6月9日、読売新聞は、こう報じていた。
G7、東京五輪の開催支持へ…首脳宣言に明記で調整(見出し)
これは、その後、どうなったか。
まだG7は終了していないから、「首脳宣言」がどうなるかわからないが、きょうの新聞にはこう書いてある。(14版、西部版)
首相、五輪選手団派遣を要請(見出し)
で、その記事のなかに、こう書いてある。
首相は、「安全安心な退会の開催に向けて、万全な感染対策を講じて準備を進める」と強調。その上で「世界のトップ選手が催行の競技を繰り広げることを期待している。強力な選手団を派遣してほしい」と呼びかけた。
日本政府によると、首脳の一人は「全員の賛意を代表して東京退会の成功を確信している」と野辺、支持する意向を示した。
サミットはイギリスで開かれ、議長はジョンソンなのだから、こういうときの「代表発言」はジョンソンなのだろうけれど、名前が伏せられている。
とても変な記事である。
だいたい、菅がサミットに出かけたのは「東京五輪開催支持」を得るためだったのに、こんなあいまいな記事では、意味がないだろう。
これはサミットの別の記事と比較すればすぐわかる。
一面には、こういうくだりもある。
菅首相は拉致問題について、「全面的な理解と協力」を要請し、各国から賛同を得た。
拉致問題では、「各国から賛同を得た」。しかし、五輪開催については、首脳の一人が、「支持する意向を示した」。
支持したではない。
この微妙な違いこそが「外交」である。
ことばが問題なのだ。
これでは「まずい」と思ったのか、必死になってフォローしている。07:44更新のウェブ版には、こう書いてある。
菅首相の五輪開催決意にバイデン氏「首相を支持する」…4月以来の会談(見出し)
【コーンウォール(英南西部)=藤原健作】菅首相は12日、先進7か国首脳会議(G7サミット)の会場でバイデン米大統領と断続的に計約10分間、会談した。菅首相が今夏の東京五輪・パラリンピックの開催に向けた決意を改めて述べたのに対し、バイデン氏は「首相を支持する」と明言した。
「首相を支持する」と明言した、とは微妙な書き方である。4月の会談では、たしか「開催に向けて努力するという菅の姿勢を支持した」という意味だったと記憶している。今回も「首相を支持する」であって、「東京退会開催を支持する」ではない。似ているが、違う。バイデンは東京大会に強力な大選手団を派遣するとは明言していない。明言しているなら、新聞はそう書くだろう。明言しているのに、そう書かないとしたら、読売新聞の菅応援の仕方は間違っている。いまこそ、バイデンは「大選手団を派遣すると明言した」と書くべきときである。それができない。
ここに「外交」(ことばの問題)が隠れている。
だいたい4月の会談でいったことを、ひっくり返せば問題である。だから、単純に4月にいったことをバイデンは繰り返しているだけなのである。何も進展していない。
それを指摘しないのはジャーナリズムとして問題がある。
サミットの首脳宣言がどうなるか、まだわからないが、「東京五輪の開催支持へ…首脳宣言に明記で調整」という見出しは、あくまで「調整する」という意味であって「開催支持」ではない、と言い逃れるつもりかもしれないが、こんな「世論誘導型」の表現はやめるべきだろう。世論を誘導し、菅を支持するのではなく、現実を報道し、菅につきつけるべきだろう。
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時系列が前後するが、11日の朝刊(西部版・14版)には
五輪規則違反 厳格処分/感染対策 制裁金や大会除外/選手や関係者 IOC指針明記へ(見出し)
とある。選手や関係者(取材記者を含む?)が、繁華街や観光地に出かけたら処分するというのだけれど、これはすでに、東京大会は「安全安心」ではない、と言っているに等しい。「安全安心」であるためには選手、関係者の行動制限が不可欠であると言っているに等しい。
だいたい、選手、関係者の行動を制限することが「誰にとって」安心、安全なのか。
選手にとって? 日本国民にとって? 「制裁金」をとるというくらいだから、自業自得(?)の選手、関係者の「安全安心」ではなく、日本国民の「安心安全」だろうなあ。
そうすると、「おもてなし」をするはずの日本国民が、いわば「交流をしない」という外国選手、関係者からの「新しいスタイルのおもてなし」を受けるということになる。
選手はともかく(大会に出ないといけないから)、取材記者がこんな「条件(指針?)」を守るかねえ。
記者というのは、何がなんでも「独自のニュース」を手に入れようと動き回るもの。人の書いていないことを書こうとするもの。
読売新聞の記者は、菅周辺からリークされたことを記事にして「特ダネ」と喜んでいるけれど、それは独自取材で手に入れた情報ではない。外国の記者が、読売新聞の記者と同じことをして満足するとは思えないなあ。
読めば読むほど、ばかばかしさが募る。