Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

二宮町のスイートスプリング

2012-02-14 19:27:24 | 自然
小春日和に誘われて近くて遠い町、湘南の二宮町へ散歩に出かける。大昔、江藤淳の評論を読んでいるとしばしば登場する名前があった。その名は山川方夫、吸い寄せられて数冊の小説集を後に購入したことのある少しマイナーな小説家である。昭和39年に発行された「長くて短い一年」(昭和39年光風社刊)などは今でも時々、季暦風に組んだコント仕立ての短編小説に登場するそれほどハッピーとはいえない女達の面影が魅力で読み返すことがある。その山川方夫が住んでいたのが大磯よりも西に位置する海辺の町二宮で彼は交通事故にあって働き盛りの年齢なのに惜しい死に方をしている。静かな二宮の町へ中井町の方から車で進んでいる時に山川方夫のことといかにも痛恨の思いで呻いている江藤淳の心境をふと思い出す。

二宮町には湘南の海辺からすぐに急峻な小山があってそこの頂上に日溜りの楽園みたいな「吾妻山公園」がある。駅の北口に入り口があって、厳寒に倦んでいる近在の家族やカップルが200段の階段を上がって頂上をめざしている。南西方向に大きく眺望が利くこの公園は富士山と数千本の菜の花がウリ!。冬のさなかに春がちょっぴりと顔をみせるように山頂は仄かに緩い陽射しが覆っている。菜畑は満開、はるか西の正面には山すそまで雪化粧した富士山が、南に目を転じれば熱海方面に凪いで煌く相模灘と早春の兆しを満喫できる風景が繰り広げられている。神奈川で一番、春が早いのは二宮町というのは嘘じゃないと思った。
町へ降りてしばしの旧市街地を散策する。駅前にあるJAの直売所で見つけた「はっさく」などの柑橘に混じって売っていたのが「スイートスプリング」というオレンジを弱めたような晩柑だ。これは伊豆半島の早春に見られる「はるか」という種類よりも皮の黄色が薄く緑色が優って皮も厚くて固い種類である。味は茫洋としているが、どちらも香りが美しい。どちらかといえば郊外の新興住宅風に転じている二宮町にも昔の気質を通している店舗がある。「魚三分店」もその一つ、相模湾で上がった魚貝の干物以外にも「しらすと菜の花のかき揚げ」などの天麩羅を揚げて売っている。これは今晩のうどんに添えれば絵になると思って即購入する。この付近から国府津などの旧東海道沿いにはまだまだ昔の気風を堅持している小店舗が潜んでいるはずだが、次の機会にすることにして大磯の国府新宿経由で平塚内陸部、伊勢原という帰路を辿ることにする。