星を見ていた。

思っていることを、言葉にするのはむずかしい・・・。
良かったら読んでいってください。

自然にそうなってしまっていたこと

2007-02-10 21:03:00 | 読みきり




人通りの多い道から、ちょっとそれて鳥居をくぐると、そこにはひっそりと神社があった。参道には私たち以外、ほとんど人はいない。曇り空の下、冬の空気がぴんと張り詰めている。


私は足元の砂利が、歩くたびに、ざっ、ざっと音を立てるのを聞いていた。その横で、手を伸ばせばなんとか届くけれど、でも決してぶつからない程度に距離を開けて、彼は歩いていた。二人分の、砂利を踏みしめる音がする。それ以外の音が、何もしなかった。都会の真ん中にあるこの神社は、こんもりとした木々に囲まれている。その木々が周りの騒がしさをすっかりと遮断して、この小さな世界には、まるで二人しか存在しないかのようだった。

2月中旬の東京は、とても寒かった。Pコートに、ぐるぐるとマフラーを巻いて、ジーンズの下にブーツまで履いているのに、芯から体が、冷えていきそうだった。静まり返った境内が、さらに寒さを助長するかのようだった。彼はダッフルコートを着て、やはりマフラーを巻いてジーンズを履いていた。広い境内をぐるっと散歩して、それからおみくじを引いた。けれども、それが何だったか、今ではさっぱり憶えていない。そのおみくじを木に結わえて、それからまた歩きだした。

手がとても寒かった。手袋をしていない両手は、自分でこすっても冷やっとするほど冷え切っていた。半歩前を歩く彼は、ダッフルコートの大きなポケットに、手を入れていた。私はそのポケットを、じっと見つめる。

今日までの過程を、繰り返し考える。初対面の男の人から、電話番号を聞かれることはあっても、自分からメモを差し出して、良かったら掛けて、と言われるのは初めてだった。気が付いたら、電話していた。そして、今日、こうして又会った。

両手を合わせて口元に持っていく。はあ、っと息を吹きかけても、ちっとも温まらない。私はずっと、彼のポケットを凝視している。そして、ポケットの中の手の大きさを、温かさを、想像していた。

考えていたら、もう我慢できなくなった。次の瞬間、私の右手は彼の左ポケットに入っていた。まるで自然にそうなってしまったかのように、手と手が重なった。ポケットの中は、私の想像したとおり、温かさで溢れていた。温かくて、大きな手が、ぎゅっと冷えた手を包んでくれる。

何も音はしない。でも、もう、寒くない。



photo by web-mat さん

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コメント (4)
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