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エッセイとショートショートと―あちこち話が飛びますが

「ひと晩考えさせて」

2005-03-13 08:45:48 | ショートショート
 長いこと悩んだあげく、思い切ってM子に「好きだ。付き合ってくれ」と言った。すると彼女、ちょっと間を置いてから「ひと晩考えさせて」と答えた。それがどういうことなのか、YesかNoでしか返事が来ないものと思っていた僕には、すぐには意味が呑み込めなかった。でも、軽々しく「いいわよ」なんて言わないところがまたいいと思った。
 その晩、翌日の彼女の返事に思いを巡らせながら、僕は希望と絶望との間を行ったり来たりしていた。「ひと晩考えさせて」と彼女は言った。今夜ひと晩、何を考えるのだろう。付き合うにふさわしい男かどうか、じっくり考えるのだろうか。それとも、何か僕のことを調べたりでもするのだろうか。もっとも、やましいことは何もないのだが。
 ひと晩、ひと晩、ひと晩……ウトウトしているところへ電話が鳴った。
「あの、…」
 女の子の声だったのでとっさにM子だと思った。が、知り合いのS美だった。わりとよく話をする子だ。
「どうしたの、こんな時間に」
「あのね、一度しか言わないからよく聞いてね。実は私、あなたのこと好きだったの。付き合ってほしいの。でね、変な話だけど今夜中に返事がほしいの。できれば今すぐ」
「今すぐ? どうして?」
「どうしても。わけは聞かないで」
 女の子に告白したその日に別の女の子から告白されるなんて変だな…と、ここで僕は気がついた。確かM子はN男に惚れていたと思うし、そしてN男はO代にぞっこんだというのをどこかで聞いたような…。
 つまり、どのくらいの大きさかはわからないが、一つの輪っかができているらしいのだ。とすれば、僕の返事ひとつで、どこがつながりどこが切れるのかが決まってしまうことになる。一瞬のうちにここまで頭が回った僕は、何だかおかしくなってきて、笑い出してしまった。
「ねえ、何笑ってるの?」

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