雨あがりのペイブメント

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読書案内「アポロンの嘲笑」

2015-07-09 22:35:31 | 読書案内

読書案内「アポロンの嘲笑」

   中山七里著 2014.9第一刷刊 集英社

 初読の作家。「東日本大震災から5日後に発生した殺人事件を題材に、

原発事故をスパイスしたミステリー」という内容に気持ちが動いた。

 被害者は原発作業員の金城純一。被疑者は加瀬邦彦。

口論の末純一を刺殺したのだ。

仁科刑事は被疑者の移送を担うが、余震の混乱に乗じて加瀬に逃げられてしまう。

単純に見えた刺殺事件に思われたが、正当防衛の様相が浮かび上がる。

 

しかし、それでは加瀬は何故仁科を振り切って逃亡したのか。

 

 未曾有の震災と原発事故で混乱し、放射能拡散のための避難勧告が発令された町の中を、

寒さと飢えに苦しみながら逃亡を続ける加瀬。

 事件の概要を調べるうちに、被害者・金城には前科があり、

加害者・加瀬は阪神・淡路の震災で両親を失い、

それぞれには決して幸せといえない過去があったことを仁科刑事は突き止める。

単なる刺殺事件の裏に、驚愕の真実があぶり出されてくる。

二人は、福島原発の下請け作業員であることも判明。

 

 加瀬は何処へ逃亡しようとしているのか。

追跡を続ける仁科刑事の前に時々姿を現す公安外事課第五係に所属する刑事・溝口。

第五係の職務は「対朝鮮半島の傍聴」が主な任務になる。

その溝口が執拗に追いかけているものは何か。避難勧告が出されている地域を逃亡し続ける加瀬。

やがて見えてきた目的地は、放射能爆発で極めて危険な原発事故の汚染現場だった。

 なぜ加瀬は命の危険をも顧みず原発を目指すのか。

被害者・金城と加害者・加瀬の悲しい過去が関連し、二人は固い絆で結ばれていたのだが……。

 

 原発事故の現場に何があるのか。

 

最後の十数ページは、パニック小説の様相を呈する。

 

 死を覚悟して福島第一原発という地獄に向った加瀬の心情は何だったのか。

刑事・仁科もまた深い悲しみを持っている。

 

最後の数行。

「休暇を取り、女川町に津波にのまれ行方不明になっている息子を探しに行こう」と仁科は思う。

事件の終焉と仁科の新たな出発がダブる最後である。

 津波と原発事故と刺殺事件と混乱する震災後の社会を、アポロンは密かに天空の彼方から嘲笑したのでしょうか。

 

      (2015.7.9記)

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