Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

夏空とまくわ瓜

2014-07-28 20:58:05 | 

老健施設に入っている92歳の母親の様子を見に伊勢原まで原付2種バイクを走らせる。海老名から相模川を渡るのだが、水の色を近くで見れる橋は「あゆみ橋」という橋で、ここを渡るのはお隣にある新相模大橋等を渡るときのような禍々しさが襲ってこないから気持が楽である。鮎を立ちこんで釣る人の風景を眺めながら国道129号へと向かう。厚木の酒井付近から伊勢原の内陸部へ入ると母親の施設はそう遠くはない。伊勢原・下谷付近の畑作地帯では玉蜀黍(とうもろこし)が照り返す太陽を浴びて猛々しく背丈を伸ばしている。

母親は年を重ねるごとに小さくなっている。二人部屋の小さな部屋でベッドに横たわって38キロ程度の痩せた体を折り曲げて昼寝していた。歩行器に腕を添えて自力歩行してきた母親と面談室のようなところで一時間ほど雑談する。記憶力は強靭で戦時中の疎開地の食べ物の細部まで諳んじるのに、一部に記憶失認がでてきたようだ。施設へ入ってちょうど4年になるが、自分はここにもう10年も入っていると言い張ってやまない。それでも伊勢原に住む孫夫婦のクルマに乗せてもらって88歳の妹が住む浜名湖の奥地へ連れて行ってもらうという夢は膨らんでいるようで、自分もそうしてもらったらいいねと相槌をうっている。最近、筆書きしたという鰻という字を書いた半紙も見せて嬉しそうである。亡妻がよく毛筆時にブンチンを丁寧にセットしていたのを見聞していたようで、そんな情景まで語っていて仲が悪かったわりにはこちらの知らないことまで知っているから不思議なものだ。

いつものように肩をポンと叩いて施設を後にする。遥かに高い夏空を見ていたら急にあの甘くない「まくわ瓜」が食べたくなった。そこで農産物直売所の「わくわく広場」へ寄り道する。この瓜はもう時代錯誤で農家が余興で栽培しているものが、秦野、伊勢原付近で少々出回っているくらいだ。ちっとも甘くはないが夏の瓜臭い香りが好きだ。1個200円でこれを買い不揃いの大玉、小玉が混じったトマト、農家自作の糠漬胡瓜などを買って座間へ戻る。一晩冷蔵庫でよく冷やしたこの黄色い瓜を縦割りにして翌朝頬張ってみた。今年も夏を生きているという仄かな甘みが口中に広がっていく。