小田博志研究室

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研究ツールボックス(院生・卒論生必見)

2020-12-05 | 研究・教育

以下の情報は主に北大で文化人類学を専攻する大学院生を想定したものですが、卒論を書く学部の学生にも役に立つと思います。研究をスタートさせ、進めるにあたって便利な情報を集めてみました。

文献検索に便利なウェブページ
役に立つ辞典・事典類
先行研究の検討ということ

文献検索に便利なウェブページ

論文の検索

書籍の検索1:大学図書館

書籍の検索2:インターネット書店(アマゾンは本の検索に非常に便利)

情報収集

  • Google (グーグル。いわずと知れた代表的検索エンジン。検索語を工夫すればかなりの情報が得られる)
  • 札幌市文化資料室 (札幌市のことを調べるなら。シリーズ「さっぽろ文庫」のダウンロードも可能)
  • Yahoo!地図情報
  • Google map

文化人類学分野でチェックすべき学術誌

  • 「文化人類学」(旧「民族学研究」)(上記データベースで検索が可能)
  • 「社会人類学年報」
  • Annual Review of Anthropology

役に立つ辞典・事典・教科書類

人類学:総合

『文化人類学事典』(縮刷版)弘文堂、1994。
『文化人類学事典』(日本文化人類学会 編)丸善、2009 。
『世界民族百科事典』(国立民族学博物館 編)丸善、2014。
Encyclopedia of Social and Cultural Anthropology. Routledge, 2002.
Encyclopedia of Cultural Anthropology. (4 volumes) Henry Holt, 1996.
The Dictionary of Anthropology. Blackwell, 1996.
Companion Encyclopedia of Anthropology. Routledge, 2002.

人類学:用語

『Lexicon 現代人類学』(奥野克己・石倉敏明 編)以文社、2018。

『文化人類学キーワード』(改訂版)有斐閣、2008。
『文化人類学最新術語100』弘文堂、2002。
Social and Cultural Anthropology: The Key Concepts. (second edition) Routledge, 2002.

人類学:教科書・入門書

日本文化人類学会「文化人類学・民族学入門書」一覧

人類学:文献

『文化人類学文献事典』弘文堂、2004。
『文化人類学の名著50』平凡社、1994。
『エスノグラフィー・ガイドブック』嵯峨野書院、2002。

人類学:人名

『文化人類学群像』(外国編1:1985,外国編2:1988,日本編:1988)アカデミア出版会

関連分野

『世界民族事典』弘文堂、2000。
『世界民族問題事典』平凡社、2002。
『文化理論用語集―カルチュラル・スタディーズ+』新曜社、2003。
『完訳キーワード辞典』平凡社、2002。
『精選 日本民俗事典』吉川弘文館、2006。
『歴史学事典』(全16巻)弘文堂、1994-2009。
『社会学事典』(縮刷版)弘文堂、1994。
『社会学文献事典』弘文堂、1998。
『政治学事典』(縮刷版)弘文堂、2004。
『心理学辞典』有斐閣、1999。
『岩波哲学・思想事典』岩波書店、1998。

先行研究の検討ということ

先行研究の検討をする意義

 論文を書く上で、まず「先行研究の検討(文献レビュー)」という作業が必要になってきます。これは自分の研究のテーマおよび設問に関連する文献を集めて、読み込んでいくという作業です。その目的は大きくいって二つです。一つ目は、研究の現状を把握するということ。つまり他の研究者たちが、当該のテーマに関してこれまで何を問題としてきたのか、何をどこまで明らかにしているのかを知るということです。二つ目は、その裏返しで、何が明らかにされていないのかを知るということです。そして自分は、その明らかにされていないことを引き受けて研究するということになります。

 研究とは、ある研究領域で問題になっていることを追求することです。ですから、自分の素朴な疑問について調べてみたというだけでは「研究」としては不十分で、それを研究の世界につなげて「研究設問」へと高めなければなりません。そのためにもまず先行研究に向き合わなければなりません。それは自己を研究者として社会化するために、また他の研究者たちが取り組んでいる問題を共有するために必要なステップです。また他の研究者の論文になじむことによって、論文をいかに書いたらいいのかが身についていくのです。

 オリジナルであるためには、他の研究をよく知らなければなりません。特に博士論文の評価で決め手となるのは、当該の研究分野でどれだけオリジナルな結果を出しているのかという点です。自分の研究を既存の研究分野の中に位置づけ、既存の文献と対照させることではじめて自分の論文のオリジナリティを主張できるのです。ということは先行研究を十分検討しているかどうか、という点も論文評価のポイントとなるということです。先行研究の検討は地道な作業で、根気が要るものです。しかし研究をする上で避けて通れないステップだと考えて取り組んでください。

キーワード

 文献を探す一つのコツは、自分の研究テーマ・設問をいくつかのキーワードに分けてみることです。このキーワードを文献検索するときに使うわけです。はじめの段階ではキーワードを5つくらい考えてみて、それに関する文献を探してみるとよいでしょう。それらキーワードを、上掲のウェブページで検索する際に使うわけです。私の例を挙げさせていただくと、現在の一つの研究テーマは「教会アジール」です。これに関するキーワードを考えてみると、「教会アジール」「アジール」「リミナリティ」「キリスト教会」「教会共同体」「地域社会」「コミュニティ」「難民」「難民庇護」「外国人」「他者」「歓待」「居場所」「語り」「国民国家」「主権」「出入国管理」「ドイツ」「ヨーロッパ」「クルド」「エスノグラフィー」「フィールドワーク」...とどんどん出てきます。これらの中には具体的調査対象を示すキーワード(「教会アジール」)もあれば、方法論に関わるもの(「エスノグラフィー」)もあれば、調査地域に関わるもの(「ドイツ」)、より抽象的なもの(「国民国家」)、理論的なもの(「リミナリティ」)も混じっています。もちろんこれら全てに関する文献を網羅的に調べ尽くすのは物理的に無理です。特に重要なキーワードについては網羅的に、それに次ぐものについては代表的なものに絞って文献を探していきます。

 上の段落で述べたことを言い換えると、先行研究の検討は、一つの領域の文献だけを調べればいいというのではなく、複数の領域にまたがって行うのだということです。具体的な研究対象に関わる文献、調査地域に関する文献、調査方法に関する文献、より抽象的な理論枠組みに関する文献といったように、複数の分野の文献をある程度体系的に検討する必要があります。

文献表の作成

 文献は見つかるごとに「文献表」にまとめていきましょう。最初の段階では、読んでいないものでも自分の研究に関係しそうならどんどん表に加えていってください。上で述べたような文献の種類に従って区分するというのも一つの手です。この文献表は、ゆくゆくは論文の末尾につける参照文献表となります。

 文献表の作り方は、文化人類学の分野の場合には、学会誌「文化人類学」のやり方に従ってください。日本文化人類学会ホームページの「学会出版事業:『文化人類学』」―「執筆細則」に参照文献の記載の仕方が掲載されています。

 また佐藤郁哉氏が書いてくれている文献調査の指針はたいへん参考になります(佐藤2002『実践フィールドワーク入門』有斐閣:特に227-232ページ)。

レビュー論文を読む/書く

 研究の早い段階で、他の研究者が書いた「レビュー論文」を読むことが勧められます。レビュー論文とはまさにあるテーマに関する先行研究を概観した論文のことです。人類学の分野ではAnnual Review of Anthropologyがレビュー論文を掲載する代表的な雑誌です。他の学術誌にもレビュー論文は掲載されます。また博士論文の前半部分は、一般的にレビュー論文の性格をもっています。これらを読みまたその文献表を見ることで、かなり効率よく関連の先行研究を見つけることができます。他人のレビュー論文をお手本に、レビュー論文の書き方も学んでください。

 自分が行った先行研究の検討作業は、いずれ論文化することになります。修士論文の場合はその主要部分、博士論文の場合は前半部分でこの文献検討の結果をまとめることになります。さらにレビュー論文(ないし「研究ノート」として)としてまとめ、学術誌に投稿することができます。これは研究者としての業績となります。

フィールドワークと文献調査

 文化人類学ではフィールドワークが主要な調査手法となることが多いですが、フィールドワークだけすれば論文が書けるというのは大きな誤解です。フィールドワークでわかったことをまとめただけなら、それはたんなる「報告書」です。「論文」ではありません。自分のフィールドとテーマについてこれまで何が明らかにされているのか。フィールドワークの結果を、どんな一般的で理論的な問題に接続できそうか。これらを知るためには、文献に取り組むほかありません。フィールドワーク(現地調査)を行うとして、それを研究といえるものにするためには、現地調査と共に文献調査が必要なわけです。しかしまた文献ばかり読んで、それで頭が固まってしまうのはまずいことです。エスノグラフィック・フィールドワークは既存の文献や理論の中にはないことを「発見」するために行うのですから。既存の研究を踏まえながらも、それに縛られず、他者の世界に開かれた姿勢をもつこと、つまり文献とフィールドとのバランスを取ることが大切だといえます。

論文感覚を磨く

 「先行研究」はいわゆる「本」だけに限りません。むしろ学術雑誌に掲載された「論文」の方が先行研究として重要であることが多いです。学術雑誌とはどんなものかを知り、それを検索できるようにならなくてはいけません。また「一般向けの啓蒙書」と「学術文献」とを区別できなくてはいけません。同じ「本」として出版されていても、一般読者を対象に書かれたものと、研究者を対象に例えば博士論文を本の形で出版したものとがあるということです。もちろん先行研究を検討する上で重要なのは、後者の「学術文献」の方です。大学院でやることはつまるところ「論文」を書くということです。どういうものが「論文」でどれがそうではないのか区別できるセンスを養ってください。

論文の書き方

 これについてはたくさんの解説書が出ています。それらを読んで参考になる点はもちろんあります。しかしやはり実物の論文に接することで身につくことは大きいです。ここではやや変わった視点から、英語論文の書き方の表現集を推薦しておきましょう:崎村耕二(1991)『英語論文によく使う表現』創元社。論文執筆一般のロジックを理解する上で有益な本だからです。


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