁獲割当を行っている。
 いわゆるIVQ(漁船別漁獲割当)の事例は、「資源管理のあり方検討会」の第2回会議(2014年4月18日)でも水産庁がノルウェーのマダラを取り上げでおり、ノルウェーでも効果はあるとはいえ、魚価を含めた経営面では必ずしもオールマイティーな管理手段とは言えないことが明らかにされた。特に小型漁船が多い日本の沿岸漁業にはマイナス効果大きいと感じている。

(4)資源管理の議論が足りないからバカな批判を受ける
 さて、全体に日本の資源管理をめぐる議論は、拙速で積み重ねが足りない印象が強い。資源管理・収入安定対策の導入、つまり漁業共済を活用した経営支援(積立ぷらす)の加入要件として出てきた「資源管理計画」を今や全国的な資源管理の体系として既成事実化し、その効果の自主点検を求める国の姿勢にはやはり納得できない。
 「資源管理のあり方検討会」では自主管理と公的管理の高度化を通じて資源回復を図るという趣旨の取りまとめ対応策が打ち出された。しかし、前政権の時に「資源管理・漁業所得補償対策」として実現した「積立ぷらす」はあくまでも損保(収穫保険方式)の上乗せ措置で(漁業者の負担、資金提供が前提)、所得補償とはかけ離れたものであった。加入は自己責任であり、年金制度と同様の格差を内包している。あるヒトなどはその制度名から「漁業者は資源が減っているのに乱獲を止めないのは生活保護(所得補償)を受けているせいだ」と勘違いするほどだった。国際的な漁業者補助金の廃止議論とは別に、資源管理と所得補償(産業的なセーフティーネット)は別個に根本的なところから議論し、漁業者とコンセンサスを得られる制度とすべきだった。辻褄の合わなくなった制度の正当性を予算獲得の見返りに都道府県と漁業者(漁協)に「効果」(領収証)を出せというのはあまりに無責任ではないか。
 こうした不満を持ちながらも、「収入安定対策」自体は普及率が7割を超え、近年の漁業政策ではたいへん成功した制度だと思う。当然、格差の是正、制度に加入できない漁業者のセーフティーネットをどうするかという課題は残る。それにしても、クローズアップ現代で勝川氏が述べている「厳しい漁獲規制」とその効果に対する楽観主義はひどすぎる。国以上に無責任だ。

(5)漁獲規制の厳格化でみんなハッピーになれるか
 番組で語られる「3キロのクロマグロを6年間獲らないで100キロに育てば、体重は30倍、単価も10倍になる」との発言。これ本当かと制作サイドはまったく疑問を感じなかったのだろうか。一つは、太平洋クロマグロの未成魚を6年間1本も獲らなければ、10倍に成長するのかという問題。
 10年一昔というが、今後5~6年同じ状況が続くほど、太平洋の環境は甘くないだろう。激しい環境変化、自然および社会の両方からもたらされるマイナス要因をどう予想しているのか大変疑問だ。都市化=工業化、鉱物資源の開発、国境問題と漁業をめぐる環境問題は複雑化し、とても内部の論理だけでは持続性を維持できない。
 もう一つは、現在の市場環境で可能な価値が6年後に実現するかという社会経済的な側面である。世界は旺盛な水産物需要に対応するために養殖業による増産が急速に進展している。天然のクロマグロの価値が6年後も今と同じとは到底考えられない。それはエビやサーモンをはじめ多くの商品価値の高い魚種で証明されている。マグロの資源減少も実は、世界で急増した蓄養による巨大ビジネス化した漁業の変貌と無関係ではない。その背景には世界的な和食ブーム、その中心にあるスシに欠かせないマグロの需要増大があるのは言うまでもない。グローバル化が進む水産物市場は、もはや国内の需給調整で安定化させるのが困難だ。
 勝川氏が語る「規制があることによって漁業は成長産業になるし、漁業者もハッピーになる。これは、海外の漁獲規制をやっている国で起こっている」というユートピアは、国内の漁業者と消費者が最も望む水産物の生産(供給)や価格の安定につながらない。資源管理をしっかりやれば、漁業者の経営が良くなるというのは、可能性としては否定できないが、イコールではない。資源と経営は別であり、それぞれに固有の方策が求められる。その先に両者が交差し、最適の生産と価格の構造が初めてイメージアップされる。
 それ以前に自然相手の仕事である漁業には、適切な環境が求められる。資源があっても水温や潮流で獲れない。あるいは獲れても費用に見合った価格が出ないというのが漁業の実態であり、今や担い手が不足して獲れないという社会人口的な問題も加わる。人口減少、少子高齢化は日本社会全体の問題であり、これも漁業自体で解決するのは不可能だ。

(6)国家統制による強権的な資源管理はアナクロ
 結局、勝川氏は漁業がうまく行かないのは、「制度の問題」であり、厳しい漁獲規制に踏み切れない原因は「政治的なハードルの高さ」にあるとする。そして「資源を残せば全体の利益が増えるビジョンの共有」「我慢した人が報われるような制度」が必要だと言う。
 テレビで聞き流せばいかにも受けがいい印象だが、具体的には何のことだかわからない。むしろ、上からの公権力による規制強化を呼び込む姿勢としか受け取れない。国の責任で資源管理を行うことのベクトルが全く逆なのだ。下からのコンセンサスをもとに、漁業調整の結果を担保し、漁業者の自助努力を超えるリスクを補い、経営支援の手を差しのべることが国の責任のあり方ではないだろうか。
 国境に近い辺境の地で定住し、産業に従事する人々は、産業が存続する限りは、その地に留まるだろうが、産業的な内実を失えば、離散し二度と戻らない。日本に固有な沿岸漁業をいかに守るか。水産業ほど国際化している地域産業はない。水産物は市場経済の最前線にいる。だから逆に、漁業を通じて発現される外部経済的な価値(多面的な機能)を認めるべきであり、漁業が地域で成り立つことが環境保全、社会的費用の面でも最も合理的な形と言えるだろう。
 資源は太平洋クロマグロのように著しく減少する魚種もあれば、マサバのように増大しているものもある。それぞれの条件に適合した「順応的管理」に取り組むべきだし、その必要性は漁業者が一番わかっている。5年程度で効果が出る場合もそうでない場合もあるのが漁業だ。
 資源評価は漁獲のデータが基本であり、広い海を満遍なく常に調査するのは物理的、コスト的に難しい。また、多くの魚種にIQやITQを導入し、厳格なチェックを行うは漁船、漁港が多い日本では難しい。少なくとも現体制では不可能だ。国家の公的な規制で厳格な資源管理を行い、資源を回復しようとすれば、莫大な財政出動が想定され、費用対効果は必ずしも期待できない。多種多様な沿岸の魚を小売で供給してもらうためのシステムは、沿岸漁業者を活かし、漁業を続けてもらう以外にないだろう。漁獲規制を万能の解決策のように主張するのは間違いであり、その方向には日本漁業の廃墟があるだけだ。

2015年3月号 今月のフォーカス 太平洋クロマグロの漁獲規制とその行方 資源管理の困難性

2015-03-18 09:44:45 | 今月のフォーカス

 太平洋クロマグロの資源減少により、水産庁は「中西部太平洋まぐろ類委員会」(WCPFC)の国際合意に基づき、今年1月から30キロ未満の小型魚の漁獲規制を行っている。わが国の年間漁獲の上限は4007トン。その配分は、沿岸漁業1901トン、大中巻き網2000トン、近海竿釣り漁業等106トン。全国を6ブロックに分け、ブロックごとに上限を設け漁獲量をモニタリングし、その数値を都道府県にフィードバックする。また、大中巻き網、近海竿釣り漁業等は漁業種類ごとに管理するというもの。
 水産庁は、3月6日に27年1月分の30キロ未満の小型魚の漁獲量を343トンと発表。その内訳は、沿岸漁業(曳き縄、定置網等)94トン、大中巻き網246トン、近海竿釣り漁業等3トン。沿岸漁業者が口を揃えて指摘するように、圧倒的に巻き網の小型魚漁獲が大きいことを示している。
 時期的に見て北日本の漁獲は少なく、北海道は皆無だった。道は3月17日札幌で説明会を開き、管理手法の検討状況、強度資源管理について水産庁の話を聞いた。すでに西日本で資源管理の取り組んでいるが、北海道はシーズンオフとあってほとんど手つかずの状態。北海道は太平洋北部と日本海北部の2ブロックに分かれ、ブロック内の配分については、太平洋北部の上限346トン(1年7か月)に対し83.4トン、日本海北部の同625トン(1年3か月)に対し53トンとなっている。小型魚の漁獲上限、管理方法などの合意に加え、細則を決めて警報や操業自粛要請を受けないよう調整を図る。
強度資源管理は、クロマグロの資源管理によって漁獲努力量を15%以上削減する漁業者に対し、漁業収入安定対策に特別措置を行うもので、5%以上の減収で「積立ぷらす」が発動する。水産庁は「クロマグロ対策に関し漁業収入安定対策(ぎょさい+積立ぷらす)以外に考えていない」とした。
今後の管理の進め方について、道は「上限値ではなく、目安量を設定して取り組む」方針。振興局ごとに関係者がが話し合い、目安量の配分と細則を決める。定置網の網上げ、はえ縄の休漁も想定されるが、メニューを考え、実行可能な措置を選択していくことになる。
説明会では、漁業者や漁協関係者から様々な質問、意見が出た。例えば、この規制がなくなるのはいつか?「10年間で資源を回復させる計画だが、国際漁業管理機関(WCPFC) で3年ごとに見直しをするので、3年間は続ける」。上限値を上回った場合は?「定置網など予想以上に小型魚が入ることも考えられ、超過分は翌年の上限値から差し引く」。その配分は全体責任か?「ブロック内の調整は関係道県、漁業者が話し合って決めてもらう」。逆に上限値を下回った場合はどうするのか?「余った分を翌年に回し上限値を増やすことはしない。ブロックごとの基本数字は変えないが、仮に大幅に下回り、加入資源が状態が続けば、より厳しい規制が出る可能性もある」。強度資源管理と言っても、どんどん水揚げが落ちていけば、共済金が下がる構造ではないのか?「いわゆる5中3(漁獲金額の最高と最低を除いた3年間の平均額を補償水準の基準とする)で右肩下がりになった場合はそうってしまう。しかし、今回の漁業管理で資源は回復するチャンスがある。未来永劫にこの形でやるわけでないので、必要に応じて見直しを検討する」。
漁業者からは「この数字は厳しく、漁業者は生きていけない」「浜からの要望は何ひとつ聞いてくれないのか」「一番弱い漁業者守るような措置をとってほしい」「海外の資源管理の手法を取り入れ、(巻き網の)漁獲規制をやったらどうか」といった意見も聞かれた。
最終的には、道が「 すでに1月から漁業管理はスタートしている。(前例がないので)実際にはどうなるかわからない。今年はまずやってみる。支障が出れば国に物申す。マグロに対する世間の注目度を考慮し、やらざるを得ない」(幡宮道水産林務部水産局長)と強調。
出席者も「マグロ資源が上向くのは浜も期待している。安易に上限値を超える事態は、資源管理の意味がなくなる。初年度、道の力を借りてしっかり取り組みたい」(蝦名北るもい漁協専務)と共通認識が確認された。
しかし、法的規制でない要請という形であれ、操業自粛という事態が発生すれば、どうなるのか。定置網の網上げやはえ縄の休漁はあるのか?戦々恐々というのが実情だ。長い話になったが、国際合意に基づく漁業管理措置なので単純には言えないが、「資源管理のあり方検討」で表舞台に立ったマグロ資源問題。沿岸、沖合、遠洋と複雑な漁業で同一資源を持続的に利用することの難しさを象徴している。現場の漁業調整は都道府県と漁業者の叡智に任される。国はせいぜい枠組みを決め、ホームページに掲載するだけ。有識者も現場には現れない。水産庁による説明会はすでに3回目とあって、これでお開きとなりそうだ。資源管理の成否は現場に託された。

2015年2月 今月のフォーカス 農協改革が決着 次に何が来るのか?

2015-02-18 23:59:35 | 今月のフォーカス
  全中と自民党は、2月9日午後、農協改革の骨格で合意した。1月20日から20日間にわたる攻防に決着がついたが、勝者も敗者もいないという奇妙な風景が広がっている。
 安倍首相が「岩盤規制」にドリルで穴を開けると意気込み「改革断行国会」と名付けた第186回通常国会で農協はどう変わるのか、変わらないのか。
 首相は12日の施政初心表明で「戦後以来の改革」と述べ、60年ぶりの農協改革の意義を強調し、断固たる実現をぶち上げた。
 それから数日経って道庁のエレベーターで地方から出てきた農協関係者の会話が耳に入ってきた。
「あれ法案が出たら通るのか?」
「いやあ、通るさ」
「大変だな。どうなるんだ」
「今までと同じだよ。監査機関が選択になるったって同じの選ぶしょ。何か特別の問題でもなきゃ」
「へぇそうかい」
「そうだよ」
 3月に国会に提出され、4月の統一地方選挙後に審議される法案自体は、現状を大きく変えることにはならないかもしれない。
 当面の改革は、全文が明らかにされているように、政府・自民党とJAグループが合意した内容に沿ったもの以上には踏み込まないだろう。
 しかし、JAグループの反発が強かったため「痛み分け」の印象が強い半面、安倍首相が手にした「改革を断行するリーダー」という称号がもたらす影響を過小評価できないとの意見もある(東洋経済オンライン)。今回の農協法改正が突破口になって TPPに対応した農業の競争力アップを名目にした農業改革が進むことは目に見えている。特区などを設定して企業の参入を促す手法が農業の構造改革にも使われるのではないか。
 具体的な法改正の内容は、首相の施政方針演説の翌日、2月13日に開かれた農林水産業・地域の活力創造本部で「農協改革の法制度等の骨格」が示され、細かい改正の項目が検討されている。
たとえば、単位農協の理事は過半数を「認定農業者や農産物販売・経営のプロとする」ことを求める規定とか、「農協・連合会は、組合員・単位農協に事業利用を強制してはならない」あるいは地域農協の選択により、組織の一部を「株式会社や生協等に組織変更できる」といった規定が法文化される。いずれも「責任ある経営体制」とか「農業者に選ばれる農協」「地域住民へのサービス提供」などの美名が掲げられているが、協同組合の民主的な運営にお上が法律で介入する以外の何者でもない。農協の自立的発展にとって百害あって一利なしである。
 こうした協同組合への批判的かつ無理解な流れが漁業生産を基盤によって立つ沿岸地区出資漁協、業種別組合とその上部組織である都道府県や全国の連合会が集合する 漁協系統、 JFグループの行く末にどう影響するのか大変心配が募る。

今月のフォーカス 2015年1月 未年の新年に考える魚の活路と政策

2015-01-09 15:30:27 | 今月のフォーカス
 魚離れに歯止めがかからないという。消費増税による小売市場の冷え込みに加え、師走選挙などもあって、年末商戦もパッとしなかったらしい。
 家計消費が落ちている分、外食や中食は伸びているから心配ないという声もあるが、どうだろうか。また、量販店の魚売場が定番商材中心のディスカウント化する中で、ローカルスーパーが躍進し、沿岸魚種の新たなチャネルとなりつつあるという指摘があるが、メイン=量販あってのサブ=ローカルという市場ポジションは否めない。
 農水省は「攻めの農林水産業」として6次産業化による競争力アップ、輸出振興を盛んに喧伝しているが、水産物の貿易、市場構造は輸入の席巻が実態との冷静な分析がある。荷姿や加工度を変える形でフリーに輸入水産物が国内市場にあふれ、業務筋では常識化しているというのだ。
輸出や加工に適した魚種は攻めの戦略で良いとしても、基本的に多品種、不定量、品質のバラツキ、季節変動の激しい沿岸漁業はどうしたら良いのか。
 話しはガラリと変わるが、水産情報誌『アクアネット』12月号(湊文社)で「資源変動と環境」を特集している。そこでは、水産庁の「資源管理のあり方検討会」の座長を務めた桜本和美東京海洋大学教授が海洋生態系における「密度効果」は幻想であるとして、最大持続生産量(MSY)の概念は実際には成立しないことを論じでいる。その肝は「漁獲をやめても、資源は減る時は減る」という事実を認め、「どこまでなら資源の減少を容認できるか」という発想で資源管理を考えるべきであるという指摘にある。
「現実の世界は、密度効果が作用するより遥か早い段階で、環境の変化よる加入量変動が起きる、それが実際に起こっている資源変動のメカニズムではないか」。うーん、真実の論理的な解明は直感や常識より難しいぞ。
さて、同じ雑誌に「丸魚裸売りが人気の食品スーパー」として東京都東村山市にある「食品の店おおた」久米川店が紹介されている。この店の月商6,500万円のうち、水産部門の売上構成比は16%を超えるという。つまり1,000万円以上を水産物が稼ぐ。売場には定番魚種のほか、珍しい魚や丸魚がずらりと並び、リーズナブルな価格帯で売っている。しかも、周辺に有数の飲食街を抱え、高級魚も売れるというからなかなかである。無料の調理サービスが丸魚人気を支えているという。
そう考えると、佐野雅昭鹿児島教授が推奨するローカルスーパーの沿岸漁業に対する販売機能(「流通からみた産地再編の動向と地域漁業」北日本漁業経済学会シンポ報告2014.11)も今年は特に注目していく必要があるという気持ちになってきた。月刊『漁業と漁協』1月号に出ていた久賀みず保(鹿児島大)の「ローカルSMによる地元水産物販売チャネル確立の取り組み」にも同様の事例が紹介されている。
 さらに『水産振興』第564号(東京水産振興会)では、魚価安定基金から移行した水産物安定供給機構の船本博昭専務が「水産物安定供給機構が実施している事業の概況―調整保管事業を中心として」を書いている。ここには魚価安定対策(調整保管事業)の歴史的な試行とその成果、さらに国内水産物の流通の目詰まりを解消する新たな加工・流通対策である「国内水産物流通促進事業」の概要が紹介されている。
 何かまとまらない話になってきたが、やはり沿岸漁業は環境変動と国内流通の変化に対応した生産構造の革新が必要であると同時に、生物多様性に裏付けられた豊かな資源の利用を真剣に考える時代を迎えている。
つい最近まで「資源高」と言われた世界の資源エネルギー市場は、米国シェール革命によるオイル・ガスの増産を受けた原油の供給過剰によって「資源安」の局面に大きく動いた。1バーレル50ドルを切る水準を受けてアナリストは、中長期的に原油価格の低落が続くとみている。
 食糧危機を煽る物言いにも閉口するが、食部門の一角を担う水産物が原油と同じような投機的な市場環境で取り扱われる時代は終わったような気がする。市場主義では沿岸魚種を有効活用できず、結局、ムダになってしまいかねない。
 市場に介入する手法は、今や時代遅れのような論調が根強いが、価格支持のメカニズムをつくることで、経営は安定し、資源も維持され、担い手不足が解消するという「正のスパイラル」が機能する期待は高い。
 確かにEU の共通漁業政策が目指した価格支持は挫折し、直接支持や資源回復に方向性が移っている。しかし、正面から水産物の価格政策に取り組んだことのない我が国は、その失敗を安易に論評するのは差し控えるべきだ。市場主義的な実験や構造改革ではない手法を試み、本質的な政策目標をめざすこと。それが戦後70年を迎える漁業先進国のリーダーシップではないか。(う)