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曽田修司の備忘録&日々の発見報告集

オペラとミュージカルの違い(2)

2006-05-04 21:17:32 | 大学
以前に一度、「オペラとミュージカルの違い」を取り上げたことがある。

→ オペラとミュージカルの違い (2006/03/10)

そのときは、オペラはクラシック音楽が基本で、ミュージカルの基本はジャズ、という点を第一に取り上げ、結局は、ヨーロッパ文化の中から生まれたのがオペラで、アメリカ文化の中で発達した(もともと生まれはヨーロッパらしい)のがミュージカルだ、というように説明しないと両者の違いをうまく説明できない、と書いた。

これとは別の説明の仕方もある。フリー百科事典「Wikipedia」の記述によると、オペラとミュージカルの違いの第一は「歌の発声法」にあるとしている。オペラではオペラ独特のベルカント唱法を用いるが、ミュージカルでは基本的にポピュラー音楽と同じ発声法が用いられる。
この発声法の違いにより、ミュージカルではマイクを使うし、歌手自身がダンスもこなすことができる要因になっている。これに対し、オペラの方では基本的にマイクを使わないし(コンサート形式の上演では必ずしもそうではない)、オペラでは歌手は歌うだけで踊りは専門のダンサーがこなす。
オペラでは、主役級の歌手は自分の声だけでオーケストラの音量と対峙しなければならないのだから、そのエネルギーたるや並大抵ではない。それを考えれば、オペラ歌手に巨漢ないし貫禄たっぷりの女性歌手が多いのもわからないではない(観る側からすれば、見た目は何とかしてほしいが)。
授業の中で、オペラにおいては劇場自体が巨大な楽器なのだ、だから、どの劇場で観ても同じ、ということにはならない、と説明すると、学生も何となく納得する。
つまり、劇場内の音響の基本がアコースティック(オペラ)VSエレクトリック(ミュージカル)という違いがある。これは、クラシック音楽とポピュラー音楽の特徴の差と同じだ。

この発声法の差は、興行スタイルの差にも直結していて、ミュージカルが基本的にロングラン・システムをとり、毎日(ときには一日に2回)上演することが可能であるのに対して、オペラでは、同じ歌手が2晩連続して出演することはない。オペラの上演は、レパートリー・システムになっており、そのシーズンの上演演目が数本決められていて、数日ごとに作品を日替わりで上演していくのが特徴だ。したがって、オペラ歌手の出番は、せいぜい数日に一度であるのが普通だ。
このことは、上演による体力の消耗度を考えるときわめて自然なことだろうと思う。私は、直接の知り合いにオペラ歌手がいるわけではないが、そういうものだろうと思っている。
プロ・スポーツの世界でも野球は毎日試合をするが、サッカーは週に2度が普通(原則)である。それに、野球でも投手の場合は高校野球のような無茶なやり方は除いて、基本的に中4日とか中5日おくのが普通であるのを考えると、毎日こなすことができるのはあまり体力を消耗しないものに限られるわけである。

さて、これまで私は、ロングラン・システムとレパートリー・システムの違いは、この「体力消耗度」(主に喉)の違いで説明すればそれで足りると思っていたが、今回、跡見(「現代の舞台芸術ビジネス」)と玉川(「芸術経営論」)で授業をしているうちに、それに加えてもうひとつの要因を強調しておいた方がよいということにあらためて気がついた。

どういうことかというと、オペラとミュージカルの違いは、その収入源の違いにもあらわれているということだ。ミュージカルの場合、毎日同じ演し物を上演して客を呼ぼうとするのは、それがショービジネスだからだ。ヨーロッパでも、たとえばキャバレーのショーは基本的に一定期間同じ演し物を上演する。日本でも江戸時代の歌舞伎はそうだったわけだ。映画の興行でも、サーカスでも、万博のアトラクションでも、評判で人を呼ぶためには、一定期間同じ演し物を提供し続けるのが一番良い。

そう考えると、オペラは国や州からの補助金があって劇場が運営されていることが前提で、観客からのチケット収入だけで成り立っているわけではないからこそ、数日に一回という上演形態が成り立つのだろうと思う。もちろん、オペラがショービジネスではないかというとそう単純に割り切れるわけではない。だが、独仏伊をはじめとするヨーロッパ大陸諸国はもちろん、イギリスでもアメリカでも、入場料収入以外の財源(公的支援や民間寄付)があるからオペラが成り立っているのは事実であるのに対して、ミュージカルは基本的に市場からの収入で成り立っているという点に大きな違いがある。

言わば、ミュージカルが大衆文化における消費財(商品)という扱いなのに対し、オペラはその社会の中の高級文化を代表する価値財(大衆の意向に関わりなく価値があるとされるもの)である、という位置づけの差がある。

文化の違いは、作品の内容や発声法を含む演技スタイルなどの表現面に現われるだけでなく、それが社会的経済的にどのように成り立っているのか(誰がそれを支えているのか)の違いになっても現われる、ということなのである。

(参考)
→ オペラとミュージカルの違い(3) (2007/01/22)

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1 コメント

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参考になりました (くま)
2006-05-07 02:03:58
初めまして。時々拝見しておりました。

オペラとミュージカルの違い、「なるほど!」と納得しました。財源という視点は、クラシック音楽の側からではなかなか気が付かないような気がします(皆、「補助が足りない」とは言いますが)。

いつかアーツマネジメントを勉強したい(できることならそういう方面で働きたい)と思っているので、また覗かせてください。よろしくお願いします。
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