六月の風
6月の風は
どこかに
新緑の軽やかさと
キラキラ輝く少年の日の
懐かしい思い出を運んでくる
美しい人の
髪の間からかすかにこぼれてくる
移り香が
少年の心を弾ませ
少年はうっすらと汗をかいて
思春期の憧れを
6月の風に載せる
一方で
6月の風は
雨の匂いを含んで
幾分重い風となって
徐々に体臭の濃くなっていく
思春期の少年の髪の間を
さらりと通り抜けていく
風よ
悪戯な風よ
田植えの済んだあぜ道を歩いていく
髪飾りの似合う少女の
スカートにまつわりついて
青空に還っていく風よ
還る前に
少年が託した6月の風の想いを
郵便かばんから取り出して
空いっぱいにひろげて欲しい
春の名残りのさわやかで
少しだけ憂鬱な
6月の風
原発を詠う
朝日歌壇・俳壇から原発に関する歌を選んでみました。
〇 原発をとめる根拠がないと言ひ人の不安は根拠に入れず ……川越市 小野長辰
川内原発。大きな被害をもたらす地震が近くで続発している中で、
全国で唯一稼働している九州電力川内原発1、2号機は運転を続けている。
敷地内で観測された揺れが原子炉を緊急停止する設定値を下回っているからだと言う。
〇 全国の活断層のその上に人は暮らして原発は建つ ……川崎市 小島 敦
危険な活断層、原発も危険。でも危険と知りつつその上で暮らさざるを得ない不安。
〇 原発の再稼働阻止の新聞が忘れたように括られている ……三郷市 木村義熙
昨日の記憶さえも古新聞のように括られて忘れ去られてしまう。
のど元過ぎれば……。
〇 花霞む山里ゆけばおちこちに隠しようなきフレコンバック ……福島市 美原凍子
〇 福島の美しき里ぼうぼうと無人の家にいのしし住み着く ……国立市 半杭螢子
フレコンバックのなかで、放射能への怒りや不安が閉じ込められて、いつの間にか
帰れなくなってしまった故郷。いのししの住み家になってしまった。
〇 被災地のさくら果てたる真の闇 ……福島市 池田義弘
しばし桜が咲いて明るさの光が見えた。だが、桜が散ってしまうと再び人のいない
故郷が現れる。
〇 国破れ被曝の春の山河あり ……川口市 青柳 悠
匂いもなく目にも見えない得体のしれない放射能に被曝したが、季節は春を迎え慣れ親
しんだ故郷の山河は何事もなかったように静まり返っている。
今日の新聞でも、被災地熊本はニュースから忘れ去られている。