『ぼくの航海日誌』(1991年)は、田村の誕生から1991年までの半生を描いている。自伝である。自伝を書くことで田村は何をしようとしたのだろう。最後におさめられている「二月 白」。その最後の部分。
ぼくにとって現在は
白という色彩 現在を指で触れたかったら
ユトリロの色彩を見るがいい
白という色を産みだすために
ただそれだけのために
ぼくは詩を書く
一行の余白
その白
その断崖を飛びこえられるか
白
田村の「白」とユトリロへのこだわりは『新世界より』の「白の動き」にすでに書かれている。田村の自伝が、最終的に描き出しているのは、その「白」への強い希求である。「白」とはいったいどんな色なのだろう。
それは、たぶん「灰色」と関係している。田村には『灰色ノート』という詩集がある。「白」はその「灰色」と連動している。「白」は「灰色」からうまれてくるのか。あるいは、「灰色」は白からうまれてくるのか。
「白」と「灰色」のあいだで、動きだそうとする田村がいる。『ぼくの航海日誌』は、その動きだすための準備のように見える。
古い年は過ぎ
新しい年がくる その新しい年も
またたくまに
古くなるだろう ぼくらは
過去をつくりながら地上を旅するのだが
どこの国へいっても出会うのは過去ばかり
未来は
ぼくらの背後から追跡してくる
「未来」を「白」を手にいれるには、「過去」を「灰色」を「肉眼」で見つめなおさなくてはならない。「過去」と呼ばれるものと「いま」との「間」のなかにある動き、それを見極めようとしたのだと思う。
青い廃墟にて―田村隆一対話集 (1973年)田村 隆一毎日新聞社このアイテムの詳細を見る |