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首相の人選が予告する朴槿恵大統領の政局運営

2014年06月14日 | 三千里コラム

新政治民主連合パク・ヨンソン院内総務の国会代表演説(6.12)


6月10日、朴槿恵大統領は新たな首相候補として、ムン・チャングク(文昌克)『中央日報』元主筆を内定した。大統領官邸の報道官は彼を「所信と原則に忠実なジャーナリスト」と高く評価した。しかし、野党や市民社会からは「セウォル号の惨事を克服し、広範な国民世論を収斂すべき現政局には不適切な人事」だと、強い懸念が表明されていた。

というのも、主筆として在職した当時、彼は極右保守の立場から煽情的なコラムを数多く執筆していたからだ。とりわけ、盧武鉉元大統領が自死した2009年5月26日のコラムでは、「国家の最高指導者だった人間が自殺という誤った選択をした。葬儀の手続きもその点を考慮すべき」と述べ、国民葬にも反対している。また、金大中元大統領が病死した同年8月にも、「数千億ウォンに上る資金疑惑(南北首脳会談時の対北協力資金に関する捜査:訳注)の真相を明らかにしないまま死亡したのは遺憾」と主張し、南北和解政策への敵意を隠そうとしなかった。

人事をめぐる騒動と混乱は毎度のことであり、朴槿恵政権のアキレス腱とも言えるだろう。特に、名目上の第二人者である首相の人選では、国会の聴聞会が大きな難関となっている。セウォル号惨事の責任を取り、チョン・ホンウォン現首相が辞意を表明して久しい。朴大統領は5月22日、最高検察庁の中央捜査部長から大法院(最高裁)判事に転じたアン・デヒ(安大熙)氏を次期首相に指名した。

だが、世論の猛反発を受け、一週間後には本人が辞退を表明している。大法院判事を辞め弁護士を開業した5ヶ月の期間に、彼が約16億ウォンという巨額の報酬を得ていたことが明らかになったのだ。いかに有能な弁護士とはいえ、月に3億ウォンを上回る(日収に換算して約100万円)高額収入は、「元最高裁判事への特別礼遇」という悪弊の産物にほかならない。

統一地方選挙を辛うじて乗り切った朴槿恵大統領は、新たな首相候補としてムン・チャングク氏を選択した。首相の人選は、大統領の政局運営を予測する試金石と言えるだろう。だが、国会での人事聴聞会を待つまでもなく、ムン候補に対する国民の評価は、6月11日午後9時のKBSニュースで既に下されたようだ。2011年に、彼が長老として所属する教会で行ったスピーチが、動画で放映されたのだ。内容の一部を紹介する。

「日本による植民地支配やその後の南北分断は、神の意志だった。1945年8月15日の光復も、独立運動の結果ではなく神の御心によってもたらされた。...わが民族の象徴的な特質は、その怠惰さにある。...日本が我々の隣国であることは、地政学的な祝福といえる。...1948年の済州島4.3事件は、共産主義者による反乱だ。...」

韓国社会における「親日・反共」勢力の根は深い。ムン候補の発言が決して特異なものではないだろう。だが、朴槿恵大統領が次期首相候補に彼を指名したことで、韓国市民は現政権の本質と正体を、これ以上はない明確さで認識するようになるだろう。

なぜ、このような人士を首相候補に選んだのか、当初は不思議でならなかった。しかし、あれこれ推測を巡らすよりも、政権中枢部の思考回路をあるがままに辿ることで、筆者は単純明快な結論に到着した。ムン候補の歴史観や民族意識、あるいは政治的な見解が問題になるとは、朴槿恵大統領をはじめ誰一人として考えてもいなかったのだろう。現政権の中枢部とムン候補は、「親日・反共」の固い絆で結ばれた同類なのだ。

ムン候補はKBSニュースが“意図的な編集で立場を歪曲した”と抗議し、“すべて聴聞会で明らかにする”と声を荒げている。あくまで、“首相に相応しい人間”と自負しているようだ。大統領官邸も事態の推移を見守るだけで、これといった対策を講じていない。首相候補の相次ぐ落馬という醜態は、なんとしても避けたいのだろう。

だが、根源的な問いかけを国民にせねばなるまい。

日本の右翼が感激の涙を流したくなるような輩を、大韓民国の首相として承認するのか?
このような愚か者を首相に任命する政治家を、大韓民国の大統領として承認するのか?

読者諸氏の不快感を些かなりとも癒やす意味で、6月12日、新政治民主連合のパク・ヨンソン院内総務が国会で行なった代表演説を紹介する(同日付『聯合ニュース』の記事から抜粋、JHK)。


パク・ヨンソン、南北首脳会談の開催と統一特別委の設置を提案

新政治民主連合のパク・ヨンソン院内総務は12日、南北首脳会談の早急な開催を促した。同時に、平和統一に向け国会内に「統一特別委員会」を構成するよう提案した。

パク院内総務はこの日、国会の交渉団体代表演説で「今こそ私たちの未来と希望を南北関係に求める時だ。南と北が和合すれば、素晴らしい機会が私たちの前に開かれるだろう。希望を遮る障碍を取り除かなければならない」と述べ、人道支援の再開と民間部門の交流・協力を主張した。

そして「7.4南北共同声明と南北基本合意書、6・15および10・4首脳宣言の基本精神に立ち戻るべきだ。また、北の核廃棄と朝鮮半島の平和協定、米朝間の信頼構築を内容とする2005年の9・19共同声明を蘇生させなければならない。そのためには対話が急務であり、速やかに南北首脳会談を開催するように促す」と表明した。

さらに「統一は朝鮮半島における安保面での不安要因をなくし、民族が飛躍する契機となるだろう。国会の次元でも、平和統一を準備するための真剣な努力を始める時期になった」と強調し、特別委員会の設置を主張した。

南北問題に関するコメントは配布された原稿にはなかったが、朴槿恵大統領の掲げる「統一大当たり(テバク)論」との差別化を試みたようだ。あるいは、進歩陣営が占有していた南北関係や統一問題に対し主導権を確保するための布石とも読める。

パク院内総務はムン・チャングク首相候補の発言を紹介した動画に関しても、「大韓民国の首相内定者なのか、日帝朝鮮総督府の官憲なのか分からないような話をした」と批判している。

そして、「このような人を首相に任命すれば国民がどう受けとめるのか、3.1節と光復節にどんな話ができるのか、先日亡くなった元慰安婦のペ・チュンヒさんがどう思うのか、朴槿恵大統領とキム・キチュン秘書室長は答えなければならない」と叱咤した。

引き続き「今回の事態は、大統領府の人事システム崩壊が続いていることを再確認する契機となった。大統領が半分の支持者だけで国家を運営するのなら非常に憂慮される。“半分だけの大統領”ではなく、“すべての大統領”になってほしいというのが国民の要求」と述べ、国家運営の基調を転換するようにくり返し促した。

パク院内総務はまた、「貪欲と規制緩和がセウォル号惨事の原因だった。われわれは今、韓国社会のパラダイムを根本的に変える歴史的瞬間に立っている。徹底した真相究明が国会における第一の課題であり、聖域なき調査を展開すべき」だと強調した。

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1 コメント

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二面性 (sangtae)
2014-06-16 11:32:19
朴大統領は歴史認識において「原則の女性」と思われているが、文昌克首相候補の人選は、彼女の二面性を如実に現している。
それに、文候補の主張を聴くにつけ、その品格のなさに唖然とする。
「いま、人間は侮辱される時代になっている」と、辺見庸は言っているが、弱い者に対する侮辱は継続し、屈服を強いている。
拝金主義に汚染された権力に、なにか期待できるだろうか。
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