Rainy or Shiny 横濱ラジオ亭日乗

モダンジャズ、ボーカルを流しています。営業日水木金土祝の13時〜19時
横浜市中区麦田町1-5

ジャズはやっぱりパラゴンだ

2014-10-12 09:31:38 | JAZZ

荻窪でも五日市街道に近いDr桜井宅へのジャズ巡礼は土曜日の薄暮時間帯になってしまった。秋の夕暮れは早い。四季に一度の訪問だが、フェアチャイルドのアーム故障が執念の取り組みによって修理が完成したようである。アーム内部の極細ポールネジが折れたまま、半分が嵌ってしまってどうにも手の施しようがなかったと聞いていた。どこか精密工具を作っている工場へ出かけて特注のネジまで作らせたらしい。

「アホノミクス」の経済効果の余波を受けて歯科診療も暇で景気が悪いとこういう作業に情熱をかけると桜井氏と二人で戯言を交わす。このアームにGEのバリレラカートリッジを付けて1950年代のジャズに限ったモノラルLPをパラゴンで鳴らす、そういうマニアックな狙いが私を招待する根っこにある。これはそうとうよく鳴ってきていると推測しながら指定席へ座らせていただく。自慢や睥睨というよくあるオーディオ病理にかかっている人による招きならお得意の現存在分析の嗅覚が働いてパスをするところだ。桜井さんが所有する各種オーディオシステムがいよいよ完成に向かって深化したことを確認したくて夕刻からの3時間を試聴タイムにする。

 

トーレンス124、テドラプリアンプ、マークレビンソンのチャンデバ、アンプジラパワーアンプの2台マルチ駆動、JBLパラゴンという音の入り口から出口への各種装置でお互いになじんでいるお宝LPを聴く。デイブ・ペル楽団の歌姫、ルシー・アン・ポークがコンボ編成のバンドを従えて歌っているなんとも麗しく愛しいアルバムだ。私などは月に数回、この歌手が唄っている「イージー・リビング」や「タイム・アフター・タイム」に聴き惚れてあっというまに20年という時を経ている始末だ。モードレコードはウエストコーストにあったが、すぐに倒産してしまった不運の会社だ。しかしいつまでも手元においておきたい愛すべきアルバムがたくさん残っていて、現在は輸入盤ショップでは「VSOP」から再発CDを見かけることがある。

パラゴンというスピーカー、いつも置くだけ、見るだけ、撫でるだけ状態の儘になっている金持ちステータス品の印象が強いが、桜井邸のパラゴンは強力な現役続行をしている稀有な見本だ。地下室は往年の吉祥寺「アウトバック」内でジャズを浴びているような錯覚に陥る圧倒的能率に包まれる。バリレラ針、アーム感度の安定、アンプジラパワーの精密なるブレンド力の賜物である。ものすごく濃厚で分厚い中域サウンドが左右両翼のスピーカーから押し寄せてややレンジ感を狭めたセンター音場を合成する。癒えたフェアチャイルドに付いているGEのバリレラ針は針圧は7グラム、モード盤オリジナルモノラルLPをがっちりと捉えて美しく正確な回転風景を繰り広げている。

一曲目の「シッティング・イン・ザ・サン」を聴いて分かった。ミディアムに気持よく流れる歌+コンボジャズの典型のような1950年代らしい曲である。こういう粋な歌はみんなに聴いてもらいたい不変の価値がある。桜井さんの狙いはライブハウスの前席の臨場性を、自宅で再現するという贅沢である。それも音響面を投げていない上質ライブハウスのそれである。平凡な装置だったら歌と駆け引きしているバッキングのテナー、トロンボーンは埋没した遠景のような音になるが、こちらは音が充満しているのに、個別楽器はグイグイとルシー・アン・ポークの伝法なのに可憐な声を彩って前に押し出す。

この辺の綱引きのマクロ風景は、ただ音がデカイだけの、昔のジャズ喫茶とは違った精緻な隈どりをもたらすから、桜井さんのパラゴン奏法は昔の機器をたくさん常用しているにも関わらず昔風ではないことに気がついた。こうしたアナログがもたらす出汁の相乗効果にどっぷり浸かってしまうと、あとから次々と繰り出す高解像力を誇るシステムの音は今、スーパーマーケットでよく見かける「白出汁」みたいなもので、パラゴンの個性の前に色あせてしまうものだから、オーディオというものは始末に負えないということを痛感することになる。

https://www.youtube.com/watch?v=zZiz9L2vSpQ

荻窪へ

2014-10-11 09:35:29 | JAZZ

台風19号が襲来するまえに四季に一度の荻窪ジャズ&オーディオ巡礼に向かう。カビと心中はしたくないからオーディオ書庫に早朝の空気と光をとおす。

名前失念の花が昨夜から咲きだした。林檎とトースト1枚、コーヒーの朝食で高い数値の肝臓脂肪は減るのだろうか?座間、京王線武蔵野台、JR武蔵境、荻窪という用件を消化しながらの電車乗り継ぎルートである。手土産はそれぞれ座間駅「ポエム」パン店の葡萄パンを持って行こうと思っている。今日から好きなジャズをどうぞ!楽しんでみてください。

https://www.youtube.com/watch?v=qwg54-8pZGg


スペインのジャズ教育パワーに驚愕する

2014-07-07 20:02:55 | JAZZ

四季に一度の荻窪ジャズ・オーディオ詣の一日となる。いつもは新宿駅を降りるとメトロの丸の内線を選ぶが、この日はどういうわけかJRにて荻窪桜井邸へと向かう。総武線の三鷹行に乗って荻窪駅に到着する。するとホームの上で偶然の邂逅に出くわす。調布にあったジャズ専門校にて音楽理論といっても現代音楽の楽理エキスパートだったM先生である。M先生は荻窪の北方向に位置する上井草に住んでいるとのことで10年ぶりの再会に喜ぶ。心配していた共通の知人の消息を尋ねて無事健在を確認してからM先生は上り電車の人となる。荻窪での昼飯はいまさら「春木屋」「丸福」でもあるまいと付近の露地を歩いて見つけた新顔の「久保田」という中華そば店に入ってみる。650円のラーメンを食べてみる。メニューはあと一種類だけというシンプルなお店だ。ラーメンの味は恵比寿の駒澤通りにあってその前は渋谷の並木橋付近が前身のよく通ったことがある「香月」の系統だ。背脂が浮遊する薄めな色の醤油スープが特徴だが、「香月」の店員と同じようなしぐさでスープを濾しているところまで似ている。スープは塩気のやや強いところが短所だがラーメン全体は丁寧に仕上げていて美味だった。

ジャズ&オーディオの第一人者桜井邸の夏の目玉は新着でなじんできたアメリカの価格破壊オーディオ製品ながら音質も一級という噂の「エモーティバ」のアンプ、CDプレーヤーを聞くこと。来年の初夏に日本へやってくるスペインのアンドレア・モティスというティーエイジャーのマルチタレント(19歳女子、ボーカル、トランペット、アルトサックスを全てこなしてヨーロッパ中のジャズツアーでひっぱりだこという天才)のスコット・ハミルトンとの共演CDやセント・アンドリュースジャズバンド(これはスペインバルセロナのジャズリトルリーグ的超絶技巧ビッグバンドでの彼女のプレイ)のライブDVDを見せてもらう事等である。

エモーティバの機器試聴はKEFの超小型スピーカーLS-50でフルに楽しめた。自分が持ち込んだ愛すべき現代ジャズピアニスト、ホッド・オブライエンの「ニューヨークピアノ」シリーズとして知る人ぞ知るレザボアに吹き込んだ「ブルーズ・アレイのセカンドセット」におけるソニー・ロリンズのシンプルな快速調の名曲「ペントアップハウス」やバラードの「ラブレター」等を聞いてエモーティバの音作りが音を気持よくぐいぐいと前に押し出すジャズ向きのポリシーに貫かれていることを納得する。三日前にセットしたというバランス型の高級バージョンのプリアンプと桜井氏のエンスーぶりを証明するSUMOのパワーアンプという組み合わせ、ダブルウーファーのウエストレークスピーカーで聞く噂の「セント・アンドリュースビッグバンド」の音の豊かなプレゼンスにはそのオッポ製マルチCDプレーヤーをとおした大型プロジェクター画像共々、ジャズを趣味とする幸福をしみじみと味わう。

セント・アンドリュースビッグバンドは7歳から18歳までのバルセロナにおけるジャズ英才選抜バンドだ。このメンバーには幼児期からジャズに接してきた凄い女の子や男の子がひしめいている。アンドレア・モティスはいわばその頂点に突出した存在だ。スイングするという教育がスペインのジャズには健全にある。残念だが日本には個々の冷ややかな俊才は時々現れても陽気で太いジャズテイストの幹には育っていないことの落差を感じてしまう。

このバンドの大きなライブコンサートにはアメリカの凄腕ジャズマンがゲストで招かれている。アルトサックスのジェシ・デイビス、トランペットのテリル・スタッフォード、トロンボーンのウイクリフ・ゴードンというジャズ的内圧と技巧のバランスを誇る黒人若手ジャズメン達だ。この連中がフィーチャーされてソロをとったり、バンドに混じって吹奏するのも楽しい見どころだが、チビッコバンドメンバーの歌心をいったいどこで身につけたのだろうというナチュラルなボーカルプレイや楽器ソロ、とてもよく弾んでスイングするという見本を示す分厚いアンサンブルに深い感動を覚える。末尾を彩っているビッグバンドジャズの名曲「パーディド」には唸ってしまった。1950年代のウディー・ハーマン楽団から押し寄せてくるジャズ的怒涛と同質の圧倒性である。1995年生まれのアンドレア・モティスさん!日本にやってきても頼むから、「東京ジャズ」などという田舎芝居小屋には出ないで欲しいよ!と内心で呟く。彼女の歌で感動した曲が「アイ・フォール・ラブ・ツー・イーズリイ」「サン・シャワー」。フレッシュサウンドのスペイン強し、日本のジャズはなんだかプアーだねと桜井さんと語り合ってから、夕飯を食べに善福寺川の畔をゆっくり歩きながら再び荻窪駅へと向かう。


RCA大型プレーヤーで聴いたペギー・葉山

2014-05-04 06:55:12 | JAZZ

滅多に完動品とはお目にかかれないしっかりメンテ済みのRCA社の放送局仕様レコードプレーヤーと対面する。なんどか間近にあったNHK仕様のデノン製プレーヤーよりも背丈が低いせいかそれほど威圧されるほどの躯体ではない。さすがにアルミダイキャストの大型ターンテーブルは16インチとデカイ。日本では神話作りが下手ではったりもなかったせいかRCA社プレーヤーは、EMT(ドイツ)トーレンス(スイス)ガラード(イギリス)のようには名機種としての名声を確立していないようだ。

アナログプレーヤーでレコードをかけるとそのプレーヤーが奏でる再生音の良否をすぐに識別できるという名人のお宅で聴かせてもらった。戸外なのか室内なのか区分もつかない劣悪環境の俄か仕立てな場所だ。ソースは様々、45回転のEP,78回転のSP、33回転のLP、が一通り聴けるという名人の配慮は十分に整っている。入口はRCAだが、つないであるアンプ類、スピーカーも悪くはないけど良くもないミニなデジタルアンプ、松下製テクニクスのシスコンまがいなスピーカーを眺めるとこれで平気なのかいな?という不安がよぎるような適当という言葉にふさわしい組み合わせだ。その晩には調整も終わって名人の土間を立ち去るという希少なる幸運に出くわしたのだ。つないである機器間に耳を傾ける。あの一定間隔に聞こえるランブルゴロは聞こえていない。RCAプレーヤーは貧相な機器を通過したからといって一緒に貧相な音へ同化したりしない。軽々と豊かに音は音楽の輪郭や奥行に溶け込んでいて気持ちがよい。アメリカの50年代前期のレコード、コロムビア、キャピトル等のレコードを聞いているときと同じ、ものともしないという形容がふさわしい再生音質だ。

もう何十年も持っているのに聴いたことがないゲオルク・ショルティ指揮になるシカゴ交響楽団のベートーベン「エロイカ交響曲」を名人がかける。これはロンドンレコードのセカンドバージョンである。マニアならセカンドと聞いただけで嫌気がさすのだが、RCAプレーヤーはセカンドだろうと何だろうとお構いなしにオーケストラの力をグイグイと押し出してくる。同じショルティのレコードを渋谷の名曲カフェ「ライオン」あたりで聴いたらいつものベールを被った国内盤風ショルティということで帰結するのだが、やっぱりRCAはちがう。疾風怒涛!精神が漲っているショルティを現前化する。デルフォンプレーヤー、トーレンス124のいい状態に出会った時と同じ音がするから全く不思議である。この俄か試聴ではエディット・ピアフ、ダイナ・ショア、ディーン・マーティン、この辺は機器の貧相性を引いても文句ない再生だ。このプレーヤーでジェンセンのフィールドスピーカーを鳴らしたら最高だろうとは名人の弁である。78回転のSPレコードはシスコンスピーカーによる再生力に疑問が湧く領域だ。

それでもペギー・葉山の初期の声が聞けたことは僥倖にちがいない。キングレコードに吹き込んだSPの珍盤だ。キングという会社がなぜ文京区の音羽付近にあったのか、前から疑問に思っていた。袋には日本テレフンケンと印字がある。加えて「大日本雄弁会講談社」と印字がある。キングは同じ音羽にある「講談社」の資本系列だったらしい。ペギー・葉山は大橋巨泉がジャズを論じていた時代からのジャズ歌手でこのSPには「涙のワルツ」「愚かなりし我が心」等のスタンダード曲が入っている。後年の低い声に特徴のあるペギー・葉山ではなく音楽学校でグリークラブにでも所属しているような清楚な乙女風歌唱だ。それにしてもRCAプレーヤーは欲しくなるプレーヤーだ。名機で名高いEMT930みたいにプレーヤー付近の中空に音がベッタリと張り付いていない抜けのよさが魅力だ。名人との事後評では、お互いにもう一花咲かせてRCAプレーヤーでも買おうという結論になった。


立教大OB70歳 VS 20歳のジャズコンサート

2014-04-20 19:35:22 | JAZZ

町田駅前の109という東急ビルにある小ホールで行われた立教大学のスインギン・ハードオーケストラの発表会にドクター桜井さんと同行する。小さなホールで歯切れのよい残響感に包まれた最前列の真ん中の席は居心地がよい。ちょうど目前にはワンポイント収録の為にセットされたソニーのコンデンサーマイクが立っている。立教大学を遥かな昔、卒業したOBの方のお薦めコンサートだ。彼もこのイベントの世話人をしていて町田市内には800名に及ぶ立教OBが住んでいると聞いて驚く。この日はスインギン・ハード平均年齢20歳とOBジャズコンボ平均年齢70歳という絶妙な組み合わせの演目である。

スインギンハードは、山野楽器主催のビッグバンド大会で毎年、上位に入賞するバンドというだけのことはあってパワフルなアンサンブルプレイが聴きどころだ。黒の就活服と見まがうフォーマルに身を固めた初々しい童顔男女部員の演奏を観察する。カメラ、登山、という分野における女子力の進出と同じようにジャズのビッグバンドにも女子の進出は著しいようで、150センチくらいの小柄な女子が自分の顔の大きさと変わらないベルを持つバリトンサックスをかついで、あるいは担がれて入場する様にドクター桜井氏共々、笑みがこぼれてしまう。

トロンボーン、サックス、コントラバス、トランペット、各枢要部分には女子が必ずいて素直でのびやかなプレイを男子部員に伍して披歴している。曲目はエリントン、ベイシー、グレン・ミラーのオールスタンダード曲だから全て楽しいし、退屈というものがない。男子部員でソロを担当しているサックスやトロンボーンのヤングマンの2、3人には健康一色のブラバンサウンドからモダンジャズへ移行中のような陰影を持ったよい音色を聴かせるプレイがあった。

OBバンドはにわか結成二年目とのこと。音の血行を整え揃えることで苦労している様子がしのばれる。それでも「四月の想い出」を失速気味なエディー・ロック・ジョーみたいな抑揚で歌い上げる高山さんのテナーにはヤングマンとも一味違う粋を感じたし、鈴木章冶で名高い「すずかけの道」はスインギン・ハードの若手メンバーとのコラボが楽しげだった。どんな時世にあっても世代を超えて繋がっていく音楽、それがジャズということを実感する和みのコンサートを味わうことができた。