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エッセイとショートショートと―あちこち話が飛びますが

許してやろうか

2006-12-31 09:49:41 | こころ
 
 歳末。今年の仕事も終わらせ、大掃除も済み、年賀状を書く段になると(いつもギリギリ)、穏やかな心持ちになってくる。年賀状に記すひと言も、つい優しい言葉になる。

 その年賀状を作るためUSBケーブルが急ぎ必要になり、近くの電器店に買いに行った。10年以上前、修理に出した掃除機が直っていたのに連絡を寄越さなかった店だ。二度と行くもんかと決めていたのだが、仕方ない。ところが応対した店員が生真面目そうな男で、昔のことなど、どうでも良くなった。向こうは代替わりしていたようだし、僕の掃除機のことなど、知っているはずもない。つまり、僕だけが、10数年間、ウラみを抱えていたってことになる。それが、消えた。
 小さな店なので、大型店よりいくらか高かっただろうが、この600円は、安い買い物となった。

 もう一つ、似たような話。3年ほど前、スカスカのものを売りつけたミカン直売店に10月、再び寄る機会があった。今さらながら、ちょっと文句を言うつもりであった。ところが応対した主人がまた人の良さそうな男で、旬のミカンがこれこれで、そのあと別のミカンが出回るというようなことを、いろいろと教えてくれた。買うつもりは元々なかったが、それ聞いているうちに何だか文句言う気持ちも失せ、「また来ます」と帰ってきてしまった。
 あるいは、スカスカのミカンを買わされた他の客から、既にさんざん文句を言われているのかもしれない。

 何年にもわたって恨んでいたものが、今年、両方とも溶けてなくなった。何だか、荷物を2つ、降ろしたような気分。向こうは覚えていなくても、こっちが覚えているってことはよくある。気持ちの負担は、もちろん覚えている方が大きい。許すことで、その負担はなくなっていく。許してやった方が、人生楽しく過ごせるのかもしれない、と思う。
 もちろん、ひどいイジメやセクハラ、裏切りや一方的な別れなど、許しがたいものもあるだろう。それはそれで、何て言うのか、普通だったら考えないようなこと、感じないようなことを経験できたのだと考えられれば、それらを〈克服〉したと言える。難しいには違いないが、それは〈自分で〉決めることができるものだ。

 何だかしんみりしてしまいました。皆さま、良いお年を。
 

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恋をしようよイエィイエィ

2006-12-24 08:29:26 | 女の子
 
 クリスマスイブ。家族や恋人同士で、あるいは友達同士で何か予定立ててる人もいることだろう。
 しかし、僕も若い頃あったのだが、一人ぼっちで特に予定もない、という人も多いに違いない。街に『ジングルベル』や『ラスト・クリスマス』が鳴り響いているのに、何か取り残されたような気分・・・。

 でもそれはそれで、悪いことではない。一人の寂しさを知らない人は、おそらく人の寂しさもわからないに違いない。また、寂しいからって無理して誰かと何かをやろうとすると、余計つまらなかったり、不愉快な思いをしたりするってこともよくある話。
 一人の時は、一人の時間を楽しむのがいい。孤独なときは、孤独を味わうがいい。侘しいときも然り。そうして人は、大きくなっていく。そういう経験がないと、いわゆる深みのない人間にしかなれないだろうと思う。それは、年齢とは関係ないような気もする。

 本題に入ろう。恋をしようよ、という話。
 たとえ一人ぼっちだとしても、恋はしていたい。それは隣りのクラスの子でも、職場の子でも、芸能人でもスポーツ選手でもいい。誰かに憧れているということは、その人にふさわしくなるよう、自分を高めることにつながる。体を鍛えたり、スタイルを良くしたり、勉強に励んだり、と。そういう努力のためのエネルギーに、恋はなってくれる。
 かなわなくたっていい。だいたい、世の中かなわない恋の方が圧倒的に多いに違いない。それは、有名人だってアイドルだって同じこと。
 みっともなくたっていい。年取って、そういうミットモナイ恋の思い出のない方が、よっぽど寂しい。
 それから、年取ると体の方がナえてしまうのは仕方ないにしても、気持の方はナえてはいけない。「あ、いいなあ」と思えるような人を常に持つことだ。僕も恥ずかしながら、素敵だと思っている会社の女の子、アイドル、女優、歌手がいる。だからガンバれる。

 脳科学者の茂木健一郎氏が言っていたが、脳を活性化させるには3つのコツがあるそうだ。何かに没頭すること、プチダイエット(空腹の時間を持つこと)、そしてもう一つが恋をすること、だそうだ。
 恋をすると、自分を磨こうと頭を使う。これがいいそうだ。恋をしない人間というのは、つまらない。憧れの人を持つというのは、いいものだ。若かろうが年取ろうが、関係ない。相手が芸能人であれ、恋をするというのは、いいものだ。おそらく、気分的に若々しさを保ってくれるのだとも思う。「恋なんてどうでもいいや」っていう投げやりな気持ちに陥ってしまうと、自分をもっと良くしようなんて気にならなくなる。それじゃあ進歩がない。覇気がない。モテようがない。

 話は飛ぶけれども、モテる男ってのは、仕事なら仕事、勉強なら勉強、スポーツならスポーツに打ち込んでいる奴だ。女の方なんか見ていない。女の方見ている奴は、モテっこない。

 ところできょうの表題、2002年に解散してしまった〈リンドバーグ〉の代表曲のタイトルから拝借してきたもの。
 若い人たち、いや、年取った人たちも、恋をしようよ!
 Happy Christmas !

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「デリート〈削除〉」(下)

2006-12-17 09:02:36 | ショートショート
 さて、コピーながらお気に入りの服のすそを気にしつつ出社した浩美であったが、オフィスの入り口でいきなり陽子と孝志が話をしているのを見てガッカリしてしまった。孝志はこちらを見てギョッとしたような表情をしたが、陽子と話していたのを見られたからなのか、自分の買ってやった服を、もうしばらく付き合っていない浩美が着ていたからなのか、はよくわからなかった。あるいは、理由はその両方だったのかもしれない。
 その日は最悪の日となった。仕事上のパソコン画面と慣れない視界とが重なったせいもあるし、朝のことが頭から離れず、仕事にも集中できなかったのだ。おかげでミスは重ねるわ、フラッシュメモリーはどこかへ置き忘れるわ、おまけに発注元からはさんざん文句言われるし。

 やり直しまたやり直しで遅くなり、駅のホームでぼんやりしながらも孝志と陽子のことを考えていた。二人は付き合っているのだろうか、孝志は甘い言葉をささやき、服など買ってあげているのだろうか。悔しいが、どう見ても自分と孝志より、陽子と孝志の方がお似合いだった。
 ふと目を上げると、向こうのホームからこちらを見ている中年男と目が合った。少し禿げ上がって小太りの、イヤらしさを感じさせるオヤジだった。うわヤダッ、と思った。そのオヤジの顔には白い矢印が。思わず右クリックをし、〈削除〉を。イヤらしいオヤジは、跡形もなく消えた…。

 次の日の昼休み、またもや話し込んでいた孝志と陽子。孝志がちょっと目をそらしたスキに、陽子を〈移動〉させてやった。二人とも何が起きたのか理解できないようだったが、陽子はすぐに孝志の所へ戻ってきて、「なに今の?」とか言いながらキャーキャーやっている。もうアッタマに来る。
 こうなったら陽子を〈削除〉するしかない。ある日の終業後、ひと気がなくなったところで、廊下を歩いていた陽子を〈デリート〉。誰にも気付かれることなく、陽子は行方不明となってしまった。これでまた孝志は、私の方を向いてくれるだろう…。

 しかし浩美の思惑通りにはならなかった。孝志は浩美を振り向いてくれるどころか、だんだん避けるようにさえなった。陽子の失踪に浩美が関係していることに、うすうす勘付いているようでもあった。視線を向けてくれる回数が少なくなり、たまに向けたとしても、以前よりもそれが冷たくなっていくのを、浩美はツラい思いで感じ取っていた。
 やがて、孝志も〈デリート〉。つまんですぐそばに〈移動〉させることは簡単だ。でも、もはやこちらを振り向いてくれないのなら仕方がない。あんなに好きだったのにね…。しかしそのあと、もっとツラくなってしまった。好きな人がこの世から〈削除〉されてしまったこと、それをやったのが自分であることに、ほとんど絶望的な気分になっていった。
   
 マンションの洗面所で、浩美は思い切り泣いた。顔を上げ、鏡を見る。涙と鼻水でグチャグチャになった自分の顔に、白い矢印が。右クリックをして〈削除〉を…。

     ―――・―――・―――

 ところで、削除したファイルは一時「ごみ箱」に入れられるだけで、〈元に戻す〉とやれば元通りになるはずですが、浩美自身が削除されてしまった今、それを確認することはもはや不可能となってしまいました。
    
 Copyright(c) shinob_2005

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「デリート〈削除〉」(上)

2006-12-10 09:41:32 | ショートショート
 浩美は、とある会社のインテリアデザイナー…と称してはいるが、実のところはデザイナーのアシスタントをやっているだけのこと。
 デザイナーの仕事というと華やかなイメージがあるけれど、浩美の仕事は毎日毎日、専用ソフトを用いてインテリアのレイアウトを作成・変更するという、非常に地味なもの。壁紙の色や模様をパソコン上でいろいろと変更したり、家具やカーテンの形を変えたり、つまんで移動させたり、ということの繰り返しだ。創造的な仕事とは言えるが、一日中画面ばかり見つめているので、目が非常に疲れる。偏頭痛というのか、頭が痛くなることもしばしばだった。
 浩美にはそそっかしいところがあって、顧客の意向を勘違いして、注文と異なるものをこしらえることもよくある。まあそんな時は、画面上で修正するなり〈デリート〉キーを押すなりすれば済むのだが、顧客の信用を回復させることは、そう簡単ではない。

     ―――・―――・―――

 もう陽子ったらアッタマに来る。どうせ私はおっちょこちょいだけど、人が失敗作出したあとに自分のレイアウトを持ち出してこなくたっていいのにね。これ見よがし、というのか、イヤミよねー。孝志にも見られちゃったじゃない。

 ある朝のこと、起きるとどうも目の前が変だ。まるで視界全体がコンピュータ画面のような…。てっきり夢の続きでも見ているのかと思ったが、どうもそうではない。視界の中に白い矢印(つまりカーソル)が出ており、たとえば冷蔵庫の方に意識を向けるとその矢印が冷蔵庫に重なる。着替えようとすると、その服に矢印が重なる…。
 まさかとは思ったが、お気に入りの服に矢印を合わせ、ダブルクリックをイメージしてみた。するとその服の大写しとともに、メーカー名や買った日、買った店、それに値段が目の前に出てきた。それは確か2回目のデートの時、孝志に買ってもらったものだ。試しに右クリックをイメージすると、〈コピー〉や〈削除〉と出てきた。〈コピー〉をクリックしてすぐ横に〈貼り付け〉をするとあら嬉しや、2着になった。よし、きょうはこれを着て行こう。
 それから、もう着なくなった服に矢印を合わせ、〈削除〉をクリックしてみた。すると思ったとおり、その流行後れのダサい服は、消えてなくなってしまった。ついでに、前々から動かそうと思っていたベッドとテレビを1メートルほど〈移動〉。力をほとんど使わないから楽ちんだった。

 マンションを出てからも、目の前の白い矢印は消えることはなかった。途中の歩道橋を渡りながら下を眺めているうち、ちょっといたずらしたくなってしまった。
 足がぶつかったか何かで、子供を怒鳴りつけているガラの悪そうなおっさんを、向こうの交番の警官の前に移してやったり、朝からイチャイチャしているカップルを、別々の電柱の横に移してやったり、会議でもあるのか、大急ぎで走っているちょっと見カッコいい子を、向かっているビルまで移動してやったり…。
 さすがに車は危ないとは思ったが、排気音うならせてジグザク走っている真っ赤なやつを、少しだけ浮かせて、ついでに色も、シブーい抹茶色に変えてやった。よほどびっくりしたのか、あとはノロノロ運転になり、そのせいで後ろから逆にクラクション鳴らされたりして、面白いこと。
 ただ、おかげで浩美は遅刻しそうになってしまったのだが。
                        (つづく)

 Copyright(c) shinob_2005

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平和な世の中の陰で

2006-12-03 09:24:17 | エッセイ
 
 師走。紅白の出場歌手(知らない歌手がまた増えた)や流行語大賞(「イナバウアー」と「品格」だった)が発表され、そろそろ〈今年の漢字〉も(今年はおそらく「王」だと思うが)、というこの時季になると、このまま何事もなく終わってくれればいい、という気持ちになる。

 平和な世の中の陰で、と書くと、裏でうごめく怪しい動きという話みたいだが、そうではなく、そういったものを誰かが防いでいるという話(特に最近では、ネット監視というのが重要な仕事になっている)。

 たとえば乗り物。自動車に新幹線、飛行機に船。たまに事故や故障はあるものの、乗り心地に始まって、安全性や耐久性といったことについて、数々の実験や検査が行なわれているに違いない。さらに、鉄道などは時間通りの運行ができるよう、線路や架線の保守点検も行なわなければならない。
 たとえば食べ物。飲み物それに薬といったものを含め、安全性や有効性、そして品質(一定かどうか、異物や菌の汚染がないか)の面で、無駄とも思えるような数々の検証や作業が行なわれているに違いない。さらに、供給不足にならないよう、流通管理に携わっている人たちもたくさんいるはずだ。
 ビルなどの建物しかり、テレビなどの電化製品しかり。研究、開発、製造それぞれの過程でさまざまな検証がなされているはずだ。

 その他、道路や電気・ガス・水道といったいわゆるインフラ整備、環境汚染を防ぐための数々の活動もある。また、ニュースになって初めてその存在がクローズアップされる、警察や入出国管理などの公安関係も、テロなどの犯罪を、未然に防いでいるはずだ。
 事件・事故が起きていないから何もしていないんじゃなくて、その業務の性格上、地道なそして大変な努力をしているから、事件が起きていないのだとも言える(やり過ぎも中にはあろうが)。

 他にも、金融関係やら教育関係やら、さまざまな業種の人たちが毎日毎日、その担当の業務を黙々と(いろいろ問題もあるようだし、グチ言いながらやっている人もあろうが)こなしているからこそ、平和な世の中がある。
 あと、安全とは直接関係ないけれども、娯楽・芸術の世界だと、素人目にはどうでもいいと思われるようなことにも、こだわってこだわって創作しているようだ。

 一般の人たちはあまり意識しないけれども、安全のための活動というのは確かに存在している。そういう、総合すると膨大な努力があってはじめて、世の中平和に保たれている。
 あと1ヶ月、無事に正月が迎えられますように。
 
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