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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

『田村隆一全詩集』を読む(75)

2009-05-05 01:03:10 | 田村隆一

 「主語」という作品は、いくつもの断章で構成されている。そのなかの「言葉」。

文字で読むものではない
耳で触れるものだ

 この2行が、私は好きである。私は黙読しかしない。音読・朗読はしない。けれども、「耳で触れる」。耳で受け止めることのできないことばは、私には理解できない。「耳」は「声」を聞く。書かれたことば、文字には、もちろん「声」はないが、その文字のむこうから「声」を感じる。「耳」で触れるとは、そういうことだ。視覚(読む)が視覚を逸脱する、超越する、そして耳・聴覚は、聴覚を逸脱して、触覚にさえなる。
 これに類似したことが「夜よ ゆるやかに歩め」にも書かれている。

近代の人間くらい哀れな存在はない
科学的不可逆性の世界に生きる人間という生物は五感を奪われ
明日になれば死滅する言葉と
一握りの灰で造られた動く標的

 「五感を奪われ」というのは、それぞれの感覚のことではない。「五感」として「ひとつ」の感覚のことだ。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚。それは、「ひとつ」である。「肉体」のなかで融合している。互いに越境し合っている。絵をながら感じる音楽がある、音楽を聴きながら感じる手触りがある、匂いのなかに味覚がある。そういうことは誰もが体験する。けれど「科学」はそれを分断し、それぞれを独立させてしまった。
 そのために、ことばは「生物」(生きている存在)から切り離され、つまり「いのち」を失い「死滅」するしかなくなってしまった。
 田村は、そういう「死滅」を強いるものと闘っている。ことばで。ことばに「五感」を取り戻すために。感覚が融合した、あいまいなもの、矛盾したものにするために。

 「ぼくは歩いている」の感想を書こうとして、ふいに、その前に書きたくなったことがある。それが、いま、書いたことだ。「ひとつ」と「五感」の関係。ことばと「五感」と「ひとつ」ということと、「孤独」というものを結びつけたいのだ。私は。

北へ北へむかって歩いているうちに
やっと
「孤独」の意味がわかってきた
「孤独」とは「歓び」
人手をかりて生きてきたくせに
北海の
大西洋の
湖の
光と香りとが

その微風と牧草の色彩の変化が
教えてくれたのさ

ぼくは歩いている
ジェット旅客機
皮靴
ネクタイ
みんな嫌い 大嫌い

拘束されないために
歩いている できるなら
裸足で歩きたい 小さな花 小さな星

 「拘束されないために/歩いている」。そこに「孤独」と「歓び」の融合がある。「拘束」とは、「視覚は視覚」「聴覚は聴覚」というような「分類」のことだ。そういう分類のなかに「歓び」はない。「歓び」は「五感」そのものになること。「五感の融合体」になること。「五感」そのものとして「ひとつ」、つまり「孤独」。そのとき、「歓び」があふれてくる。
 田村は、イギリスで知った「微風と牧草と色彩の変化」そのものについては具体的には書いていないが、その「変化」のなかに「孤独」を鍛える何かを感じている。
 この「孤独」は「礼節」とも通い合う。「灰色のノート」の「3」の部分に、次の行がある。

野の花を見よ
といったって年という高層ビルが林立する廃墟には
野はない
野がなければ野辺送りもできないじゃないか
礼節が失われたゆえんである
礼節とは自然を敬愛することではない

 「自然」のなかで、人間は「孤独」になる。「人手をかりて」生きることをやめる。「視覚は視覚」「聴覚は聴覚」というような「近代的分類」を捨て去って「五感」にもどる。引き戻される。「孤独」へと生まれ変わる。その瞬間、「五感」が復活し、「歓び」があふれる。


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田村 隆一,金坂 健二,ジェリー・ルービン
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1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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田村隆一全詩集を読む(75))) (大井川賢治)
2024-03-04 17:56:10
/一握りの灰で造られた動く標的/面白い表現ですね。銃をもって戦場を走り回った兵士からしか発せられない1行ではないのでしょうか~そんなことを感じました。
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