どうぶつ番外物語

手垢のつかないコトバと切り口で展開する短編小説、ポエム、コラム等を中心にブログ開設20年目を疾走中。

自薦ポエム58 『春秋のマンシュウアヤメ』

2020-11-21 00:00:00 | ポエム

どこで遇ったのだろう

この紫とは・・・・

時代も場所もはっきりしないが

なぜか脳の中枢がシクシクするのだ

 

むらさき地に楚々とした白を配して

花町の匂いが嗅覚器をゆする

戦前に花開いたアヤメの系譜なのか

それとも香を焚きこめた裾のそよぎか

   

満州あやめの咲く暇もなく

街から赤線の灯は消えた

消え残った灯火の名残りが

この紫だったのか

 

郷愁に駆られて洲崎をめぐったが

格子戸の奥から顔をのぞかせたのは

年老いた「あがりの女」ばかり

軒先には呆けたタンポポが風待ちしていた

 

なんとでも言うがいいさ

欲望は時代をこえて素っ裸

赤い蹴出しを隠そうが

むらさきの帯をタンスに収めようが

 

あっけらかんと春が来て

マンシュウアヤメが草地を覆うとき

化粧の残り香が風に乗る

引き攣る花弁の微かな憂いも・・・・

 

ああ 中枢がシクシク痛む

マンシュウアヤメの記憶が痛む

 

 

(『春秋のマンシュウアヤメ』2015/11/21より再掲)


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2 コメント

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Unknown (たか)
2020-11-21 20:52:30
艶っぽく来ましたね。

あの時代は随分、遠く彼方にいってしまいました。
小浜だったか今は聴く事の無い三味の音が
格子戸の向こうから聴こえて来た様な・・・あれは幻聴だったのかな。
不気味なほど静かすぎる夜の花街でした。
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小浜の花街 (tadaox)
2020-11-21 22:34:40
(たか)さん、こんばんは。
たかさんのブログを読ませていただきました。
旅行で立ち寄られたんですね。
興味深いレポートで、調べたら北前船で栄えた本格的な花街なんですね。
ほんとに、三味の音が聞こえてきそうな写真で、素晴らしかったです。

ぼくは、『折れたブレード』という小説で、金沢のひがし茶屋街や主計町茶屋街を舞台にしたことがあり、ことのほか近しさを感じました。
今回の詩は、深川の洲崎ですが、倫理的な観点とは別に、そこで生きた人びとの喜びや悲しみが、当時はまだほのかに残っていて、根源的な哀しみを感じたのでした。
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