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詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

池澤夏樹のカヴァフィス(76)

2019-03-05 00:00:00 | 池澤夏樹「カヴァフィス全詩」
                         2019年03月05日(火曜日)

76 認識

わたしが若かった頃の歳月、悦楽の生活--
その意味が今になると明らかに見える。

悔やむのはまったく無益な、無用なこと……
しかしあの頃は意味が見えなかったのだ。

 「意味が見える」と「意味が見えなかった」の対比の仕方がおもしろい。「見える」という現在形は「若かった頃」という過去と結びつき、「見えなかった」という過去形は「悔む」という現在と結びついている。
 時系列を分かりやすくすると、

わたしが若かった頃の歳月、悦楽の生活--
あの頃は意味が見えなかった。

悔やむのはまったく無益な、無用なこと……
その意味が今になると明らかに見えるのだから。

 になる。しかし、そうすると、認識の変化(?)が、小学生の作文みたいでおもしろくない。「朝起きて、顔を洗ってご飯を食べて、学校にきました」見たいな感じだ。
 池澤は、

述懐というカヴァフィスには珍しい内容が先行して修辞的にも韻律的にもほとんど凝ったところのない詩篇。

 と註釈しているが、「意味が見える」と「見えなかった」の対比のさせ方は「凝っている」と私は思う。
 「意味が見える」「意味が見えなかった」と書いたあと、カヴァフィスはその「意味」がどういうものか書いている。「見えなかった」をいったん経由して「見える」へ引き返す形で読者に「意味」を提出する。これもとても印象に残るレトリックだ。

若い時の放縦な生活の中で
わたしの詩の衝動が形成され、
その技術の領域の輪郭が描かれた。

 「描かれた」は過去形だが、実際はそれが現在を支配している。この書き方も印象的だ。



カヴァフィス全詩
クリエーター情報なし
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