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69回目の光復節を迎えて

2014年08月15日 | 三千里コラム

「8.15自主統一大会」に参加したソウル市民。(8.14、汝矣島の川辺)



8月15日、69回目の光復節(日本帝国主義の植民地支配から解放された日)を迎えた。民族分断による南北の不信と対決が続いている現状では、真の「光復」も「解放」も実現しているとは言えまい。

韓国政府は8月11日、南北高位級会談の開催を提案した。しかし、開催日(8月19日)の前日から、北を威嚇する大規模な米韓軍事演習(UFG)が展開される。片手に武器を持ち、もう一方の手で握手をしようとしても、相手が応じるだろうか。

8月14日、北は「祖国平和統一委員会」の名で声明を発表し、南に関係改善の意思と現実的な対策を提示するよう促した。北の要求は、①UFG演習の中断、②「6.15宣言」など南北間の合意履行、③南北関係の悪化を招いた「5.24措置」(2010年)の撤回、などである。

南北双方が自らの正当性を主張し相手を批難するだけでは、関係改善は一向に進まないだろう。北の不満は十分に理解できるが、先ずは当局会談を開催し、対話と交渉を始めるべきだと思う。南北ともに、気に入る相手に出会うまで“お見合い”すらしないようでは、いつまで経っても分断民族の羞恥を免れまい。

8月14日の夜、ソウル市の汝矣島川辺で「8.15自主統一大会」が開かれた。開会辞で韓国進歩連帯共同代表のハン・チュンモク氏は、「光復70年、分断70年となる来年を、新たな平和体制を実現する年にしなければなりません。新しい南北協力の時代を切り開く年にしましょう!」と主張した。

三千余名の参加者は大会決議文を採択し、△朝鮮半島の平和と主権を脅かす日本の集団的自衛権行使・再武装の阻止、△朝鮮半島の緊張を高める戦争演習の中断、△南北の往来を妨げる「5.24措置」の撤回、など10項目の決議を表明している。(JHK)

*参考資料として、7月6日、名古屋で開催された「6.15宣言14周年記念集会」で行なった林東源・元統一部長官の基調講演要旨を紹介します。掲載が大幅に遅れたことをお詫びします(事務局)。



<東北アジア平和のための韓国の課題>   林東源

三千里鉄道が毎年開催してきた「6.15南北共同宣言記念討論会」を、今年もこの名古屋で開催することになり心よりお祝い申し上げます。なによりも、都相太理事長に感謝と敬意を表わすところです。また、三千里鉄道の会員の皆さん、この席に参加された貴賓の皆さんにも、感謝の挨拶を差し上げます。

そして本日、基調講演を担当してくださる元内閣官房長官・野中広務先生と、討論に参加される衆議院・近藤昭一議員に、また、司会を引き受けられた康宗憲・韓国問題研究所代表にも、感謝を申し上げます。

ご存知のように「NPO法人三千里鉄道」は、祖国の切断された鉄道(京義線と東海線)のDMZ区間における連結工事費を全額支援するなど、海外で朝鮮半島の平和と統一のために積極的に参加してきました。これに対し韓国民の感謝と敬意の表示として、4年前に都相太三千里鉄道理事長に「ハンギョレ統一文化賞」が授与されています。

-転換期の東北アジア-

今日、この「東北アジアの平和のための討論会」が時期的にとても絶妙だという気がします。先週(7月1日:訳注)、安倍内閣は憲法解釈の変更を通じて集団的自衛権行使を決定しました。これにより日本は、‘戦争をしない国、戦争に加担したり協力しない国’から、‘海外で武力を行使する国、戦争のできる国’になることにしました。

そうなると、日本と中国の関係は更に緊張して相互の民族主義的な感情は高揚するでしょうし、東北アジアの情勢不安と軍拡競争が加速化するものと憂慮されます。
 一方、7月3日には、日本に対する歴史・領土問題で共同歩調を摸索してきた中国の習近平国家主席が韓国を訪問し、共同声明には明示されませんでしたが、日本の右傾化に対する共同対処などを協議しました。

東北アジアは今、激動の時期をむかえています。去る30余年間に高度経済成長をしてきた中国が、アメリカと共に二大経済大国として浮上しています。中国のGDPが2020年頃には、アメリカを追い越すだろうと展望されています。経済力の強化は軍事力の増強を伴うことになり、中国の国際的影響力も拡大するでしょう。

その反面、アメリカが唯一の超大国として一方的に国際秩序を導いた時代は徐々に終わらんとしています。行き過ぎた軍事拡張によるアメリカ経済の衰退が、国力の相対的低下を招いたのです。だが、アメリカは今後も相当の期間、軍事・科学技術・文化分野において中国に対する相対的優位を維持することでしょう。

アメリカは2012年頃から、アメリカ経済の再建と世界的規模での覇権を再構築するために「アジアへの回帰」を宣言し、アジア・太平洋における再均衡(リ・バランス)戦略を推進し始めました。安全保障の側面では同盟強化を通じて中国が軍事的に膨脹する可能性を牽制し、経済的な側面では「環太平洋・経済パートナシップ協定(TPP)」を締結して中国の経済的影響力の拡張を遮断することで、アメリカの経済的利益を増大し覇権を維持しようとするのです。

このような再均衡戦略の中心には、核心的なパートナーである日本との同盟強化が位置しています。深刻な財政難に陥ったアメリカは、日本を前面に押し立て、中国の海洋進出を監視し牽制しようと思っています。それで、日本の軍備増強と集団的自衛権の行使を支持しているのです。

アメリカの再均衡戦略に後押しされた安倍首相と執権勢力は、平和憲法の改正を目指す一方で、去る60年間にわたり維持してきた専守防衛の原則を捨て、集団的自衛権の行使と再武装を推進しています。このような情況を背景に、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」を主唱し靖国神社を参拝しました。そしてナショナリズムが極度に煽られ、歴史修正主義と領土紛争が激化しています。しかし、平和憲法改定に反対し平和を愛する日本国民とアジア諸国民の声が、ますます高まっています。

現状況における米・中の二大国構図を、冷戦の復活と見るのは正しくないでしょう。米・ソ冷戦は東西両陣営の間に「鉄のカーテン」を下ろし、経済的・文化的関係がすべて断絶された状況でイデオロギー対決と核兵器競争、および際限のない軍拡を特徴としていました。これとは違って米・中の戦略的関係は、経済・文化分野では平和的な競争と協力を維持しつつ、政治・軍事分野で互いに牽制し葛藤する様相を見せているのです。

中国は「新しい形態の大国関係」樹立を主張します。歴史的に見る時、既存の覇権強大国と浮上する新生強大国間には摩擦と衝突が生まれ、ついには戦争を招来したものです。中国が主張する「新しい形態の大国関係」とは、超大国アメリカと新生強国中国が互いに相手の核心的な利益を侵害することなく協力しながら、平和的に共同繁栄を追求する関係を発展させようというものです。過去の失敗を教訓とし、「ウィン・ウィンの新しいモデル」を作ろうとするのでしょう。中国はアメリカとの軍備競争と武力衝突、そして戦争を回避しようとしています。ただし、アメリカの軍事的な威脅に対応するのに必要な尖端武器の開発は推進する、という立場なのです。

ヘンリー・キッシンジャーは彼の著書『中国論(On China)』で、米・中関係が勝敗のゲームになってはいけないと警告しています。「アメリカと中国は、互いに相手によって支配されるにはあまりにも巨大で経済強国だ。どちらも、戦争や冷戦時代のような形態の紛争で勝利することはできない。...相互補完的な利益を追求し、共同の繁栄発展を目ざさなければならない。」として、“共進論(co-evolution)”を提唱しました。彼はアメリカの反中ブロック形成の企図は成しないと看破し、太平洋共同体の形成を主張しています。

協力的な米・中関係は東北アジアに祝福をもたらすでしょうが、対決的な米・中関係は災難でしかありません。‘米国と日本そして中国が互いに威脅となり対決が不可避だろう’と誇張してはならず、歪曲された判断による不信と葛藤によって不幸な事態を引き起こしてはなりません。このような事態を予防するためには、東北アジア地域において安保協力をもたらす平和共同体の形成が緊要だと考えます。

-転換期を迎える韓国の立場-

東北アジアの平和に向けた韓国の課題は何よりも、激動の時期に対処できる正しい立場と戦略を確立することです。韓国には二つの考え方があります。一つは、「歴史的に中国が強大になると、朝鮮半島の地政学的な位置によって威脅になる」という警戒論に基づき、今まで持続してきた韓米安保同盟を引き続き維持・強化しなければならないという立場です。 他の一つは、「誇張された中国威脅論に惑わされることなく中国の影響力拡大を現実として受け入れ、アメリカだけでなく中国とも良好な関係を維持すべきだ」という立場です。

昨年度の韓国と中国の貿易規模(2300億ドル、香港を含めると2700億ドル)が、韓国と米国・日本両国との貿易を合わせた規模(2000億ドル)よりも大きく、私たちの貿易赤字を埋めるのも対中国貿易黒字(600億ドル)です。韓・中貿易と経済協力は引き続き増加する趨勢にあり、中国はもはや韓国にとって分離できない最も重要な貿易パートナーなのです。それだけでなく中国の北朝鮮に対する影響力と、東北アジア地域において中国が占める安保側面での位相を考えるなら、中国との関係の重要性は今後も増大していくことでしょう。

二つの強大国の間で選択を強要される立場ですが、韓国はすでに‘韓米同盟を維持しつつ中国とは戦略的協力パートナー’という局面に入っています。二つの強大国の間で択一するのではなく、バランスを維持しようとするのです。つまり、韓米同盟が中国の威脅になってはいけないし、中国との協力関係がアメリカを排斥する結果になってもいけないという立場です。

また、韓国は安全保障面での自律性を増大させつつ均衡外交を展開し国益を増大させながら、一方ではアメリカと中国の葛藤解消にも寄与しようとするのです。これが朝鮮半島はもちろん、東北アジアの安定と平和につながる条件を造成するだろうと考えるわけです。

-朝鮮半島の平和体制構築-

東北アジアの平和に向けた韓国の最も重要な役割は、朝鮮半島の平和体制を構築することです。朝鮮半島の平和なくして、東北アジアに平和が訪れることはありません。

朝鮮戦争の砲声が止んで60年になります。しかし、今だに戦争が終結しない状態の軍事停戦体制下で敵対関係を維持しているのが、朝鮮半島の悲しい現実です。アメリカ、中国、日本、ロシアと朝鮮半島の南北が「9.19共同声明」(2005年)を通じて合意したように、関連当事国(アメリカ、中国、韓国、北朝鮮)の平和会談を開催して、軍事停戦体制を平和体制に転換していかなければなりません。

韓国が北朝鮮と力を合わせて4者平和会談の開催を推進し、主導していかなければならないのです。そのためには、行き詰まった南北関係から改善しなければなりません。南と北は「6.15共同宣言」の遵守・履行を確約し、交流・協力を活性化して相互の信頼を築くべきです。‘先・核解決、後・平和’ではなく、両者を並行して推進しなければならないでしょう。

4者平和会談は、朝鮮半島の平和を保障する実質的な措置を討議する場です。例えば、南北の対決関係と朝米の敵対関係を解消し、相互の関係正常化と非核化、政治・軍事的な信頼構築措置と軍縮、そして外国軍の駐屯問題解決などを推進する平和プロセスを通じて、冷戦構造を清算し朝鮮半島の平和体制を構築していくのです。

朝鮮半島問題が米・中の葛藤と紛争の口実にならないよう、軍事停戦体制を平和体制に転換する努力を急がねばなりません。朝鮮半島の平和体制構築への努力を通じて、東北アジア平和共同体の形成にも寄与できるでしょう。韓国は、東北アジアの安定と平和に実質的な寄与となる「地域平和共同体」の形成に率先して寄与すべきです。

アメリカと中国がともに韓国との協力強化を必要とする状況なので、韓国はアメリカと中国の間で架橋としての役割を遂行できるでしょう。まず、韓・米・日3カ国の北朝鮮との関係改善が緊要です。このような意味で最近の、日本と北朝鮮の関係改善に向けた努力を評価します。良い結実を結ぶことになるよう期待しています。

-東北アジア3カ国の協力-

韓・中・日の3国は歴史的にも地理的にも極めて密接であり、必然的に親しく交わるしかない関係です。東北アジアは力動的な経済圏として登場しており、世界経済の成長を牽引する主役として、共同繁栄を先導するチャンスを迎えています。3国が葛藤と対立ではなく、協力を通じて共同の繁栄と発展を指向していくべきです。韓国は日・中の間で促進者の役割を担当しなければならないでしょう。

韓・中・日の3国はすでに定例化している「3国首脳会談」を効率的に運営し、2011年秋、その傘下としてソウルに設置した3国協力事務局を活性化することで、共同の関心事項を協議し解決することができるでしょう。3国は経済分野での協力関係を強化し、民間交流と文化交流を増進することで、歴史・領土問題、域内安保および外交問題などを対話と交渉を通じて克服していかなければなりません。まず、韓日関係から速やかに回復することが緊要です。

韓国と日本はアメリカの同盟国ですが、米・中関係を安定させる方向で寄与することが、関係国すべての利益になるでしょう。韓国と日本は力を合わせて、政治的には米・中の間で架橋の役割を遂行する一方、経済的には東北アジア経済共同体の形成を主導し、更には東北アジアの安保協力に向けた平和共同体の形成をも先導しなければなりません。

最後に、日本の平和憲法第9条と関連して一言申し上げようと思います。植民地支配と侵略戦争を体験したアジアの人々にとって、平和憲法第9条は、過去歴史に対する反省と、過ちを繰り返さないとする戦後日本国民の真摯な決意として受け入れられてきました。その意味で第9条は、日本国民がアジア民衆の信頼と愛情を受けるための資産となっているのです。

しかし、第9条を変更しようとする動きに対してアジアの民衆は、地域の平和と安定に深刻な威脅になると憂慮しています。また、最近の事態によって、日本国民には自らの過去を正しく認識し、謙虚に反省する決断が不足しているのではないかと、疑念を抱くようになりました。

東北アジアの平和に向けた日本の役割は非常に重要です。日本はまず、平和憲法第9条を守ることによって自国の安保はもちろん、東北アジアの平和と安定にも寄与できるでしょう。平和を愛するアジアの民衆は、日本が‘平和主義を貫徹して国際社会に寄与する国’になることを、切に願っています。

私は、平和憲法第9条を守ろうとする道徳的勇気を持って闘争する、平和を愛する数多くの日本の民主市民に心からの敬意を表し、熱い激励の拍手を送リたいと思います。

ご清聴、ありがとうございました。(訳責:康宗憲)