Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

黒田千里陶芸人逝く

2014-06-28 11:14:02 | その他

梅雨の晴れ間になった金曜日は逗子、三浦方面へ気まぐれドライブに出かける。逗子の市役所脇にある亀岡八幡の境内が静かに賑わっていることを目撃した。福祉関係による神社フリマで出品者は地味と気品を共存させている逗子住民のようだ。なぜ「地味」と「気品」などという意味不明な形容語を発しているのかは小さな野草を物色している70歳前後の婦人の足元を一瞥して感じた次第だ。分かる人には分かるという写真画像に込められているシーニュである。八幡フリマの収穫品は卑近で可愛いものばかりである。

ちょうど買おうと思っていたメダカ用の水草、出回り始めた三浦地場産の赤くてごつい露地栽培トマトを1キロ、フリマ出品者のぐい飲み3客の合計で800円だ。メダカの水草は根っこに孵化を待つ卵の粒子がたくさん張り付いていることを語る、とても実直そうな年金暮らし風の販売老人のトークに魅せられて買う。ぐい飲みの3客は全て良品だ。伏せてあるのはとてもテクニックがエレガンスな赤絵作品だ。並列の2個は鉄絵とイッチン風絵付けの良品で同じ作者の印刻が底に刻まれている。どちらの草文のタッチも洋画的センスが発露している。狭い器体いっぱいに走っているアブストラクトな筆致に魅せられてしまう。備前の湯飲み茶碗も2個あった。こちらも1個100円だが木村陶峰苑あたりの数もので作風が硬いのでパスする。販売者の気品あふれる逗子姉妹にぐい飲みの洋風垢ぬけ印象を一言お世辞に添えてみたら、祖母がそのような生活センスに満ちていた人だったと喜んでくれた。

逗子を後にして気になっていた黒田千里さんが主宰していた金田湾、湯走神社奥の「夢の遁坊農園窯」を訪ねてみる。周りの大きな畑地では地這性のカボチャやスイカが花を咲かせて盛夏がそこまでやってきていることを物語っている。三浦霊園方面の細い谷戸道を辿るのは二年ぶりだ。黒田さんが横須賀平作を後にして移転したこの金田湾奥の山里には数回訪ねたことがある。ちょうど先週の金曜日あたりに黒田さんのことを思い出した。気になってからちょうど1週間が経った。京急三浦海岸前の回転寿司店で昼をとってから、海沿いの道を走って辿りつく。窯の入り口にはクルマが数台止まっているので不在ではなさそうで安心する。しかし登り窯に面した休憩部屋を訪ねてびっくりする。居合わせた数名は黒田さんの弟子にあたる陶芸制作の趣味人らしい。面識がないせいで先方もやや四角四面の受け答えをする。主人の所在を尋ねる。返ってきた答えは「ちょうど19日頃お亡くなりになりました」とのことだ。やっぱりその頃に呼ばれていたのだ!とその不思議に得心してしまう。この前お会いした時も老衰は進んでいた。

その二年前は自家菜園の野菜を見せていただいたり気力を感じた。うちのお袋と同じ大正11年生まれの92歳じゃ仕方ないかと述懐にふける。平作移転後の新登り窯のエイジングには気を砕いていた。東海道の五十三次も徒歩で走破してよいスケッチ画もしたためていた平作時代の元気な黒田さんを思い出す。窯を移転するときに安く譲っていただいた大きな焼き締丹波風らっきょう徳利等大きな瓶子類はいまでも自分なりな終生の愛用壺になっている。一番よい頃の気力が反映した素晴らしい作品だ。カップボードに納めてある緑茶用の碗も黒田さんが焼いた不可欠な愛用品でこれもふだん使いには欠かせない一品である。

農園窯に近い見晴らしの広い畑地から東京湾の入り口を眺める。季節はちょうど麦秋で熟れた麦の穂が南西からの海風にそよいでいる。黒田さん、陶芸人を真摯に貫かれておつかれさまでした。愛用する壺や茶碗が傍にあるから遠くへ行ったとは思いませんからね。お別れの呟きをしてから、野菜類の在庫豊富な「すかなごっそ」という三浦地場産JAショップへと向かうことにする。


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