星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

fortune cookies(8)

2008-11-23 10:41:03 | fortune cookies
 お経が終わり列席者は食事の用意された部屋に集まっていた。叔父が癌であることは周知の事実だったためか、また喪主母娘のあっけらかんとした振る舞いのためか重苦しい空気はそれほど流れておらず、むしろ何か他の行事のために親族が集まったような雰囲気だった。たまたま空いた席に座ろうとすると、横には実父の再婚相手とその子供がいた。さりげなく他の席に移ろうと思ったが、その女の子は「お姉ちゃんここどうぞ。」と屈託ない顔で私に席を勧めた。
「ありがとう。」
 私は反射的ににこりとしてその子の横に座った。
 必然的に私は小さな子供に食べものを取り分けたりあれこれと世話をしてあげることになった。私自身は何も食べる気がしなかったし、反対側の横に座った人は叔父側の親族なのか知らない人だったのでそれはそれで都合が良かった。
「美樹ちゃんは何年生なの?」
 子供に興味のない私は他に特に話題が思いつかずありふれた質問をした。
「5年生。」
 私はもっと下の学年かと思った。背が低いほうなのかもしれない。
「あたし背が低いからよく3年生?とか聞かれるんだ。」
 思っていたことを感知されたのか彼女は自らそう言った。実父も背が低いし、再婚した奥さんも痩せて小柄なほうだから仕方ないのかもしれない。私は自分が小学生の時のことを思い出した。私も背が低くていつも何かで並ぶときはいちばん前だった。
 私は隣でお寿司や唐揚げを食べている女の子をちらちらと見ながら、見ればみるほど自分の小さい時にそっくりだと思った。これでは傍で見ている他人は、私達は年の離れた姉妹か、えらく若い時に子供ができてしまった親子かに見えるだろう。私がもし、今の両親の養子にならずに実の父と暮らしていたら、この子とは同じ屋根の下で暮らしていたのかもしれない。そうしたら案外この子はこんな風になついていたのかもしれない。だいたい年がうんと離れ過ぎているのだから、私達は良好な関係を持てただろう。
「お姉ちゃんはどこに住んでるの?おばちゃん家にはいないよね?」
「お姉ちゃんはひとりで暮らしているのよ。おばちゃん家だとお仕事に通うのに遠いからね。」
「そうなんだ。いいなあ。あたしも一人暮らししてみたいなー。」
 この子に私はどういう存在として映っているのだろうか、とふと思った。お父さんの前の奥さんの子供、ということをきちんと説明してあるのだろうか。それともおばちゃん家のお姉ちゃん、としか言っていないのだろうか。私はまじまじとこの子を見たが何も深いことは知らないような気がした。その時携帯が振動しているのに気が付いた。信次が葬儀場の外まで迎えに来ていた。
「お姉ちゃんもう帰らないといけないから。ごめんね。」
美樹ちゃんは一瞬寂しそうな顔をして「お姉ちゃん明日も来るの?」と聞いてきた。
「来るよ。」
「じゃあ明日ね。」

 私は叔母と従妹に挨拶をし、両親にも一応声を掛けてから外に出た。母親は、家までどう帰るのか、もうちょっと待って誰か親戚の車で駅まで乗せていってもらえば等としつこくくい下がったが、私は家で少しやらなければならない仕事があるからとか何とかごまかして、早く家に帰らなければならないのだと言い訳した。外は先ほど来た時よりもぐっと気温が落ちていて、もう秋も終りになるという感じがしていた。葬儀場の門のすぐ外に信次の車は停まっていた。私が乗り込もうとすると門から車が一台出て行った。プッとクラクションを鳴らして出て行ったところを見ると、誰か知り合いだったのかもしれない。
「お疲れ。」
 信次は私が車に乗り込むとそう言った。
「行きも帰りもありがとうね。今日は用事が・・・なかったのじゃないの。」
 車は静かに走り出した。夜だから1時間ちょっとで着くのだろう。
「夕方からちょこっと娘を見てたけど。もうあれが帰ってきたから。」
 信次は別れた奥さんのことをあれ、と言うのだった。
「そう。」
 私は信次の車に乗るとほっとして、急に疲れがどっと出てきた。
「今日はそのまま、泊まっていくよね。」
 ちらと横に座っている信次の顔を覗き見た。
「そうだな。」
 私は安堵した。これから一人であのアパートに帰って寝るのかと思うと、急に寂しい気分になってしまいそうだった。

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