詩はどこにあるか(谷内修三の読書日記)

日々、読んだ本の感想。ときには映画の感想も。

脇川郁也『マンハッタン点描』

2021-10-10 11:09:10 | 詩集

 

2021年10月10日(日曜日)

脇川郁也『マンハッタン点描』(花書院、2021年9月11日発行)

 脇川郁也『マンハッタン点描』はマンハッタンで書かれたのだろう。しかし、『マンハッタン点描』という詩集のタイトルがなければ、マンハッタンを思い浮かべないかもしれない。なんとしてもマンハッタンにするために「写真」が組み込まれている。活字の組み方も「点描」の印象を呼び覚まそうとしているのか、不規則である。
 「路地」という作品。

以前に住んだことのある街に
数年ぶりに訪れたことがある
見なれたレンガ色のビルの手前から角を曲がった
こどもの声が響いてくる路地に入ってゆくと
ぼくの脇を風がすり抜けた
不愉快なはずのアンモニアの臭いだが
それが妙になつかしい
振り向くと
十二のころのぼくが
どぶ板にしぶきを上げている

 これではニューヨークを思い浮かべることができない。ニューヨークでもどぶ板を「どぶ板」と呼ぶか、というのは変な疑問かもしれないが。それを脇においておいても、ニューヨークが思い浮かばない。
 なぜだろう。
 「角を曲がる」「路地に入っていく」という動きが「定型」だからである。もちろん人間の動きに「定型」以外の何があるかと問われたら、ないと答えるしかないかもしれないが、この定型が「振り向く」を経て、それが後ろを向くという肉体の動きだけではなく、「十二のころのぼく」を思い出してしまっては、ニューヨークを舞台にする必要はないだろう。
 この「定型」は「ファーストベース」では、秋亜綺羅(あるいは寺山修司)の愛用する「定型」と似た形で展開する。

少年の目がボールの行方を追っているあいだ
ファーストベースの在り方について
考えをまとめなければならない
走り抜けるものであり ときには刺される場所であり
あるいはセカンドを狙う拠点である
歩かされてたどりつくところだが
そこが目的ではない

 てきぱきと論理が進む。「そこが目的ではない」は泣かせる定義だが、こんなところで泣かせるというのも、すでに詩の「定型」になっている。
 「定型」にぴったりはまっているから、とてもよくできているように見える。実際、よくできているのだと思う。
 でも、なんというか。
 よくできている詩だと言ったら、そのあとことばが動いていかないのは、やはり問題があると思う。
 いや、これは脇川の問題であり、私の問題だ、といわれたらそれまでだが。

 

 

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