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朝鮮半島の軍事情勢(2) -無人機の“脅威”

2014年04月19日 | 三千里コラム

三陟で発見された無人機(4.6)、下は一般的なラジコン機の墜落機体。



韓国国防部は4月11日、先月から発見されている3機の小型無人機に関する調査発表を行った。国防部の報道官は「飛行体の特性や搭載装備を調査した結果、北朝鮮の素行を裏付ける状況証拠が数多く発見された」と明らかにした。だが、その一方で「より明白な証拠を確保するためには、科学技術的な追加調査が必要」と述べている。つまり、「状況証拠」はあるが、明白な「確証」を提示するには至らなかったようだ。

現在まで小型無人機は、3月24日に坡州(パジュ)、同31日に白翎(ペンニョン)島、4月6日に三陟(サムチョク)と、韓国北部地域で3機の墜落機体が発見されている。ただ、三番目の墜落機体は昨年10月に目撃されたもので、発見者の申告(4月3日)を受けた当局が、一帯を捜査して発見したという。

北朝鮮が無人機を侵入させたのなら、韓国政府は厳重に抗議し再発防止を約束させるべきである。だが、軍当局の報道内容を見ると、政府与党と保守メディアの過剰反応に引っ張られ、右往左往しているような印象を受ける。

最初(3月24日)の無人機発見に際して「特別な容疑点は見当たらない」と冷静に対応した当局が、二機目には「北朝鮮の素行」と方向を転換した。同時に、無人機の撮影内容に関しても「特定地域を撮影した形跡はない」が、「大統領官邸を集中的に撮影」と変わった。無人機の性能も「攻撃用としては性能不足」だった当初の発表が、朴槿恵大統領の叱責を受け「高性能爆弾を搭載すればテロ攻撃に利用可能」と、北朝鮮の脅威を強調するものとなっている。

一方、北朝鮮の対応はどうか。4月14日に国防委員会が声明を発表している。『無人機事件の“北素行説”は天安艦事件の複写版』と題したこの声明で、北朝鮮は一切の関与を否定し南北軍当局の合同調査を提案している。確かに、今回の無人機事態の経緯を見ると、2010年3月に発生した韓国哨戒艦「天安艦」沈没と類似点が少なくない。

類似点を列挙すると、①発生時期(6月初の地方自治体選挙を前にした3月末)、②当局発表内容の変貌(北の関与を疑問視⇒北の犯行と断定)、③調査結果をめぐる対立(北の関与否定と合同調査要求、南の拒否)、④韓国内部の葛藤と政府の強硬姿勢(調査内容への不信を表明する市民団体、政府の弾圧、対北制裁措置による南北関係の悪化)、などである。

長期間の分断により、南北間(政府・民間を問わず)には深刻な相互不信と敵意が根付くようになった。また、韓国の世論は政府の強硬な対北政策に影響されがちだ。李明博政権以降、現政権の下でも南北の民間交流は極度に制約されており、金大中・盧武鉉政権のような往来を通じた相互理解の深まりは期待できない。最近の世論調査結果から20代の対北認識を見ると、26.6%が「隣人」、27.6%が「敵」、14.1%が「同じ民族」との解答だった。北を敵視する比率は、20代がどの世代よりも高かったという(4月8日付『プレシアン』)。

今回の無人機騒動でも、新聞社やテレビ局には「北の無人機は本当に脅威なのか?」と、問い合わせの電話が殺到したそうだ。しかし、これは些か的外れの質問だろう。北を「敵」と規定する南の国家保安法体系では、無人機だけでなく、北に存在するすべてのもの(領土、資源、人口...)が「脅威」であるしかないからだ。だから、冷静に「核兵器や弾道ミサイルなど、既存のものに比べてどれぐらいの脅威なのか?」を問うべきである。

では、今回発見された無人機の性能を基に、その“脅威の実態”を探ってみよう。先ず、航行距離である。無人機は全長1.22m、両翼幅1.93m、重量15kgで、機体下部に撮影カメラが装着されている。韓国国防部は無人機の航続距離を180km~300kmと発表したが、“脅威の増長”というプレッシャーのためか、やや誇張が過ぎたようだ。

韓国の最先端無人機(韓国航空宇宙産業株式会社の製品)ですら、飛行半径が80kmである。また、韓国陸軍に配備されている無人機「ソンゴルメ」は、全長5m、幅6.5m、時速150kmで作戦半径が100kmだ。これに比べはるかに小型で性能の劣るエンジンを搭載するしかない無人機が、300kmを航行するというのだ。航空部門の専門家ではない筆者にとって、解明できない疑問である。

次に、搭載カメラの性能に関して。撮影された写真を分析した結果、その解像度は私達がインターネットで検索できるグーグル・アースの解像度にも及ばないレベルだという。偵察目的の無人機と見るには無理があるようだ。

最後に、兵器としての攻撃能力について。保守メディアは「高性能爆弾・生物化学兵器・小型核爆弾などを搭載すれば恐ろしい武器になる」と脅威を強調し、国民の恐怖心を刺激している。しかし、この種の無人機がカメラの代わりに搭載できるのは、2~3kgのTNT爆弾ぐらいだろう(4月8日、国防部報道官は軍事的な意味がないと言明)。ちなみに、弾道ミサイルに装着される爆弾は500kg~1000kgだ。

以上の比較分析から、無人機を“新たな脅威”と規定するには、かなりの論理的な飛躍が必要と言えるだろう。何よりも、今回の無人機騒動と公開された墜落機体の写真を見て、筆者が最初に抱いたのは、「なぜ3機とも無傷の状態なのか?」という素朴な疑問だった。

サイズから判断すると、無人機は巷で見る「ラジコン飛行機」に毛が生えた程度の大きさであろう。軍当局の発表では飛行高度が1.4kmだという。その高度から墜落した軽量の無人機が、いかに落下傘の開いた状態であったとしても、平地や山岳地帯に墜落して機体に全く損傷がなかったのだから、まさに奇跡である。専門家は、どのような好条件であっても軽量無人機は、墜落時にプロペラの損傷が避けられないという。ならば、考えられる結論は二つだ。北朝鮮の無人機製造技術が我々の想像をはるかに超えるレベルであるか、もしくは、誰かが発見場所に無人機を安置したか、である。

「北の素行」を充分に立証できない状況であるが、無人機がもたらした心理的な側面に着目せざるを得ない。「北朝鮮=主敵」という既存の分断思考に、「無人機=新たな脅威」という恐怖の結合は、韓国民に国防態勢の強化を受容する絶大な心理効果をもたらした。国防部は今後、軍事境界線付近に低空レーダー網の整備を図るという。

分断の軍事対峙は時として、笑止千万な愚行を正当化する。3月31日、朝鮮半島の西海島嶼で展開された南北海軍の砲撃演習は、三国志の「赤壁の戦い」を想起させるものだった。映画「レッドクリフ」に描かれたように、弓矢の不足から劣勢だった蜀・呉軍は諸葛孔明の誘引策で囮の船を浮かせ、曹操の魏軍に大量の弓矢を発射させる。結果として魏軍は弓矢を消耗し、蜀・呉軍はその弓矢を再利用した。

2010年11月23日、北からの延坪島砲撃を受けた韓国軍には、それ以後、3倍の砲弾で報復せよとの命令が下されている。半沢直樹も真っ青な「3倍返し」である。3月31日、北から100発の砲弾が南側に発射された。南から300発が応射されたのは言うまでもない。南の砲弾は価格において、北よりもかなりの高額であるという(4月7日付『統一ニュース』のコラム)。

無人機の侵入を探知するために韓国軍が低空レーダー網を整備するには、膨大な予算が必要となる。4月8日付『オーマイニュース』によれば、その規模は最少でも約2000億ウォンに達するという。一方、「北の素行」と推測される無人機は1機当たりの価格が、せいぜい1000万ウォンである。3千万ウォン足らずの費用で相手をパニックに陥れ、2千億ウォンもの国防出費をさせるなら、極めて効率的な「非対称戦略」であろう。しかし、こうした事態が民族分断の嘆かわしい所産であることは、再論するまでもないだろう。

南北の政府当局に課された歴史的使命は、民族内部の不毛な消耗戦を中断し、平和共存に向けた対話と交渉を速やかに再開することである。北の合同調査要求を南は頑なに拒否しているが、再考すべきだと思う。合同調査が難航を極め双方が納得する結論には至らないだろうが、南北の軍当局が対座し、合同で無人機の調査を進めるだけでも意味があることだ。現在の緊張を緩和する何らかの契機になるかもしれないからだ。韓国国防部は朝鮮国防委員会の提案を拒否し、米軍との合同調査で「北の素行」を立証するという。4年前、天安艦沈没と同様の手順である。

当時、米韓合同調査が出したのは「北の魚雷による爆沈」という結論だった。直後に韓国政府は「5.24対北制裁措置」を発表し、南北関係を断絶した。日本の鳩山政権も「北の脅威」に対処する日米同盟の強化を掲げ、普天間基地の県内移設へと後退する。そして六カ国協議の再開を準備していた米朝対話も中断され、東北アジアの情勢は一挙に緊迫していったのだ。一連の展開を再現するとしたら、どの国も歴史の厳しい審判を免れないだろう。

「転禍為福(災い転じて福となす)」のためには、南北の当局が高位レベルの軍事会談を開くしかない。相手を刺激する軍事演習や挑発行為の中止に向け、真摯な交渉を開始することだ。2014年、韓国社会におけるキーワードの一つが「テバク(大当たり、大ヒット)」だ。年初の会見で朴槿恵大統領が発した「統一はテバク」というメッセージは、具体的な政策提案ではなかったが、韓国民に南北統一の意義を再認識させる契機となった。
 
無人機に関する南北の合同調査が実現し、それが関係改善への契機になるのなら、騒動の元になった無人機こそ紛れもない「テバク」だ。平和への第一歩が3千万ウォン。決して高い買い物ではないのだが...。(JHK)