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エッセイとショートショートと―あちこち話が飛びますが

「告白」

2012-05-27 10:12:46 | ショートショート
 どこも大して悪くもないのにこんな所に僕を入院させて、一体どうしようっていうんだ。このとおりピンピンしているし、食欲だってある。今すぐにでもこのベッドから起き上がって、外へ出て行きたいくらいだ。
 それにしてもこの女(ひと)は、どこの誰なんだろう。看護婦さんよりも優しくしてくれるし、時々お菓子や花を持ってきてくれるし、なかなかきれいだ。何より、近くに来るといい香りがする。

 ダメだ、この人しか見えない。この人のことしか考えられない。
 もう耐えられない。今日こそは、この想いを伝えなければ…。

「あのー、どこのどなたかは存じ上げませんが、僕と、僕と一緒になってくれませんか」
「…やだおじいちゃんたら、また突拍子もないこと言って。健太も見てるっていうのに。それとね、退院退院って言うけど、ここは介護施設よ。困ったおじいちゃんねぇ」


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決めちゃえばいい

2012-05-20 14:28:20 | エッセイ
 
 仕事上、法令や規則に従っているかどうか、いわゆるコンプライアンスには気を付けているところ。セクハラやパワハラに加え、最近はJ-SOXなんてものが出てきてまた面倒。
 ただどんな規則であっても、細かいところになると解釈は分かれるもの。また、そもそも規則/法律を作ること自体、どうするかは一から考えなくてはならない。だから難しいのだし(議員や官僚は大変)意見も分かれるし、誰かが「こうだ!」と決めないと物事は前に進まない(当たり前だけど)。
 とある責任者になっている立場上、僕も「どっちか決めてよ」と言われることが多い。一方に決めたら決めたでもう一方を支持する人たちから文句言われるし、その都度頭を悩ませている。で、よく思うのは「おそらく正解はない」ということ。

 決め兼ねるのは結局、どちらにも一長一短あるってこと。いずれも正しいとも言えるし、どちらも間違っているとも言える(ウマい第3の方法が見つかれば別だが)。
難しい事案ほど、何かあった場合のため、みな尻込みをする。
 当局や顧客のことばかり考慮していたら自分とこは大変だし、手間やらコストやら、逆に会社のことばかり考えていてもダメ。

 領土やら補償やら税率やら、世の中決めきれないことはたくさんあれど、誰かが決断しなければならない。
 郵政改革にしろ規制緩和にしろ、小泉さんが半ば強引に進めたけれど、あれはあれで「前に進める」ためには必要だったこと。
 規制緩和と言えば「民間で出来ることは民間に」という謳い文句で、それはそれで結構なことではあったけれど、その後のタクシーやバスの過当競争なんか見ると、連合赤軍ではないがある時点で〈総括〉は必要かもしれない。

 反対派にメゲず、何かやろうとする時は誰かが「鶴の一声」を発しないといけない。でないと何も進まない。法律やお上が決めるのもある程度の枠の中だけ。
 だから、今の時代に必要な人材というのは、物事を前に進めるために「決断する」人。答えがないので決め切れないわけだから、何らか理由つけて決めちゃえばいい。その際、いろんなルールや周辺状況を知っているとともに、反対派を説得するだけの智恵というか人柄も必要だろう。
 ある程度は「嫌われる」必要もある。「いい人」でいたい人はだから、判断する立場にはなれない。「いい人は成功者になれない」なんて言い方も出てくるし、偉くなればなるほどヘラヘラ笑ってもいられなくなる。

 話逸れるけれど、お金もったいないという理由で給食費出さない親や、給食時「いただきます」を言うのはおかしいと言う親など、この頃妙なことを主張する輩が多くて情けなくなる。戦後民主主義あるいは「お客様は神様」の弊害だろうとは思うけれども、ある程度の拘束というか強制は必要かもしれない。
 そういう意味では大阪の橋下さんは明確に答えを出すし、時流に乗った人物だとは思うけれども、カドがあると言うか危なっかしいと言うか、そういう印象はやはりある。

 たとえば原発の再稼動にしろ消費税アップにしろリゾート地の開発にしろ、それをやるやらないを決めるということは、この地球/世の中に何らかの影響を与えることでもある。かけがえのない地球に対し、自分の考えでそんなことしちゃっていいのかな、と遠慮したくなる気持ちは分かるけど、決断しなくてはならない場面ってのはある。それに、この世だけがすべてというわけでもないだろうから。(この世はあの世の“影絵”だという考え方もある)

 …ちょっと話がまた拡がってしまいました。
 〔写真はEテレ『シャキーン!』の名物コーナーだった「答えはない」〕

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いのちの切符

2012-05-13 08:35:21 | こころ
 
 〈奇跡のリンゴ〉で有名な木村秋則氏の『奇跡を起こす 見えないものを見る力』という本を読んだ。
 高校生の頃に龍を見たという話や大人になってUFOに乗せられたという話、無農薬に挑戦するも失敗続きで自殺まで考え、そして奇跡のリンゴが誕生するまで。要するに、その土地が喜ぶような土作りをすれば、自然といい作物が実るというもの。
 何年も掛かってその〈真理〉にたどり着き、通常は農薬をたくさん使わないと育たないリンゴが、ほとんど無農薬で実っているとのこと。つまりは、〈自然の声〉に従って、そこに棲む昆虫や微生物、小動物も大事にしていくというもの。

 このGW前後は、集団登校時の事故や高速バスの事故、春山での遭難、竜巻や落雷といった、かわいそうなニュースが続いた。一寸先は闇とはいえ、突然命を絶たれた本人、それに周囲の人たちはいたたまれないだろうと思う。
 『銀河鉄道の夜』にも出てくるように、誰もが〈いのちの切符〉を1枚ずつ、手にして生まれてくる。それには氏名とともに使命も書かれており、行き先はもちろん〈死〉なのであるが、その経路や長いか短いかは、おそらく誰も知らない。
 僕も、あなたも、あの人も、明日どういう運命なのかは、分からない。

 …とまあ、悲惨なニュースに接すると超悲観的になってしまうのです。あるいはニュースなんか見ない方が、いいのかもしれません。
 しかしこういう時は、良寛和尚の「災難に遭うときは遭うのがよろしい」という言葉が力になろうかと思います。

 ところで、木村さんは去年の3月10日、青森で龍の形をした細長い雲を目にしたそうです(本の冒頭に写真があります)。いわゆる「地震雲」というものなのかもしれませんが、岩石のずれによる電気の発生をナマズなどが感知するように、地殻内で変動があれば、その影響は大気中にも現れるのに違いありません(震や振の字に辰(たつ)が入っているのは偶然か)。
 地中の微生物や虫の存在が樹木の成長に影響を与えるのと同様(また太陽の黒点/磁場が地球の気候に影響与えるように)地面と大気も、お互いつながっているのかもしれません。(この本読んで以来、空ばかり眺めています) 
 他人はもちろんのこと、つながり合っている植物や体内外のバクテリアに至るまで、その〈いのち〉を大切にすることが重要なのでしょうね、きっと。

 僕の場合、龍はもちろん龍のような雲も見たことはないのですが、その昔、目の前に浮かぶ珠を見たことがあります。ひょっとしてどなたか、見たことのある人、あるいはその意味合いの分かる方、いませんか。
 

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タイムスリップ

2012-05-06 09:57:03 | エッセイ
 
 きょうで終わりながら、ほぼ9連休。これだけ休みがあればどこか旅にでも出掛ければ良かったのだが、仕事や用事が入ったり天気もイマイチだったりして、身の周りを片付けることにした(いまハヤリの断捨離)。人生も後半、身辺整理をしておきたいという気持ちもある。
 机の中に本棚、収納スペースを整理していたら、昔の手紙や写真や各種カード、雑誌や新聞の切抜きなんか出てきて、懐かしくその頃のことを思い出していた。数十年前、将来がよく見えず、悶々としていた頃のものも。それ考えると、よくここまで来れたものだと思う。できることなら当時の自分に向かって「何とかなるもんだぞ」と教えてやりたい。(そういう意味では〈未来からの声〉に耳を傾けるのも悪くはないはず)
 もちろん、不要な物はどんどん捨てることにして、勝手口は今満杯状態。たまにこういう片付けをやるのは、身の周りきれいになるのはもちろんながら、精神衛生上もいいに違いない。

 それから、ゴールデンタイムに民放でJリーグの生中継が実に久しぶりにあったのも嬉しい。静岡放送開局60周年ということで「清水×鹿島」。〈エスパルス20周年名場面〉というのもあって、これまた懐かしく見ていた。ペリマンや澤登、その他選手やサポーター、スタッフなど多くの人たちのおかげでここまで来たということに、何だかジーンとしたものだ。(20年前、開幕当時のユニホームなんか、今見ると何とも言えずいい)
 試合の方は、昇り調子の試合巧者アントラーズを3-0と圧倒して勝利。高木→大前のラインで生まれた3点目なんか、泣けてしまった。

 そんなこんなで、今回のGWはかなり有意義に過ごせた。片付けたい所はも少しあるけれど、明日からの仕事も何だかガンバれそう。
 ところで、浜名湖パルパルという遊園地に家族で行ったら、駐車場から何からやたらと混んでいて、GWに出掛けるのはやはりやめといた方が良かったな、と思った次第。

 〔写真は、ドイツの雑誌に載っていた子供向け商品か何かの広告〕

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