市街・野 それぞれ草

 802編よりタイトルを「収蔵庫編」から「それぞれ草」に変更。この社会とぼくという仮想の人物の料理した朝食です。

住宅街のパン屋さん

2015-01-26 | 日常
 土曜日の午後自転車で、宮崎駅西口から北へとゆるゆると走っていった。快晴で冬というのに、無風、真昼の日差しを受けて、マンションや事業ビルが白やピンクに輝き、何キロ先まで続いている。目を眇めなければならないほとの陽射しが、街を大都市のように感じさせてくれる。このままどこまでも行くことでもいいのだが、路地があったので、とにかく右へ曲がることにした。まもなく宮崎神宮の森に突き当たった。正面の鳥居から、境内を左周りをしだして、また路地があったので、ここを左折した。辺りは、低層のマンションや新築の住宅が区画整理さてて、並ぶ住宅街となった。午後1時半とうのに、自動車のエンジン音も、人声もせず森閑とした住宅街となった。

 と、角にパン屋さんがあった。ショーウィンドウからみえた棚は空っぽだが、オープンという案内は下がっていた。おそらくカフェかもしれない、となると、今ランチをパン食で終えたばかりなので、入っても注文できないなと、気になりながら通り過ぎて行った。

 次の角の二階建てのアパートの西壁に薄紫の地の看板が目を惹いた。細い針金をくるくるまいて一匹の犬にしてあり、毛深い犬の毛を針金が表していたのだ。あまり上手でない手描きの英語で、dog trimming FAIRY TAIL と描かれ、右下に電話番号があった。たったこれだけだ。fairy tail は、fairy tale のもじりなのか、尻尾(tail)が同じ発音のtaleといれかえられたのだろうか。ふさふさした尻尾を、おとぎ話と詠ませた。そのセンスの面白さが、人の気配の耐えた住宅地の真昼に密かにかかっている。パンの無いパン屋さんといい、にわかにここらの雰囲気に興味がわいてきて、あのパン屋さんに入ってみようと、自転車をめぐらせたのであった。

 こんどは、店から女子高生が一人出てきたので、パンはここで売っていますかと声をかけると、売ってます、だけどもうほとんどないですと、にこにこしながら答えてくれた。中に入ると言われたとおり、左右の籠に大きな丸型のドイツパンが数個あり、ほとんどパンは無かった。人も居なかった。奥の部屋から上品は40代半ばの女性が、出てきて、もうこれしか無くてすみませんと挨拶された。すぐにぼくは、同じ形、同じ色をした大型の丸パンを指して、どう違いますかと訪ねた。こちらは小麦100パーセントですが、あちらはライ麦が入ってます、値段は高いですけど返答された。ではライ麦の方をくださいというと、小さいほうの丸パンを手にしたので、大きい方をというと
有難うございますと大きい方を手にした。
 「このパンを切ってもらえますか」
 「どの厚さにしましょうか」
 「まあ、このくらいでしょうか、いや10枚くらい」
 と遠慮がちに言うと、
 「もっと薄くても大丈夫ですよ」といわれ、
 「では、8ミリくらいでもいいですか」と申し出た。
彼女は、すぐに奥の部屋に入ったが、また出てきて
 「このパン半分でもお売りできますよ」といわれるので
 「いや、全部いただきます」というと、安心されて、薄く
  切りそろえたパンが出来上がった。それを手にすると、今は
はっきりと、これは、ドイツのミッシュブロートと分かった。
ドイツパンを焼くところは、宮崎市では、珍しい。ライ麦のシュヴァルツ・ブロートの重たい黒パンなどとなると、2店舗を知っているばかりである。
 「奥さん、このパンはここで焼いていらっしゃるんですか」
 「はい、この部屋で焼きます」
 「このお店はいつごろ開店されたのですか」
 「今年で9年目になります」
 「そんなになるんですか。その頃、ここらに住宅はあったのですか」
 「古い家はありました。このビルが出来たのは3年前で、それ以前は、店も木造の小さなも  のでした。」
 「その当時でも、ここらでパンは売れたのですか」
 「え、なんとか、ここは、抜け道のような道路でして図書館  や芸術劇場などに行く人た  ちの通り道になってました」
なるほど、そういう地の利もあったのかと、想うのであった。

 帰って妻に見せると、なにかというと、こっちの買い物にケチをつける彼女が、人目みただけで気に入ってくれた。その一切れをちぎって口にすると、ライ麦の酸味と香りが豊かさを感じさせ、塩味ながら、かすかな甘味もあって重厚であった。これは材料がいいわねえと、彼女は賞賛した。あんな住宅地にこんなパン屋さんが、あったのだ。こうした意外性に、市街を自転車で彷徨っているとであえるのだ。自分でみつけるということは、この価値感が錯綜しているなかで、大きなもうけものをしたような気持ちにさせられる。 

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