落合順平 作品集

現代小説の部屋。

忠治が愛した4人の女 (27)       第二章 忠治、旅へ出る ⑫

2016-08-02 11:09:08 | 時代小説
忠治が愛した4人の女 (27)
      第二章 忠治、旅へ出る ⑫




 「はぁぁ、そんなもんですか・・」
忠治が、不満そうにくちびるを噛む。
「しょうがねぇなぁおまえって奴も。もうすこしみんなに、感謝したらどうだ」
英五郎が、額の真ん中に深いしわを寄せる。
鋭い目がふたたび忠治をとらえる



 「いいか。よく聞け。おめえは運がいい。
 お前が水呑み百姓の伜だったら、いまごろは間違えなく役人に捕まっていた。
 首をはねられてたかもしれねえ。
 そうならなかったのは、おふくろさんの力だ。
 手紙には書いてないが、おめえを助けるために莫大な銭を使ってるに違えねえ。
 そこんところをよく考えるんだな。
 田部井村の名主さんも本間道場の先生も、おめえさんを堅気に戻すために
 あちこち走り回っているんだ。
 若え時の過ちは、取り返す事ができる。
 悪いことは言わねぇ。早まった考え方をするんじゃねぇ。
 博奕打ちになろうなんてことは、金輪際、絶対に考えるんじゃねぇ!」



 忠治の脳裏に、苦労している母親とお鶴の姿が浮かんできた。
自分のことしか考えていない身勝手さが、恥ずかしくなってきた。
人殺しの母親とか、人殺しの女房と言われているかもしれない。
村八分などにされていたら絶対に許さないぞと、忠治が強くこぶしを握りしめる。



 英五郎には子分になることを断られた。しかし忠治はあきらめない。
今度は重五郎に、子分にしてくれと頼みこんだ。



 「おめえは兄貴の客人だ。
 俺の一存で決めるわけにはいかねぇ。兄貴は何と言ってるんでぇ」


 「堅気に戻れと、言われました」


 「そうだろうな。兄貴ならきっとそう言うはずだ。
 おめえの事は俺も聞いてる。
 若えわりには度胸もあるし、腕も立つ。
 子分に加えてえとこだが、兄貴の手前、そうもいかねえ。
 英五郎の兄貴から俺の子分になる許しを貰ってから、また来るんだな」


 
 筋道を通せと言われると、忠治に返す言葉がない。
返答に困っている忠治を見て、重五郎が身体を乗り出した。



 「忠治。おめえの気持ちはよくわかる。
 だがな。兄貴のいう事にも、もうすこし耳をかたむけろ。
 おめえは、兄貴の若え頃によく似てる。
 兄貴の家もおめえの家と同じように、名主をやった事のある家柄だ。
 だが兄貴が15のとき。
 賭場で三下を殺しちまって、はじめて国越えをした。
 そのときは1年くらいで戻ってこられたが、25のとき久宮一家の
 大親分をやっちまった。もう10年も前の話さ。
 それなのよに、兄貴はいまだに故郷へ戻れねぇ。
 おまえも知ってんだろう、その話は?」


 その話なら、聞いたことが有る。
上州の東半分を仕切っていた、先代の久宮一家の親分は有名人だ。
久宮一家と対立していた大前田組が、闇討ちでこの先代の親分を切り捨てた。
下手人はそのとうじ売り出し中だった、大前田英五郎。



 「兄貴はよう。
 自分のことと、お前さんのことを重ねているんだ。
 兄貴は、あっちこっちさまよい歩いて男を売って来たが、
 いまだに故郷へ戻れねぇ。
 兄貴はおめえを、自分のようにしたくねえと思ってるんだ。
 もうすこし我慢して生まれ故郷に帰れたら、博徒はあきらめて
 まっとうに暮すことだな」


 重五郎にも断られてしまった。
(このままじゃ、博徒になることは出来ねぇ・・・)
途方に暮れた忠治が、しょんぼりと木賃宿へ帰って来た。



 「おや、お帰り・・・・」



 声をかけたお園に気が付かず、忠治がそのままお園の横を通り過ぎていく。


 「おやまぁ、どうしたというのさ。
 変だねぇ、いつもの忠治とまったく違うねぇ。
 いったい何が有ったいうのさ。そんな暗い顔をして。
 言ってごらんよ。このお園さんが、あんたの力になってあげるから」

 
(28)へつづく


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
いよいよ・・女が (屋根裏人のワイコマです)
2016-08-02 18:10:29
男が悩んでいるときの・・優しい声は
天使の声ですから・・殆どの男は
参ってしまうでしょうね (*^_^*)
岡本綾子・・は残念ながらブラウン管
だけでしか知りません。
外国でのプレーが・・長かったですよね
しかし、最近の女子プロはなんか
隣国にみんな攫われいる感じで悔しいですね。
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ワイコマさん。こんにちは (落合順平)
2016-08-03 10:13:41
昨夜の太田市は、久しぶりの大雨です。
5時頃から周囲で雷鳴が轟いていましたが、
雨が降りはじめたのは8時頃から。
一気に降りはじめて、店の前の道路が
川のようになってしまいました。
本日もまた、午後から豪雨の予報が出ています。
昨夜のように降るのですょうか・・・
降れば涼しくなって眠れるのですが、
予報通りの豪雨になれば、排水溝から水があふれて
道路が冠水する事態になります。
ほどほどに降ってもらうと、助かるのですが・・・
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