つれづれ読書日記

SENとLINN、二人で更新中の書評ブログです。小説、漫画、新書などの感想を独断と偏見でつれづれと書いていきます。

苦手なものは苦手なのさ

2006-10-01 20:03:29 | SF(国内)
さて、読み慣れないジャンルやねの第670回は、

タイトル:永遠の森 博物館惑星
著者:菅浩江
出版社:早川書房(初版:H12)

であります。

地球と月の重力均衡点のひとつ、ラグランジュ3に浮かぶ小惑星を改造した巨大博物館「アフロディーテ」。
人類が手に入れられる限りのありとあらゆる動植物、美術品、音楽、舞台芸術を集めたここで学芸員……それぞれの分野を統括する「美の男神アポロン」に所属する田代孝弘が、9編の短編連作の主人公。

手術によって端末なしに頭に浮かべたことがデータベースなどのシステム群にアクセスできる直接接続者と呼ばれる学芸員だが、学芸員とは名ばかり。
統括部署という名前もあって、様々な問題や厄介ごとを持ち寄ってくるそれぞれの分野の学芸員や、食えない所長の無理難題を、おなじ学芸員だが絵画工芸部「知恵と技術の女神アテナ」に所属するネネ・サンダースと言った同僚たちに助けられながら解決していく物語。

詳細は長くなりすぎるので簡単に各話を。

「1 天井の調べ聞きうる者」
高名な美術評論家のブリジット・ハイアラスが絶賛し、脳神経科病棟の患者が音楽が聞こえると言う画家でもないコーイェン・リーという人物が描いた抽象画の評価を任される話。

「2 この子はだあれ」
非直接接続者のセイラ・バンクハーストが、恐竜学者と人類学者のカミロ、ルイーザという老夫妻の持つ人形の名前を探してもらいたい、と言う依頼を持ち込み、それを解決する話。

「3 夏衣の雪」
能の笛の家元襲名披露にまつわる兄と、家元を襲名する弟との確執を、襲名披露リサイタルの舞台準備の中で描く話。

「4 ける形の手」
孝弘はほとんど出ず、動植物部署のデメテルの学芸員ロブ・ロンサールが、アフロディーテで公演を行うダンサーのシーター・サダウィを博物館内を案内する傍ら、ダンサーとしてのシーターを取り戻させる話。

「5 抱擁」
すでにアフロディーテを退職した旧世代のシステムを持つマサンバ・オジャカンガスが過去のシステムの利点を再度夢見てアフロディーテを訪れる話。
以降の短編に頻繁に登場し、メインキャラとなる孝弘よりも新世代のシステムを移植されたマシュー・キンバリーが登場。

「6 永遠の森」
マシューが企画し、それの目玉として展示される人形と箱庭にまつわるそれぞれの作者とその親族や会社との確執、そして作者ふたりの残された思いを描いた話。

「7 嘘つきな人魚」
デメテル職員が心血を注いで作った人工海に過去、鉄分補給のために置かれた人魚像に惹かれた少年と、その作者ラリーサ・ゴズベックと言う作家の話。
あれこれ書いてくとネタバレになるので、ここはこれだけ。

「8 きらきら星」
小惑星イダルゴで発見された種子と、色彩が施された微片をアフロディーテが調査することとなり、そのうち、微片を担当するアテナの学芸員クローディア・メルカトラスと、その補助として派遣された図形学者ラインハルト・ビシュコフがその謎を解明する話。

「9 ラヴ・ソング」
短編連作のラスト。
「1 天井の調べ聞きうる者」で登場し、時々その話題が触れられていたピアノの名器「ベーゼンドルファー・インペリアルグランド」、通称「九十七鍵の黒天使」と、イダルゴで発見され、培養に成功した蓮のような花、ベーゼンドルファーの持ち主で高名なピアノ奏者ナスターシャ・ビノジエフ、さらに孝弘の妻で最新のテストナンバーシステムを埋め込んだ美和子を交え、孝弘がこれまでに調整と言う名の仕事で失ってきたものを取り戻す話。

それぞれの短編、そして連作としての一貫したストーリーの流れとも、きっちりと出来ており、読み応えは十分。
とは言え、SFと言うと、どうしてもSTORYよりもSCIENCEと言う印象が強く、これも博物館という舞台設定のせいもあって、かなり面倒くさい説明が多く、辟易するところが多々ある。
また、これも仕方がないのだがカタカナ文字の多さも同様に読んでいて読みづらい。

だが、これはまだそうした設定や世界の中にあって、孝弘を中心とする学芸員たち、博物館を訪れる人物たちのドラマがしっかりと描かれているぶん、SCIENCEに偏りすぎたSFよりはよっぽどかマシな作品であろう。

……それでも、やっぱりこうも説明調の会話や地の文が多く、カタカナ文字が乱舞する作品は苦手だな……。
流れが悪くなるところがどうしても出てくるからね。

好みとか、そういうところを差っ引いたとしても、総評は及第。
ただし、偏見たっぷりの私のSFと言うジャンルの中では、SFはちょっと……と言うひとにも比較的オススメしやすい作品であろう。