つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

なんで帝釈天は出なかったんだろう?

2006-03-20 20:10:56 | マンガ(少年漫画)
さて、いつかは紹介しようと思っていた第475回は、

タイトル:ヤマタイカ(全六巻)
著者:星野之宣
文庫名:希望コミックス

であります。

SF漫画の巨星・星野之宣が放つSF風伝奇ミステリー。(なんじゃそりゃ?)
とんでもない情報量と、ユニークな設定が魅力の、劇画超大作です。



かつて、沖縄戦に参加した男・熱雷草作。
彼は、二十年ぶりに沖縄本島にある聖地・斎場御嶽せーふあうたきを訪れた。
久高島で六十年に一度行われる秘祭・ヤマトゥマテイの謎を探るために……。

草作の息子・熱雷岳彦は、偶然にも、久高から来た娘・伊耶輪神子と出会う。
彼女は伊耶輪祝女ノロとなることをさだめられた、沖縄神女の末裔であった。
草作が斎場御嶽の神域を犯したことに呼応して、神子は自分の血に目覚める。

明かされる草作の過去、異母姉弟であることが判明する神子と岳彦。
混乱の中、ヤマトゥ祭が始まり、神子は女神アマミク――ヒミコの声を聞く。
「オモイカネを探せ! 大いなるマツリのために!」
千七百年の時を越えて届いた声に導かれ、神子は本土へと向かう!



オカルト臭を感じ取って引いた方、ここで逃げないで下さい。
主人公の神子は電波でサイキックな方ですが、そこらに転がってる有象無象の輩とは違います。
やってることも性格も無茶苦茶ハードです、何せ劇画ですから。(理由になってないか……)

素直に解説すると、神子はいわゆるシャーマンです。
人間の奥底に潜むカオスの欲求を束ねるチャンネル、と言うべきか。
この物語の中心に立っているのは間違いありませんが、『主役』ではないかも。

マクロな物語について簡潔に言うと、かつて邪馬台国に存在した巨大祭器・オモイカネ、及び、最大のマツリであるヤマタイカを巡る、新旧宗教勢力の抗争。
邪馬台国はどこにあったか? 古事記は何のために書かれたか? 最高神アマテラスとは何者か? といった古代史の謎を解きながら、神子の旅は続きます。
火山を崇める古代信仰、対、支配者のための信仰、という構図で始まった戦いが、日本人全てを巻き込む『本能対理性』の戦いにシフトしていく展開は圧巻。

それと並行して描かれるのが、神子・岳彦・草作のミクロな物語。
神子にとって、草作は自分を捨てた父であり、母の血筋を利用して古代の謎に迫ろうとした憎むべき男――しかし、彼のおかげで島を出ることができたのも事実。
一方、岳彦は母こそ違えど、同じ血を引く弟であり、巫女にとっては守るべき対象でもあります――おまけに無鉄砲、姉としては苦労が絶えません。

これで敵が弱けりゃまだ救いがあるのですが、そうは問屋が卸さない。
強力な法力を誇る四天王、金剛が行く手を阻み、さらに、権威という名の巨大な力が、神子の力の源である集団無意識のエネルギーを押さえ込みます。
特筆すべきは、四天王最後の生き残り・広目――戦隊組まないと戦えないかと思っていたら、物語の進行とともにレベルアップ、最後は何と……(以下略)。

日本神話マニアにはたまらない逸品です、かなりオススメ。
劇画が苦手、モノローグの解説が苦手、って人でなければ、文庫で一挙に揃えちゃうのも手かと思います。