Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

雨音梅香を遮らず

2015-03-08 20:55:18 | JAZZ

 

立春のころ見かけた禅寺院の標語に面白い語句を見つけた。「煙霞不遮梅香(えんかばいこうをさえぎらず)」というフレーズだ。寺院発行によるパンフのコメントには「春の夜のやみにあやなし梅の花、色こそ見えぬ香りやはかくるる」という粋な和歌が添えてあった。内陸に位置する座間周辺はちょうど梅も見ごろを迎えている。春が近くなって雨模様の日が増えている。近所の谷戸道めいた雑木林の縁には放置梅林がある。ここへやってくると少し前に読んだ上林暁の随筆集「幸徳秋水の甥」に登場する南武線沿線の川崎在「久地」の梅林を再訪したエッセイを思い出す。

 

先日ウオーキングのついでに寄って眺めた時はそこの梅も戻ってきた寒気に竦んでいて三分咲きの様子だった。一週間を経た本日は花の蕾は一斉に綻びかけている。ちょうど日曜の来客が都心から二名やってくる。梅の香りももてなしの一部にはなるだろうと思い、道端にはみ出している梅の枝を数本折らせていただくことにする。お客さんは我が小部屋のバイタボックス12インチ同軸スピーカーから発するジャズやクラシックサウンドに魅せられている参詣客的常連だ。小雨を浴びてしけっている梅は花びらもしゃんとして愛してやまない益子の偏古壷とつい最近入手した窓絵の角型壷に挿してやることにした。どちらかといえば孤独めいた部屋にしめやかな春の香りが這ってよい気分になる。「おでん」と「栗おこわ」の昼飯を済ませて午後は新旧を取り混ぜた日曜ジャズ鑑賞会がはじまった。

しばらく遠ざかっていてさりとて忘れることもできないCDを引っ張りだしての大きなボリウムは近所迷惑の臨界域なのかもしれない。大昔、野毛の「ちぐさ」で毎日リクエストしていたリー・コニッツの「モーション」やジャッキー・マクリーンの「4 5&6」等を元気一杯に鳴らす。この「モーション」の愛好曲は「帰ってくれれば嬉しいわ」と「4月の想い出」に尽きる。クールな奏法にもかかわらずハードに疾走するコニッツの即興の大波小波のリフレインをエルビン・ジョーンズの彩りも豊かな革新的ドラミングとソニー・ダラスの特太ウオーキングベースが三位一体的構造をもたらす稀有のジャズ名盤だ。これを聴いていた参詣客の年下さんが上手いセリフを評す。「エルビンのドラムはどこの場面でも「俺。俺。俺!」なんだね」こちらもそれに同意して頷く。「しかしエルビンのおかげでこの演奏はモダンジャズが印象派段階からキュービズムへ変身したようなものになったのでは?」とついでの実感も付け加えることを忘れない。

参詣客へのお薦めCDは夕方までブロッサム・デアリー、ホレス・パラン、ビルエバンス等のよい時期のものを選んでかけたから日曜ジャズ講座は梅の芳香を遮らないよい後味を迎えた。


アナログ青春時代へ戻る

2014-12-29 21:43:21 | JAZZ

大掃除も済み、オーディオ書斎もそれなりに新年らしいレイアウトにして満悦しているところである。アナログレコードプレーヤーの2台による再生音で、この年末年始休み期間を楽しむことにした。気兼ねする家人がいないことは寂しくもあり反面で嬉しいことでもあるから人生は不可思議だと思っている。老いてからの青春が断片として一時的に甦生する時間である。

一台は西ドイツ時代のエラックミラコード、もう一台がイギリスガラード301だ。スピーカーは座間へ到来して二年目を迎えるイギリス、バイタボックスの12インチ同軸2ウエイ型バスレフボックスというようやくサウンドが落ち着いてきたコンビである。ガラードはこの1週間という臨時ステイだから、今日も冬ごもりしながら4時間ほどアナログレコードをかけ続けてしまった。

 

ガラードとGE社モノラルバリレラ針のサウンド傾向は少し高域が硬めだ。フィッシャーアンプとの間にかましたフォノイコライザーの癖が乗っているのかと思う。一昨日はレコードプレーヤーの達人が持参してきた初期オルトフォン社の通称「エッグ」というカートリッジの端正ながら彫琢感の深い音像の素晴らしさに驚嘆する。今日は1枚だけクラシックLPへ脱線した。グレングールドがまだ脱コンサート宣告をする前のバーンスタイン指揮、ニューヨークフィルと共演したベートーベンのピアノ協奏曲ト長調OP58の米コロムビア盤のグレーカラー、シックスアイズラベルのオリジナルレコードである。B面のアンダンテ・コン・モート、ビバーチェといった後半の楽章を移ろいながら、グールドの奏でる幽暗なピアノ音があの「エッグ」カートリッジだったら、また違う次元を聴かせるのか、等と夢想しながら本家のジャズへ戻ることにした。

ジュリー・ロンドンのリバテイ盤「ハー・ネーム」ジョニー・ハートマンのベツレヘム盤「シングス・フロム・マイ・ハート」ディック・ヘイムズのキャピトル盤「ムーン・ドリームス」等は終生の愛すべきオリジナルLPだから、こちらもあちらも鳴らすべき壷を心得て満足の再生音を奏でてくれるもので期待に沿ってくれている。意外にも今日良かったのが器楽系のジャズサウンドだ。

酔っ払い人生によって実生活は破綻はしたが、後世の我々に「サンクス・フォー・メモリー」のようなバリトンサックスの美しく妙なる曲を残していったサージ・チャロフバンドのオランダプレスなどの再版ものがけっこうな迫力を奏でる。ハンク・ジョーンズがドナルド・バード等を迎えたサボイ盤などもエディ・ジョーズのウオーキングベースの強いアクセントは、小豆カラーのセカンドプレスながらさすが、バン・ゲルダー録音というジャズらしい野生を含んだ奔出性が溢れているではないか。バリレラカートリッジと50年代ジャズの時代質感万歳!という至福を覚える瞬間を堪能したから、明日はエラックミラコードの交換針を差し替えて同じソースを感覚的に検証してみようと企んでいるところだ。


「ストックホルムでワルツを」

2014-12-20 08:41:15 | JAZZ

スウェーデンのジャズボーカリスト、モニカ・ゼタールンドのファンだったら見逃せない映画という噂をきいて、金曜日のオフは横浜へ出かける。昔、「大勝館」や「テアトル横浜」のあったくたびれた場末感が色濃く漂う若葉町の一角にある「シネマ ジャック&ベティ」というミニシアターがお目当てだ。平日の午後イチ上映で昼飯を抜いているから、すぐ横にある「大沢屋」のサンマー麺をと思ったら金曜は定休日だった。



すぐに鎌倉街道沿いの交差点にある「一番」のサンマー麺に場所替えする。塩辛くさえなければ老齢単身生活者にはサンマー麺は野菜がたっぷりの総合栄養食でいつも重宝している。相棒の佐々木さんは定時昼食済みにも関わらず「ベツ腹」と称してここのサンマー麺を褒め称えながら完食している。「大沢屋」のものよりも醤油の殺し方が上手いスープで塩味が遠くの方にあるから口当たりがよい。さすが半世紀以上のキャリアを誇る横浜庶民食堂の味わいだ。



「ジャック&ベティ」はマイノリティ映像表現への目配りが効いているプログラムが良心を反映しているミニシアターとして名高い。「ストックホルムで。。」はベティの方の演目になっている。客席数は138、眺めやすいポジションで平日、午後という酔狂な来客は30名くらいか。映画はシングルマザーの癇性もちで才気も素晴らしいモニカ役をエッダ・マグナソンという現役シンガーが演じている。


モニカのジャズ的頂点は1963年のフィッリプス盤「ワルツ・フォー・デビー」だ。そのモニカが夢見ていたエバンストリオとの共演を勝ちとるまでの家族上の葛藤、恋愛遍歴を散文的にしないでスピーディーにまとめたところがこの映画の長所だと思った。随所に登場するジャズ曲はどれもこれも素晴らしい。その背景映像を眺めながら歌は人生だと思うシーンが続出する。しょっぱなに流れるリズムや管楽器の分厚く臨場感あふれるサウンドに守られて歌う「イッツ・クッド・ハプン・ツー・ユー」を聴いて思わず涙腺が緩んでしまう。このイントロ曲を聴いてわかったのはモニカの声質とエッダ・マグナソンとの違いだ。端的に云えばモニカの声は曲線、エッダの声は直線に味わいがあることだ。アルネ・ドムネラスバンドの夏巡業で景気よく歌う「旅立てジャック」などはエッダ・マグナソンのジャズ的パンチ力の真骨頂を感じさせる。デイブ・ブルーベックの大ヒット曲「テイク・ファイブ」のことをスウェーデンでは「イ・ニューヨーク」と呼んでいることも初めて知った。この曲の映像を覆い尽くすゴージャスなサラウンド的ホールトーンを味わいながら、ああ自分は映画の中にいて幸せだと思った。


この映画には1950年代末期のスウェーデンの生活事物もふんだんに登場してレトロ好きな好事家にはこたえられないものがある。小さな子を置き去りにして気丈なママが夏のツアーに乗りこんでいるお洒落な赤色のバスは航空機製造のサーブスカニエ社のものだろうか?モニカが再婚した「私は好奇心の強い女」の映画監督の書斎に置かれているテープデッキはあのいかつい躯体から推測すると「ターンバーグ」ではなかろうか?はたまたモニカが憧れているビル・エバンストリオが奏でる「ワルツ・フォー・デビー」を聴いた後に仕舞い込むハンマートーン色の小型プレーヤーはデンマークの「デルフォン」ではなかろうか?等と推察を始めたらきりがない。モニカ・ゼタールンドの歌った愛すべき曲はビル・エバンスとの「ワルツ・フォー・デビイ」「サム・アザー・タイム」だが、この映画をみて「ゆっくり歩こう」というスウェーデン歌謡調の曲も愛好曲の列に加わってくれた。


 


https://www.youtube.com/watch?v=GF_NDRM3498

2管ペットの味わい

2014-12-12 16:58:12 | JAZZ

木曜日は週仕事が区切れる。そこで解放される夕方はボーカリスト、モニカ・ゼタールンドを描いた「ストックホルムでワルツを」という映画を見るか、新宿1丁目にある「サムデイ」における実力派トランペッター、高瀬龍一、伊勢秀一郎をフロントに据えたジャズコンボのライブを聴くべきか迷ったが、映画の方は年末の最終週までに先送りすることでライブ目当てに新宿御苑付近まで歩くことにする。昼飯が勤務先の近くにあるセブンイレブンで急ぎ飯のプアーなミートソースパスタだったせいか、急速に空腹感を覚える。紀伊国屋書店のある新宿通りを伊勢丹方面に向かって歩いていたら、左側の小路から香ばしいカレーの匂いが雨上がりの湿気をふくんだ空気に運ばれてきた。これは悩ましい香りである。雑居ビルの2階にある老舗カレー専門店「ガンジー」があることを想い出す。「サムデイ」の剛直なアマチュア料理と同じ値段帯なら、煮込んで磨きがかかっているルーの深いプロ的滋味の方がよいと思って寄り道してビーフカレーを注文する。添えられている古風な福神漬もふんだんで、その深い色艶は新興チェーンの「coco一番屋」などで供せられるおざなりな輸入風福神漬とはやっぱりキャリアが違う。

まっとうな東京カレーライスを腹に納めて10分後には「サムデイ」に到着したら、ライブはすでに始まっていた。地下へのドア口から漏れてくる2管ラッパのメロディーはウエイン・ショーターが作った「フット・プリント」の最後のミステリアスなリフ部分のようだ。バンドのお頭は高瀬龍一で伊勢さんはゲストというドラムレスコンボである。このコンビは二度聞いているが、今回が一番よいプログラムだった。お二人のラッパがもつ微妙な質感の違いを楽しめる曲が真のジャズ研究家でもある高瀬龍一によって適切にチョイスされていた。高瀬さんの音色は粒立ちもよくスムーズなブロウが綾なすさまはハードバップ黄金時代のラッパ吹きを彷彿とさせていつも興奮させられる。ジョン・コルトレーンの早い持ち曲「ロコモーション」などでそれはそれは顕著である。

伊勢さんは音色の切れよりも含示に複雑な味わいがあって近頃はバラードプレイで素晴らしい真価を見せている。この晩における2部のバラード・ソロ「ゴッド・ブレス・ザ・チャイルド」などでは痩せてジャズ風「腎虚」の佇まいを感じさせる伊勢風メランコリーの到達点が鮮やかに示されて涙腺が緩んでしかたなかった。

高瀬選定による2管ラッパの補完というべきか合力の成功はドン・チェリーの「アール・デコ」、クレア・フィッシャーの「モーニング」の2曲だった。ドン・チェリーが作った曲だからさぞかし放恣的かと思いきや、スイングジャズに通じるエレガンスと精細即興の見事なブレンド力に圧倒される。バックを勤める続木徹のピアノがもたらす無機質な抒情触感はこのような領域で力を出すということも分かった。それにしても充足タイムは足早に過ぎ去っていく。伊勢さんらに別れを告げて23時05分発、「相模大野」行き急行に滑り込みセーフという時間になってしまった。


霜月の雨

2014-11-02 06:20:15 | JAZZ

霜月(陽暦11月)にはいった。座間の室内気温は19℃。まだストーブを必要とする気温にはあと一カ月程度の時間がある。

新規に立ち上げた「フリマ・骨董市・古本好きの会」の例会の予定日だったが雨の為中止になった。そこで気分をすぐに切り替え、その中に参加している旧友の誘い電話にのることになった。横浜の少しマイナーな古書会館がJRの東神奈川駅と東横線反町駅の中間くらいの場所にある。昔、スケート場があった付近の公園の北側だ。雨の外出はうっとおしいが、腰痛のリハビリを兼ねるにはちょうどよい半日散歩になる。会場付近の大きな楓の大木の雨に打たれている色調は海に近い温暖な横浜地方にも晩秋が始まっていることを語っている。

小さめな会場は物色で気を散らすことがない。1時間程度の見物で良質な買い逃し本を数冊ゲットする。アメリカという20世紀のヘゲモニーを握った国が文化や教育の分野で自壊や変質していく模様を精緻に考察するアラン・ブルームの「アメリカンマインドの終焉」(みすず書房)、時代小説で近頃愛好している乙川優三郎「逍遥の季節」(新潮社)どれも小銭で買える良書に心が弾む。もう一冊はジャズ分野のイギリス出版物だ。1989年の発行「THE SOUND OF JAZZ」ジョン・フォーダムというジャズ名士による154ページの写真集だ。これは2000円と古書にしては値がはっている。横須賀中央付近の古書店が出したものだから、基地の関係者あたりからでたものか?等と旧友の青柳君あたりと勝手な推測を交わす。

同行した出口さんには角川文庫の絶版になっているウエストンの「日本アルプス」という素晴らしい山岳本を、300円で見つけて教えたら大喜びしている。佐々木さんにはクリムトの小さな洋書画集をおせっかい発見、これは200円ながら自分のもっているものよりカラーの質が褪せていない美本だ。佐々木さんの道楽部屋にはクリムトの横たわる儚い恋人や闇に浮かぶ少女等のオリジナルリトポスターがよい額装に納まっていつもレトロな音との親和力をもたらしている。。

古本収穫後は東急線の反町駅の横道で昔からやっている古いカフェ「キャメル」でお茶をする。本日のオリジナルコーヒーはブラジル、出口さんのなじみ店なのでしばし寛ぐ。

収穫品の写真はカーラ・ブレイやゲイリー・バートン、チック・コリア等のカラーフォト熟成時代にふさわしいモダンテイストなジャズ写真も多いが、古い時代のニューオリンズジャズ、ミントンプレイズハウスの前に並ぶハワード・マギーやロイ・エルドリッジ等の肖像、レスター・ヤングの斜めショット等、古きよきものも満載しているからブラジル豆のコーヒーを素晴らしく美味く感じる時間になった。帰り道は初めての東横線廃止軌道跡地の静かな遊歩道を歩きながら横浜駅へとゆっくり歩く。よき友を囲んだ「霜月」の始まりである。