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セウォル号惨事の真相究明と朴槿恵大統領

2014年08月27日 | 三千里コラム
セウォル号惨事の特別法制定を求める国民大会(8.23,ソウル・光化門広場)


4月16日、セウォル号の惨事で修学旅行の高校生ら300余名の乗客・乗務員が犠牲となった。事故発生当初は、規制緩和に乗じた旅客船の無理な改造と過積載など、乗客の安全よりも利潤の追求に没頭した船舶会社の経営陣に非難が集中した。だが、船内に残った乗客を一人も救出できなかったことから、「緊急時に迅速な救助作業を実行しなかった重大な責任」を政府に問う声が、日増しに高まることとなった。

10名の遺体が発見されぬまま、惨事から4ヶ月が過ぎた今も真相究明は一向に進んでいない。調査委員会の権限を規定する特別法の制定をめぐり、与野党の間で合意に至らないからだ。徹底した真相究明と責任者の処罰、何よりも二度とこのような惨事が再発しないよう安全対策の完備を求める遺族は、調査委員会に全面的な捜査・起訴権限を付与すべきだと主張する。適切な措置を取らなかった大統領も、調査の対象から除外されてはならないというのだ。一方の与党は、調査委員会にそこまでの絶対権限を付与することはできないとする。

与党の消極的な姿勢は、聖域(大統領)への捜査を遮断するためであろう。事故当日、朴槿恵大統領には“空白の7時間”という疑惑が提起されている。当日午前9時19分頃、テレビのニュースで事故を知った大統領官邸は、キム・ジャンス国家安保室長が午前10時、大統領に書面で最初の報告をした。その後、大統領には18回にわたり電話や書類で事故の経緯を報告したというが、一度も対面(口頭)での詳細な報告はされていない。

最初の報告から7時間後の午後5時15分、朴槿恵大統領はようやく「中央災難安全対策本部」を訪問した。国家的な災難状況の報告を受けていながら、7時間にもわたって大統領が公式席上に姿を見せなかったわけだ。当然ながら、その間、一度も対策会議を主宰していない。10時15分と10時30分に、大統領からは簡単な指示が出されたというが...。

7時間にわたる大統領の沈黙が続くなか、300余名の命は徐々に、そして絶え間なく消えていった。彼女はその時間、どこで、何をしていたのだろうか?

8月3日付『産経新聞』のウエブサイトには、「朴槿恵大統領が旅客船沈没当日、行方不明に…誰と会っていた?」と題した加藤達也・支局長のコラムが掲載されている。筆者は大統領の私生活には関心がない。ましてや、日本の極右紙が臭わせるスキャンダルなど、全くもって興味すら覚えない。

大統領の側近たちは、彼女が当日、ずーっと官邸に居て執務中だったと証言している。だが、逐一の報告を受け事態を正確に把握していたはずの彼女が、午後5時15分に訪れた「中央災難安全対策本部」で放った第一声は、“学生たちは救命チョッキを着用しているのでしょう。なぜ、発見して救出できないの?”というものだった。

この、的外れも甚だしい発言から、大統領が事態の深刻さを全く理解していなかったことがわかる。十分な報告を受けていなかったか、あるいは、受ける状況ではなかったと考えるしかないだろう。

重要なのは、事故発生直後に、国政の最高責任者である大統領が“何処に居たのか”ではない。“どう対処したのか”なのだ。300余名の生死がかかった貴重な時間帯に、大統領がセウォル号の惨事を差し置いて処理した重大事項とは、何だったのか。そして、大統領府の官僚たちはどのような報告を上げ、それを受けた大統領がどのような指示を出したのか、全てを明らかにすべきであろう。国民は“空白の7時間”について知る権利があり、大統領には応える義務がある。

セウォル号の惨事で娘(ユミン)を失ったキム・ヨンオさんは、特別法制定と大統領への面会を求めて断食を続けている。ハンガー・ストライキが40日を越え、健康が極度に悪化したキムさんは8月22日、入院を余儀なくされた。この日、数十名の遺族がチョンウン洞の住民センター前に座り込んだ。この住民センターは、民間人が大統領官邸に接近できる最短距離に位置している。

遺族は“大統領に私たちの声が届く最も近い場所”を選んだのだろう。官邸まで450メートルの距離だ。しかし、朴槿恵大統領は聞く耳を持たず、多数の警官が遺族たちを包囲して賛同する市民たちの接近を遮断している。路上での「座り込み籠城」を抑えるために、ビニールやダンボールの搬入も制限しているそうだ。

この日、大統領は「特別法制定は国会で決めること」との言葉を残し、地方視察に出発した。行く先は釜山。民生の現場を把握するためとして、有名なジャガルチ市場も訪問している。以前(5月16日)、大統領官邸で遺族代表と面談した際には、「遺族の意を汲んだ真相究明に務める。特別検察と国政調査を実施すべきだ」と述べている。だが“空白の7時間”というアキレス腱を抱えた今、遺族との対面をことさらに回避しているようだ。

無情な大統領とは対照的に、特別法制定に向け遺族を支持する広範な市民・学生のデモが続いている。8月23日、「特別法の制定を求める国民大会-大統領官邸は応答せよ」が光化門広場で開催され、1500人の市民が参加した。25日には、ソウル大学・慶煕大学の学生ら400人がデモ行進し、籠城を続ける遺族を激励するため住民センター前に押し寄せた。「セウォル号惨事国民対策委」の発表によると、23日現在でキム・ヨンオさんを支援してハンストに合流した市民が2万名を越えたという。

「特別法制定は遺家族だけの要求ではありません。大学生をはじめ国民一般の要求なのです」。ソウル大学総学生会長イ・ギョンファン君の言葉を、朴槿恵大統領と政府・与党は胸に刻んでほしいものだ。(JHK)