Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

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横浜市中区麦田町1-5

バーナード・リーチ展を見る

2012-07-27 06:44:50 | その他
猛暑が戻ってきた。かねて約束していた駒場にある日本民藝館でバーナード・リーチ展を見学する。同行する友人が総勢6名という暑さにもめげない元気なシニアによる夏季遠足の様相をきたす。

敬愛するリーチについては棚橋 隆の著作「魂の壷 セントアイヴィスのバーナード・リーチ」を読んでいたから、リーチの存在を親しく感じながら展示作品を眺めることができた。
今年はリーチ生誕115年、作陶110年という節目の年とのことで、リーチと民芸精神を共有していた柳 宗悦ゆかりの民藝館らしいさりげなくも力のこもったよい展示会になっている。これまでに浜田庄司の益子参考館などでリーチの陶芸品に接したことはあるが、まとまった展示物を見るのは初めての体験だ。

リーチは香港で生まれ幼年期を日本で過ごし、青年期に再来日して白樺派の文人達と親交を結んで後に現代陶芸の大家になる浜田、河井、富本といった面々とも親交を重ねる。
リーチは柳 宗悦や浜田らと日本の各地を旅行して民窯を訪ねるついでに、現地で陶芸作品を作っている。沖縄、九州、山陰などの民窯で焼いたリーチの作品はどれも西洋絵画的エッセンスを巧みに溶かして当地民窯の日本在来様式と折り合いをつけている作品が多くそこにリーチならではの温かみのある個性が溢れていて唸ってしまう。

例えば加賀の九谷に近い山代温泉で作った小品皿等を眺めていると、九谷焼の色の規則は守っていても絵付けのデザインはどこかバター臭く奔放である。それが類型的な九谷にありがちな鈍重で保守的な色重ねのマンネリズムから解放されていて飄逸な微笑を呼ぶものになっている。

リーチの本に「日本絵日記」という昭和28年からの一年間にわたる日本滞在記録があってこの初版(毎日新聞社刊1953年6月)は我がお宝となっている。この本の口絵グラビアはまだ紙の事情も悪かった時代にしては奢っていてリーチ作の御鹿田焼きの素晴らしいピッチャー(水差し)写真が掲載されている。

これなどもリーチならではの西洋的造型力と日本的紋様の稀有な融和に充ちている作品だと思う。御鹿田の飴色、萌黄色という釉薬の紋様パターンをどこか中近東やイギリス、または日本というどこにも結びついてもおかしくない普遍的な土俗世界へリーチの手がもたらして、既存の殻にこもっている民藝品との違いを我々に教えてくれるのである。

ひととおり見学を終えた中高年遠足隊は、付近にある駒場の東京大学内にある食堂で昼食をとるのか渋谷駅付近でとるのか、若干の意見相違があったが、井の頭線に乗って渋谷駅で食べることに意見がまとまった。センター街の猥雑場所にていまだ昭和の蕎麦屋気風を堅持している渋谷「更級」が目的の店。ここでは殆どが麦飯ととろろ芋に蕎麦を添えた定食をとってから、「更級」の一貫性をそれぞれが讃えあって無事にリーチ展見学を散会することにした。