Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

スペインのジャズ教育パワーに驚愕する

2014-07-07 20:02:55 | JAZZ

四季に一度の荻窪ジャズ・オーディオ詣の一日となる。いつもは新宿駅を降りるとメトロの丸の内線を選ぶが、この日はどういうわけかJRにて荻窪桜井邸へと向かう。総武線の三鷹行に乗って荻窪駅に到着する。するとホームの上で偶然の邂逅に出くわす。調布にあったジャズ専門校にて音楽理論といっても現代音楽の楽理エキスパートだったM先生である。M先生は荻窪の北方向に位置する上井草に住んでいるとのことで10年ぶりの再会に喜ぶ。心配していた共通の知人の消息を尋ねて無事健在を確認してからM先生は上り電車の人となる。荻窪での昼飯はいまさら「春木屋」「丸福」でもあるまいと付近の露地を歩いて見つけた新顔の「久保田」という中華そば店に入ってみる。650円のラーメンを食べてみる。メニューはあと一種類だけというシンプルなお店だ。ラーメンの味は恵比寿の駒澤通りにあってその前は渋谷の並木橋付近が前身のよく通ったことがある「香月」の系統だ。背脂が浮遊する薄めな色の醤油スープが特徴だが、「香月」の店員と同じようなしぐさでスープを濾しているところまで似ている。スープは塩気のやや強いところが短所だがラーメン全体は丁寧に仕上げていて美味だった。

ジャズ&オーディオの第一人者桜井邸の夏の目玉は新着でなじんできたアメリカの価格破壊オーディオ製品ながら音質も一級という噂の「エモーティバ」のアンプ、CDプレーヤーを聞くこと。来年の初夏に日本へやってくるスペインのアンドレア・モティスというティーエイジャーのマルチタレント(19歳女子、ボーカル、トランペット、アルトサックスを全てこなしてヨーロッパ中のジャズツアーでひっぱりだこという天才)のスコット・ハミルトンとの共演CDやセント・アンドリュースジャズバンド(これはスペインバルセロナのジャズリトルリーグ的超絶技巧ビッグバンドでの彼女のプレイ)のライブDVDを見せてもらう事等である。

エモーティバの機器試聴はKEFの超小型スピーカーLS-50でフルに楽しめた。自分が持ち込んだ愛すべき現代ジャズピアニスト、ホッド・オブライエンの「ニューヨークピアノ」シリーズとして知る人ぞ知るレザボアに吹き込んだ「ブルーズ・アレイのセカンドセット」におけるソニー・ロリンズのシンプルな快速調の名曲「ペントアップハウス」やバラードの「ラブレター」等を聞いてエモーティバの音作りが音を気持よくぐいぐいと前に押し出すジャズ向きのポリシーに貫かれていることを納得する。三日前にセットしたというバランス型の高級バージョンのプリアンプと桜井氏のエンスーぶりを証明するSUMOのパワーアンプという組み合わせ、ダブルウーファーのウエストレークスピーカーで聞く噂の「セント・アンドリュースビッグバンド」の音の豊かなプレゼンスにはそのオッポ製マルチCDプレーヤーをとおした大型プロジェクター画像共々、ジャズを趣味とする幸福をしみじみと味わう。

セント・アンドリュースビッグバンドは7歳から18歳までのバルセロナにおけるジャズ英才選抜バンドだ。このメンバーには幼児期からジャズに接してきた凄い女の子や男の子がひしめいている。アンドレア・モティスはいわばその頂点に突出した存在だ。スイングするという教育がスペインのジャズには健全にある。残念だが日本には個々の冷ややかな俊才は時々現れても陽気で太いジャズテイストの幹には育っていないことの落差を感じてしまう。

このバンドの大きなライブコンサートにはアメリカの凄腕ジャズマンがゲストで招かれている。アルトサックスのジェシ・デイビス、トランペットのテリル・スタッフォード、トロンボーンのウイクリフ・ゴードンというジャズ的内圧と技巧のバランスを誇る黒人若手ジャズメン達だ。この連中がフィーチャーされてソロをとったり、バンドに混じって吹奏するのも楽しい見どころだが、チビッコバンドメンバーの歌心をいったいどこで身につけたのだろうというナチュラルなボーカルプレイや楽器ソロ、とてもよく弾んでスイングするという見本を示す分厚いアンサンブルに深い感動を覚える。末尾を彩っているビッグバンドジャズの名曲「パーディド」には唸ってしまった。1950年代のウディー・ハーマン楽団から押し寄せてくるジャズ的怒涛と同質の圧倒性である。1995年生まれのアンドレア・モティスさん!日本にやってきても頼むから、「東京ジャズ」などという田舎芝居小屋には出ないで欲しいよ!と内心で呟く。彼女の歌で感動した曲が「アイ・フォール・ラブ・ツー・イーズリイ」「サン・シャワー」。フレッシュサウンドのスペイン強し、日本のジャズはなんだかプアーだねと桜井さんと語り合ってから、夕飯を食べに善福寺川の畔をゆっくり歩きながら再び荻窪駅へと向かう。